なんてことない非日常 -30ページ目

なんてことない非日常

スキビ非公認二次創作サイトです。
駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

§ルートX    55






 祥子はただただ唖然として、目の前の状況を眺めた。



「あんた何仕事ほっぽってうろついていたのよ!?」



「うるせえ!お前に関係ないだろ!?」



「こっちだって係わり合いになりたくないわよ!」



「あ・・・・・・あの~・・・・もうケンカは・・」



言い合う尚とキョーコに挟まれて、困惑気味で声を上げた百瀬の存在に祥子はようやく気づいた。



「え・・・っと・・キョーコちゃん・・たちも・・・仕事で?」



軽井沢で会うことなど想定もしていなかったのか、祥子はただただ何度も瞬きを繰り返して今の状況を何とか理解しようとしていた。



「私たちは『Deark Moon』の撮影で今日ここに着いて散歩していたんですっ・・そしたらこんなゴミを拾うことになるとは・・・」



「ああっ!?ゴミだと!?俺の憩いの時間に割り込みやがって」



「あんたの方こそ、勝手に勘違いして人の肩を思いっきり掴んだんじゃないの!」



キョーコが蓮とした電話の内容に落ち込んだことを知らずに、たまたま通りかかった尚が百瀬の声を聞きつけて肩を掴んだのだが顔を上げたキョーコは尚の登場に驚いたもののすぐさまあらか様に嫌な顔をしたため一気に険悪な空気になったのだった。



