§ルートX 57
「な・・・によ・・・それ・・・勝手に人の運命を繋げないでよね!?」
キョーコは、そう叫んでから失敗したと思った。
のぼせた頭に、自分の叫び声がズキリと痛みを呼んだからだ。
それでも叫ばずにはいられなかった。
この状況では・・・。
「キョーコ・・・なんでコイツと会ってるんだ?」
そうショータローが問うと、レイノは面白そうに同じような質問をした。
「キョーコ・・なんでコイツなんかとここで遊んでいるんだ?」
その言葉にショータローは、外面を作ることなく酷く苛立った顔でレイノを睨みつけた。
「・・・『なんか』・・・だと?」
「・・・お前はキョーコを弄んでいたみたいだからな?今更キョーコにかまうなんて随分未練たらしいことをするんだな?」
「っ!・・・・・俺はコイツの親も知っているんだ、お前みたいな怪しい奴にかまわれてコイツが翌日のニュースなんかに出たりしたら俺の寝覚め目がワリーんだよ!」
二人の男の言い合いに、徐々にギャラリーが遠巻きに眺め始めたのに気づきながらもキョーコは痛みが酷くなってくる頭を抑え二人を止める事ができないでいた。
「ちょ・・・人を勝手に事件に突っ込まないでよ・・・・」
「そうだ、キョーコは無理やりではなく自ら進んで俺の所に来る」
「それもありえないから!!・・・っつ!・・・・」
鬼のような形相でレイノの言葉を否定したキョーコだったが、叫んだのは本当に良くなかった。
痛みでクラリとし始め、思わず俯いたその時だった。
バサリと頭に大判のバスタオルが被せられたのだ。
「!?」
そしてその頭は温かい何かでぎゅっと抱えられた。
「ぜってーやらねえ・・・お前の所には」
タオル越しにショータローの声がいやに近く響いてきた。
頭も体も支えられてキョーコは身動きができないが、ふらつく体は素直にその支えに寄りかかってしまった。
するとその支えは、さらに強い力でキョーコを支えると移動し始めた。
「アンタにそんなこと言う権利があるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・ねぇよ・・でも、お前の所に行かせないようにさせることはできる」
「・・・・・・・・・・・・・」
レイノの声がくぐもって聞こえていたが、それが聞こえなくなった。
徐々にレイノから遠ざかっている事がわかり、キョーコは勝手に話を終えられて少し悔しいと思っていた。
けれど体調が万全でない今の状況ではいか仕方ないと、支えに連れられるままその場を後にしたのだった。
「お前・・・・ホント、バカだな?」
人気の途絶えた客室フロアーのエレベータホールで、キョーコはようやくタオルの中から解放された。
「何でよ!?」
「具合悪いならとっとと部屋に戻ればいいだろ・・・アイツの挑発に一々乗りやがって・・・」
図星を突かれたキョーコは一瞬押し黙ったが、意地になって口を尖らせ顔を背けた。
「ちょっと・・頭が痛くなっただけよっ・・・こっちはアンタたちの争いに巻き込まれていい迷惑なんだから!」
少し良くなったとはいえ、まだ痛む頭にキョーコは叫んだ後顔をしかめた。
「ばーか・・・ちょっと待ってろ」
エレベーター近くにある自販機に小銭を入れると、ショータローはスポーツドリンクのボタンを押した。
ガチャンとそれが落ちてくると、拾い上げキョーコに渡した。
「どーせ、広い風呂に喜びすぎてのぼせたんだろ?」
「っ・・・なによ・・・これ・・」
「飲め、脱水になりかけてんだろ」
「さっき水飲んだからいいわよ!それにアンタから物をもらうなんて明日は槍が降るわよ!?」
「水だけじゃ駄目だ、いいから飲め!」
キャップを開けられ、ぐいっと押し付けられた。
それを渋々受け取ったキョーコは、一口飲んだ。
するとショータローは、ほっとしたよな顔つきになった。
「すぐバカやるからなお前は・・・昔っから・・・・」
一度飲むと、すっかり乾いていた体には酷く美味しく感じキョーコはクピクピと喉にスポーツドリンクを流し込んだ。
「まだ顔をが赤い」
すっと伸びてきたショータローの手が、ひやりとキョーコの額に止まった。
「ちょ・・・触んないで!」
「なんだよっ心配してやってんだろ?!」
「アンタに心配されるなんて死期が早まりそうで怖いからやめてよね!?」
「何だと~!?」
「何よっ!・・っつ・・・」
回復したと思ったのだが、やはり痛みは残っていて叫んだキョーコは顔をしかめた。
「バーカ・・・・アイツのことは俺がどうにかするから、もう気にするな」
「・・・元はといえばアンタのせいでしょ?」
「・・・・・・・・ああ・・だな・・・・悪かった」
「!?」
「・・・・・・・・・・・・・なんだよ・・その顔・・・ムカツクな」
驚愕の表情で、ショータローを凝視するキョーコに頬を引きつらせるとキョーコは大きく息をついた。
「だって・・・『俺の物は俺のもの、キョーコの物も俺のもの』のアンタが私に飲み物買って来てくれたり、心配したりするなんて・・・・気持ち悪い」
心底嫌そうな顔つきでそう言いきるキョーコに、ショータローもため息をこぼした。
「俺はお前にとってはそんな認識なんだな?」
なぜか落ち込んでいるように見えるショータローの表情に、キョーコは首を傾げた。
(何を今更?)