「と、いうことでこの放蕩息子お届けにあがりました」



「放蕩息子じゃねえ!!」



尚とキョーコの言い合いに、祥子は痛そうにこめかみを押さえ百瀬はひたすらオロオロしていた。



「大体、祥子さんコイツに甘すぎです!こんな風にフラフラしていたんじゃせっかくのレコーディングスタジオも迷惑っていうもの・・」



「キョーコちゃん!尚を送ってくれてありがとう!でも、今回はいつもとは違うっていうか・・・あのね?」



「祥子さん、コイツ部外者」



いつもよりもずっと冷たい尚の言葉に、祥子だけでなくキョーコも息を詰めた。



「あ・・・そ・・そうね?・・・じゃ・・じゃあ、ごめんなさいね?」



スタスタと挨拶もなく姿を消す尚に憤りを感じたキョーコは、引き連れてきてしまった百瀬に頭を下げた。



「ごめんなさい・・・百瀬さんまで巻き込んでしまって・・・」



「ううん、こんなことでもなければ有名なレコーディングスタジオを見学できないだろうし」



笑顔でそう言ってくれる百瀬に、キョーコは申し訳なさそうにしながらも小さく笑顔を作った。

そんなキョーコに気を使わせないように先を行く百瀬の後を追って、一般開放されているギャラリースペースを歩いた。



「へえ・・・こんなところで会うなんて・・・君は俺のストーカー?」



ひんやりとした高原の風のような声が背後から聞こえてきて、キョーコはギっと足を止め勢いよく振り返った。



「あ・・・んた・・・ビーグル・・・」



にやりと笑みをつくり、レイノは目を見開くキョーコを間近に見下ろした。



「な・・んでここに・・・」



キョーコの問いにレイノは、小馬鹿にしたように鼻で笑った。



「俺たちも一応ミュージシャンだからね?」



「・・・あれでミュージシャンなんだ・・人の真似しているだけなのに?」



「真似されただけでファンを取られるなんて、不和もたいしたことがない」



「そんなことないわよ!!」



レイノの言葉にキョーコは咄嗟に大声を上げていた。



「京子さん?」



その声に百瀬が戻ってくる気配がすると、レイノは意味深な視線を投げてキョーコの元から去っていった。



「京子さん?誰かいたんですか?」



既に姿がいないレイノの後姿を見送っていたのか、呆然としたキョーコに百瀬が一生懸命はなしかける声が廊下に響いたのだった。



***********



「あれ~?レイノ君、どこいってたの?」



ビーグールのメンバーが戻ってきたレイノにそれぞれ声をかけてきた。



「もしかして美女の幽霊を口説いてたとか!?」



「ああ・・前も人妻美人幽霊をナンパしてたんだろ?」



「今度も超絶美女?!」



口々に何かを期待して話しかける面々に、意味ありげに微笑んでドカリとソファーに腰を下ろした。



「なんだ?ずいぶんご機嫌だな?」



ミロクにそう話しかけられると、レイノは喉の奥を鳴らして愉しそうに嗤った。



「ああ・・・いいおもちゃが見つかった」



そう言ってまた嗤うレイノの声が聞こえたような気がしたキョーコは、ぶるりと身を震わせたが直ぐに頭を振って今日泊まるホテルへ百瀬と足早に戻るのだった。





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†Marriage end bule   3





 『え~ん・・え~ん・・』



小さな女の子の泣き声がする。



『だれか~・・・だれか~』



泣き声がする方向は自分の上のようだ。

キョーコは女の子の姿を確認するために、泣き声のする方向を見上げた。



『たすけて~・・おりられないの~!』



(あれは・・・・・私・・・)



木の上で枝にしがみつき、わんわんと泣いている。

まだ幼い時のキョーコは、フリルがたくさん着いたかわいらしいピンクのワンピースを纏いツインテールにした艶やかな黒髪を木の枝に引っ掛けてぼさぼさにして泣いていた。



(あ・・・・たしか、木の上に登って降りられなくなった猫を助けようとして・・でもそこに助けに来てくれた子がいて・・・)



するとキョーコ思っている通りに一人木の下に通りかかった。

見下ろしているキョーコは空気のような存在なのかその人物は気づかずに素通りする。

そしてキョーコにもその人物の顔はわからない。

ただ、キョーコよりも小さいことだけはわかり、相手も子供のようだ。



『・・・・降りられないなら、助けてあげようか?』



優しい声色。

男の子かも女の子かもわからない。

でも、キョーコはその子が誰だか知っている。



『ゆっくり木の枝にぶら下がって・・俺が下で捕まえてあげるから』



『こわいよ~!』



『大丈夫!俺を信じて』



『やだああ』



『俺は君の王子様だから・・王子様はお姫様を絶対に助けるだろ?だから俺は君を絶対に助ける!』



『・・・・・・おうじ・・さま?・・・ほんと?』



『本当!だから、俺を信じて』



下で待っている子供は男の子。

そう・・・キョーコは目を瞑った。

木の下には彼が待っている。


いつの間にか、キョーコの意識は幼いキョーコの中にあった。


恐々握っていた木の枝から体をぶら下げ、意を決して手を離す。

しばしの下降感。

そして小さな衝撃。

けれどちっとも痛くない。

なぜなら彼が助けてくれたから・・・。


いつも見る幼い頃の夢。

何度も見ている夢。



「ショーちゃん・・・」



抱きとめてくれた相手は目を開ければ、よく知っている幼馴染・・・・。

いつもの夢なら、そうだったのだが。



『キョーコ、お前の旦那様だ』



「!?クオン!!」



いつの間にか幼い姿ではなく、17歳のキョーコを青年の姿のクオンが抱きとめて意地悪くにやりと笑った。

するとあっという間に唇を塞がれた。



「~~~っ・・・い・・いやあああ!!」



バチリ

勢いよく目を開いたキョーコは、見慣れた自分の部屋の天井に安堵しながらも急速に心拍を打つ鼓動に

頭をくらくらさせた。



(・・・・なんて夢・・・・)



少し怖くて幸せな夢が、最低最悪な夢に成り下がってしまったことにキョーコは少なからずショックを受けた。



(・・・体・・おもっ・・・まだ暗いしもう少し寝て・・・)



キョーコはモゾモゾと寝返りを打った時、温かくて少し硬い壁にぶつかった。



「?・・・何でこんなところに壁?・・・・・・」



薄暗い部屋の中で、定まらない目を凝らしてよく見るとまるで人の胸板にそっくりな壁が目の前にあった。

回らない頭を使う前に、ぺたんと触れてみる。

触ると滑らかな大理石のよう。

けれど優しい温かさが伝わってくる。



「??・・・・・」



「・・・・くすぐったいんだけど」



ぼーっとする頭に飛び込んできた言葉は意味をなす前に音として耳に入った。

だから言葉の内容を理解する前に、低い声がするほうに視線を向けた。



「おはよう、俺の奥さん」



「&%$#!!!???」



叫び声をあげるまもなくキョーコの体を重くしていた腕が上にのったまま、掛け布団ごとクオンが抱きしめてきた。



「ぎっやあああああ!!!!」



「うるさ・・・・もう少し静かに寝てようよ」



「なにいって・・ぶふっ!」



叫び声をあげたキョーコの頭を抱え込むように抱きしめたクオンはしばらくしかめっ面をしていたがしばらくすると、健やかな寝息を立て始めた。


ひんやりとした冬の早朝の空気と、クオンのぬくもりが混じった優しい香りが勢いよく胸にうずめられた鼻から肺に入り込んでキョーコの体から力が抜けた。



(・・・・・・この香り・・・知ってる・・・?)



懐かしいような、酷く安心感を覚える感覚にキョーコの瞼が一気に重くなった。



(ああっ・・・だめよ・・・寝たら・・・・・・)



そうは思っても、寒い朝。

程よく温まったお布団の中。

包まれて、抱きしめられている心地いい重み。

そして・・・懐かしく優しい香りが体から力を奪いあっさりと眠りの淵に誘っていく。



(だめっ・・・だめよっ・・・・だ・・め・・・・なん・・・だ・・か・・・・ら・・・)



最後まで無駄な抵抗を試みていたのだが、結局キョーコはなぜここにクオンがいるのか問うこともできないままスースーと気持ちよさそうに寝息を立て始めてしまった。



「・・・・・・・・・あんまり簡単に寝られると少し凹むんだな・・・」



狸ね入りをしていたクオンがそんなことを呟いているなんて知らずに、キョーコは気持ちのいい2度寝を存分に味わったのだった。




***************




「!?」



いつもの目覚ましの音に、飛び起きたキョーコは自分のベッドと部屋の中を見回した。


けれどそこにはクオンの姿など全くなく、ぴょんぴょんと飛び跳ねる茶色く染めた髪を撫でつけることもしないで首を捻りながらベッドから降りた。



「・・・・夢?」



あまりにリアルだったような・・・けれどいつもの木の上から降りた夢と、同じベッドで寝ていた夢と混ざりキョーコは全てを夢と片付けようとした。



「あの人が夢に2階も出てくるなんて不本意だけど、現実よりはずっとまし」



そう自分に言い聞かせてもそもそと着替えようと、パジャマを脱いだときに背後から低い耳障りのいい声が流れてきた。



「何がましって?」



「!!?ぎゃあああああ!!!」



「・・・うるさいって・・・朝だろ?近所迷惑」



「だっ!?あなたっ!!?きがっ」



真っ赤になりながら、今しがた脱いだばかりのパジャマで体を隠したが姿見の前でそんなことをしても全く無意味だった。



「・・・・・もう少し下着は色っぽいものの方が嬉しいけど?」



にっこりと、何も知らなければ一目で恋に落ちてしまいそうなほど艶やかな笑みで微笑まれてもキョーコは背後の姿を鏡で見られていたことに色気も何もない声を口から出して部屋の隅に移動した。