「俺はそんな鬼じゃねえ」
「あっそう・・・じゃあ、ありがたく貰っといてあげる」
「可愛くない」
「おお嫌だ!あんたに可愛いなんて思われたくないわ!?」
「敦賀のヤローならいいって言うのかよ?」
急に出てきた蓮の名前に、キョーコはドキリとした。
「っコ・・・・敦賀さんは、いつでも可愛いって言ってくれてるもん・・・・・」
「けっ・・・・そうかよ・・・・で?あのおっさんはいつになったら迎えにくるんだ?」
そう聞かれてキョーコは首を捻った。
「へ?・・・今日は沖縄で雑誌の撮影してるから明後日にならないと、ここに合流しないけど?」
「はあああ?・・・たっく・・肝心な時にいないとか・・マジ使えね~」
「なによそれ?!敦賀さんはアンタと違って忙しいの!今回のスケジュールだって社さんが苦心の末に・・」
「はいはい、今いないなら結局役立たずだから」
「だから!」
「いいか、一人になるなよ?呼ばれたからってフラフラ付いて行くなよ?わかったな?」
ショータローは言いたいことを言いおくと、スタスタとキョーコの前から去っていった。
「な・・・なによ・・・あれ・・」
一人取り残されたキョーコは、飲みかけのペットボトルを持って首を傾げながら部屋に戻ることにした。
**************
「あ、キョーコちゃんお帰り~携帯鳴ってたよ?」
部屋に戻ると、百瀬が部屋のシャワーを終え浴衣に着替えた姿でそう教えてくれた。
(あ・・・コーン・・)
キョーコはペットボトルを小さな簡易テーブルに置くと、何度かあった着信履歴に焦りながら蓮に折り返した。
短いコールの後、直ぐに蓮の声が聞こえてきた。
『もしもし?キョーコちゃん?』
「あ・・ごめんね?お風呂に入りに行っていて・・・」
『ああ・・そうなんだ・・・うん、こっちこそごめん・・つい、何度も電話しちゃって・・・』
「ううん・・・・・・」
先ほどまでのことがあり、キョーコは思わず会話を詰まらせた。
『え・・・っと・・・そっちは・・どう?』
「え!?」
『あ・・・・撮影は明日からだったよね?・・・今日は観光した?』
「あ・・ああ!・・うん!百瀬さんと一緒に散歩して、軽井沢を満喫してきたよ~・・今時高原のお嬢様はいなって言われてショックだった~」
バスの中で、他の女性陣との話を出すと携帯から蓮の笑う声が流れてきてキョーコはほっと胸を撫で下ろした。
「でも、高原の水はあってね?お風呂でのぼせちゃったからそれを飲んでる時・・・・」
安堵したことで、口が軽くなっていたキョーコはハッと気づき慌てて口をつぐんだ。
『・・・・・・うん?飲んでる時どうしたの?・・・・・・・もしもし?』
「え?・・・あれ?なんか・・・電波悪い?・・・ごめん・・そろそろ夕食の時間だって・・・」
『ああ・・そうなんだ・・・・うん・・・わかった・・・あ!予定より早く迎えるようにしているんだけど、最短でも明日の夕方以降にしか行けそうにないんだ・・・・』
「そうなんだ・・・・大丈夫!初めてだけどまだ、失敗してないから!・・・・撮影は明日からだけど」
冗談を言って笑っているキョーコの様子を、百瀬は少し羨ましそうに眺めていたが少し様子がおかしいことに気づいてそっとキョーコの顔を覗き込んだ。
(!?)
キョーコの顔は口から漏れ出る楽しそうな笑い声とは真逆に、酷く強張っていた。
「・・・じゃあ・・・おやすみなさい」
『うん・・・・おやすみ・・・・』
電話を終え、しばらくそのまま動かないキョーコに、百瀬は恐る恐る近づいて声をかけようとしたがそれよりも一瞬早くキョーコが振り返った。
「百瀬さん、お待たせしました!夕食に行きましょう」
「え・・・あ・・・うん・・・・い・・こうか・・・」
「はい!何食べれるのか楽しみ!」
先ほどの表情なんて微塵もなく、笑って騒ぐキョーコに百瀬は目を瞬かせた。
「あ・・・の・・・・京子さん?」
「なんですか?」
「あ・・・・・・・ううん・・・・何でも・・ない・・・」
その表情の理由と、なぜ蓮にその事を言わないのか疑問ばかりが浮かぶ百瀬だったが何故だか踏み込める雰囲気ではないことを感じ取って小さく首を振ると先に部屋を出たキョーコの後を慌てて追ったのだった。