「ぎゃあ!?そんなことあなたに言われたくない!っていうかそんなこと聞きたくないわよ!!」



部屋の隅っこにうずくまってプルプルするキョーコに、クオンは目を見開いた後ふよ・・・っと口元が緩むのを急いで拳で隠した。



「あ・・・・ごほっ・・・・・早く着替えて・・・急がないと遅刻する」



「へ?・・・・学校は明日からだけど?」



ただいま冬休み中の学校のことを、クオンのせいで忘れかけていたが何とか思い出したキョーコがそう言うとクオンが大きなため息をついた。



「はああああ・・・・君、俺が何のためにここに来たのか忘れてない?」



「・・・・へ?・・・」



目をぱちくりしているキョーコは、本当に何も思いついていないようだ。

そのことに、内心凹みながらもクオンはにっこりと微笑んで見せた。



「今日は、俺と君の結婚式なんだけど?」



ため息混じりにそう言われキョーコは、石になった。

・・・・いや、石になれたらよかったと心底願うのだった。




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§ルートX    54





 社は背後に感じる痛みに冷や汗を流しながら、引きつった笑顔で振り返った。



「・・・・・・・蓮く~ん・・・そんなに俺を睨んでも日程はずらせないよ?」



社が感じていた背後の痛みの正体は、蓮の目から真っ直ぐに伸びてくる針のような視線だった。


先にドラマロケのために軽井沢に行ってしまったキョーコと別れて、雑誌撮影のために沖縄を訪れていた蓮は終始イライラしっぱなしだった。



『ヘイ!レン!!・・どうした?欲求不満か?』



専属モデルを務めるアルマンディの撮影のため蓮以外のモデルは皆他国の者達だった。

そのため会話も必然と英語だった。



『・・・・まあね・・』



『!?おい!聞いたか!?レンが欲求不満らしいぞ!?』



いつも愛想良くしている蓮が酷く苛立っているのを、まるで鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立てるモデル仲間たち。

それに少々辟易しながらも、一気に蓮の周りに人が集まりだし質問攻めにされた。



『彼女にふられたのか?』



『いや・・・2日離れなきゃいけないだけ・・・』



『それだけで欲求不満か?!』



『俺にとっては死活問題・・・彼女の温もりがないと寝られない』



飄々と言ってのける蓮に、周囲から冷やかしの口笛が投げられた。



『そんなに大事なら首輪でも付けて、肌身離さず側に置いたらいいんじゃないか?』



少しきつめのユーモアは外国ならでは。

しかし、何とか聞き取れる社はあまりいい顔はできなかった。



『・・・確かに・・・首輪は必要だね?・・・でもそんなことをしたら、側にはいてくれなくなりそうだ・・・』



そう呟いて、ため息をつく蓮の表情は艶めいて妖しく周囲は感嘆の息を漏らした。



『まあ・・痕は付けてきたから、それがどれほどの効力を発揮できるかな?』



『マーキングか?・・・でも、あれは下手すると余計に周りを刺激するぞ?』



『・・・・・・・それは・・・困るな・・・・・』



キョーコにばれないように、けれど他の男共には立派な牽制として付けたうなじのキスマークがかえって他を刺激すると言われたら少し落ち着きを取り戻しかけていた不安がまた頭をもたげ始めた。



「・・・・だから!スケジュール変更するのは無理だって!!」



先ほどよりも強い視線を隣の社へ無言で投げると、そう泣き叫ばれ蓮は憮然とした。



「・・・・社さんが余計なことを俺に言うからですよ?」



最初の視線を浴びる前、うっかり社が口にした言葉が元々影を潜めていた蓮の不安を大きくしたのだ。

だからその責任を社に投げるのは当然とばかりに、蓮がそう口すると社は必死に言い訳をした。



「お、俺はただ・・軽井沢には有名なレコーディングスタジオがあったな~って思っただけで・・・このタイミングで『あいつ』がいて、キョーコちゃんと会うって言ったわけじゃないよ・・・そんな偶然、万に一つもないよ・・・たった2日でお前とキョーコちゃんとの関係が変わることなんかないって」



社がそう言えば言うほど、蓮の機嫌は悪くなっていく。



「・・・・もし・・・・その、万に一つが起きたら?・・・・運命ってことですか?・・・たった2日でも変わりますよ・・・劇的なことがあれば・・・・」



目つきを鋭くして、立ち上がった蓮に社も取り囲んでいたモデル仲間たちも心配そうに蓮を見た。



「・・・・・・向こうも着いたでしょうから、電話してきます・・・時間までには戻ってきますから」



少し固い口調で言い残した蓮は、これ以上構うなと言わんばかりのオーラを放ってその場から離れていった。

心配そうに蓮の背中を見送った社には、周囲の者達から労わりと励ましの言葉をもらい続けるのだった。




************




『コ~~~~~ンっ!?』



「・・・・・怒ってる?」



『怒ってる!』



胸に湧き上がった不安を拭うために、軽井沢に到着したであろうキョーコに電話をかけるとすぐさまドスの効いた声が聞こえてきた。



『あっあんなところにっキ・・・・マークつけて!『美緒』の衣装が首元を隠すものばかりでも、私の服はそんなものないんだから!』



「うん、だから俺のモノっていう印をキョーコちゃんの間周囲に見せてくれればいいだけだから」



怒り心頭のキョーコには申し訳ないが、ソレを見た周囲の反応を想像して蓮の機嫌は上向いてきていた。

しかし、次の言葉にその機嫌は一気に冷めた。



『・・・・もう見せません。貴島さんが悪目立ちするからって絆創膏貼ってくれたし』



「・・・・・・・・・・・・は?・・貴島君?」



キョーコの言葉で蓮の機嫌が、氷点下まで下がったなんて気づかずにキョーコは喋り続けた。



『今回はお仕事で来ているんですよ?それなのに・・・・・貴島さんに絆創膏張られた時、どんなに私が恥ずかしかったわからない?!』



「・・・恥ずかしい?」



ひんやりとした蓮の言葉が携帯から流れてくると、キョーコはようやく蓮の機嫌がすこぶる悪くなっていることに気づいた。



『えっ!?・・・っと・・・い、今のは言葉のあやで・・・・・』



「・・・・・でも・・・恥ずかしかったんだよね?」



『うっ!?・・・や・・ええっと・・・』



咄嗟に嘘をつけるタイプじゃないキョーコが、しどろもどろしているうちに蓮の堪忍袋はあっさりと紐を切った。



「あっそう、わかった・・じゃあ、撮影がんばってね最上さん」



プツっと勢いに任せて電源を切ってしまうと、蓮はそのまま踵を返して社の所に戻ってきた。



「あ・・お帰り・・・・・・・!!!??(なんでだ!?なんでさっきより機嫌が悪く!?)」



キョーコと会話した後なら、もう少し機嫌が回復するだろうと踏んでいた社の目論見とは真反対の結果に驚愕するしかなかった。



(キョーコちゃん!!?何を言っちゃったの!!?)



蓮から立ち上るブラックオーラに、社がどう対処しようか迷っていると横からやってきた人物が蓮に両手を広げた。



『アメイジング!!レン!なんていう気合だ!!その表情いいよ!!早速撮影をしたいがいいか!?』



なんだか勘違いしてくれたカメラマンのおかげで、着いて早々蓮は撮影を開始することになった。



『撮影が速く終わったら、日程ずらせますか?』



『もちろんだ!会いたい恋人が待っているのかい?』



カメラマンのその言葉に、蓮は酷くはっきりとした笑顔を見せた。



『彼女は待っていなくても、俺が会いたいんです・・・何が何でも』



『そ・・そうか・・・』



蓮の気迫に押されつつ、それでも表情が最高だと褒めちぎりながら急遽始まった撮影に社の胃がキリキリと音を上げ痛みを施すのだった。




****************



『ツーツーツーツーツー・・・・』



顔面蒼白で無機質な機械音を耳にしているキョーコに、百瀬はどう声をかけたらいいか戸惑っていた。



ホテルに着き、同部屋なのを喜んで荷解きをしていたキョーコの元に着信音が鳴り響いた。

バスに乗る前と同じ、般若の形相で電話に出たと思っていたら急速にキョーコの顔色が青ざめていったのだ。

何事かと思っていると、うろたえだしたキョーコがそのままフリーズしてしまった。



「きょ・・京子さん?・・今の・・敦賀さんから・・・ですか?」



恐る恐る尋ねると、驚きの表情でキョーコが振り返った。



「え!?コっ・・・敦賀さんからだって・・なんで?!」



「え・・・・つきあって・・・らっしゃるんです・・よね?」



「え・・・・・・」



しばしの沈黙の後、キョーコは耳まで真っ赤になった。



「え!?ええ!?なんっ!?バレっ!!?」



「・・・・・・・・・・・・」



物凄い動揺っぷりに、百瀬はしばし呆然とした。



「・・・・・ぷ・・・・・あはっ!あはははは!!きょ・・京子さん・・・もしかして・・あれで隠していたんですか!?」



急に大笑いし始めた百瀬に、京子は顔を真っ赤にしたまま固まった。



「バレバレですよ?」



「・・・・・・・ミタイ・・・デスネ・・・」



ふふっ♪と笑った百瀬にキョーコも、力が抜けたように笑い始めた。



「まあ・・・もっとわかりやすかったのは敦賀さんですけどね?」



「え?!・・・・」



「もう、『美月』を見る目が京子さんを見る目と一緒なんですもの・・・と、いうか京子さんを見た後に『美月』を見てるっていう感じかな?・・・だから、つい・・私の『美月』を後回しにするなんてって思っちゃって、あんなこと頼んだんです・・・・・・バスに乗る前この事謝っても京子さん普通だったから・・隠してないのかとおもいました」



「あ・・・あれは思わず・・・・あの・・別に隠しているわけではなくて・・事務所も知っていますし・・社長も・・・ただ・・・公にはしないでおこうって・・・」



「そうなんですね?でも貴島さんにもあっさりばれちゃっているみたいですし・・・」



「・・・・・・気をつけます・・・」



肩を落とすキョーコに、百瀬はクスクスと笑みをこぼした。



「でも・・・喧嘩したら駄目ですよ?」



「え・・うん・・・・喧嘩・・するつもりは・・・・なかったんだけど・・・」



ただ恥ずかしくて、思わず怒鳴ってしまったことにキョーコは反省した。



「じゃないと・・・ぐらついちゃうじゃないですか・・・」



「へ?何かいいました?」



百瀬の独り言は、沈みかけた思考のせいでキョーコの耳に届かなかった。



「ううん!何でも・・・その沈んだ気持ち、撮影には絶対持ち込んだら駄目ですよ!?」



急に女優の顔になって、真剣にそう言ってきた百瀬にキョーコは慌てて気持ちを切り替えた。



「は、はい!!絶対持ち込みません!!」



「よろしい!!・・・・・ぷっ・・」



「「あはははははは」」



まるで生徒と先生のようなやり取りがおかしくなり、二人は笑いあった。



「あ・・そうだ!撮影は明日からだし、この後夕食まで時間があるから散歩にでも行きませんか?」



「!!はい!行きたいです!!」



キョーコの返事に百瀬は笑顔で頷いた。

そして二人は仲良くホテルを出ると、わざと昔の情緒を残した林を歩いた。



「そういえば、軽井沢に有名なところがこの近くにあるんですよ?」



「!!もしかしてそれは清楚なお嬢様が住まうお屋敷ですか!!?」



急にメルヘンチックな思考全開で、顔を間近に寄せてくるキョーコに百瀬は若干引きながら苦笑した。



「違う違う・・・・レコーディングスタジオがあるの・・・『ウッドスティック』っていう・・」



「『ウッドスティック』・・・って・・・あの?」



キョーコがバンドのドラムをするようなポーズを取ると、百瀬は大きく頷いた。



「そう、それ。有名なバンドの人たちが多く利用しているから女性スタッフや他の女優さんたち軽井沢に来ることすごく楽しみにしているみたい」



「・・・へ~・・・そうなんですか・・・・」



「うん、同じ芸能人でも役者とミュージシャンって両方されている人以外接点ってあんまりないから・・・主題歌とかの関係で会う以外はね?」



百瀬の言葉を聞いているうちにキョーコは不安になった。



(・・・・もしかして・・・コーンはこの事知っていた?・・・だからってあんなのしなくてもっ・・・・)



先ほどの電話の会話を思い出して、キョーコはまた凹んだ。



「京子ちゃん?!具合悪いの?」



急に青ざめたキョーコの様子に、百瀬が慌てて顔を覗き込んだ。

それに俯いて小さく首を振っていると、急に肩を後ろから掴まれ無理やり顔を上げさせられた。



「気分悪いのか!?キョーコ!」



明るい日差しの下、色素の薄い茶髪に白く滑らかな肌が女性よりも綺麗で思わず嫉妬してしまうほどの美形を崩した表情でキョーコを心配する顔に目を見開いた。



「ショ・・・・なん!?」



「え!?不和 尚さん!?京子さん、知り合い?!」



百瀬よりもキョーコが驚きたいほど、そこにいるはずがないと思っていたショータローを目の前にしてただただ呆然とする他なかった。





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