≪すみません!!
昨日アップし損ねているのを今朝発見!!
なのでずれましたが、本日緊急アップです。
全然話し進まなくて、心が折れそう・・・涙
ユンまんまでした≫
†Marriage end blue 8
奏江や千織に問い詰められ、弄られまくった翌日キョーコは無事学校に登校していた。
「はあ・・・・やっと日常がきた・・」
教室の雑多な空気と、少し騒がしい長期休み明けの廊下。
その中に身を置くと、数日前までの出来事がまるで嘘のようだった。
キョーコがカバンを置いて、授業の用意をしていると校庭に女生徒たちの悲鳴が湧き上がった。
その声と共にキョーコは走り出していた。
(うそ!?朝から登校してくるなんてっ)
キョーコと同じように、その女生徒たちの声に反応して教室を飛び出していく女の子は多く両手に握りしめた巾着を激しく揺らさないように抱え途中まで他の者たちと同じ方向に流れていたキョーコは校舎の裏に回れる渡り廊下に逸れた。
駆け足でその渡り廊下を抜け、校舎裏に辿り着くとキョーコは上がった息も忘れて笑顔になった。
「ショーちゃん!!」
「っ!バカ!大声出すな!」
旧校舎の古びた壁に背をもたれさせていた男は、眉根を激しく寄せ右手を差し出してきた。
「おら、よこせ!」
「あ、うん!はい!お弁当!!」
「・・・おう・・・」
キョーコが差し出した可愛らしい巾着を受け取り、中から男っぽい黒の弁当箱を取り出すと勉学には使われていなさそうなカバンに押入れ巾着はキョーコに投げて返した。
「この間みたいのなの、やめろよな」
「へ?」
返ってきた巾着を嬉しそうに握りしめてキョトンとしているキョーコに、男は睨みを利かせた。
「ハートとか、キャラ弁とか・・・食うのにどんなに大変だったか・・」
「あれは、キャラ弁じゃなくてデコ弁・・・」
「デコんな!それと・・ばーちゃんみたいな茶色系一色もやめろ」
「ええ!?・・・だって・・・ショーちゃん昔から、煮物とか好きだし・・・卵焼きが塩味だから甘辛いの作るとどうしても茶色が・・・」
「だから、茶色ばっかにするなっ・・・あんま酷いの作るんだったら、もうお前の弁当いらねー・・」
「っ!作る!大丈夫!!ちゃんとしたヤツ作ってくる!!」
「・・・わかりゃいんだよ・・・じゃあな」
「うん!」
もらうものをもらった男は、サクサクとその場を離れたがキョーコはしばらくその背中を見送った。
そして満足すると、回れ右をして教室に戻ろうとした。
「ぎゃふ!?」
その途端、背後にあった何かにぶつかった。
顔面ごとそれにぶつかったキョーコは、打った鼻を押さえながら顔を上げた。
(・・・だれ?・・)
キョーコよりも明らかに背の高い男性で、黒髪に真っ黒な瞳がかっちりとしたスーツでより畏まった印象を与えた。
「す・・すみません・・・」
キョーコは小さく頭を下げて、見下ろしてきた男の瞳を避けるように校舎に戻った。
「・・・・アレ・・・か・・・」
そんなキョーコの背中を目で追いながら、そう呟いた男の言葉などキョーコは知る由もなかった。
*************
「まったあげてきたの?!…アンタって・・救いようのないバカね?」
「・・キョーコさん・・・おバカな行動も、たまに殺意を抱かせるんですよ?」
始業ギリギリに戻ってきたキョーコの席に、すかさず親友二人が現れそう詰め寄られキョーコは顔をひきつらせた。
「だって・・・・約束・・・だし・・・・」
「そんなの、あっちの都合が良いようにされてるだけじゃない!」
「そうですよ!?キョーコさんのお弁当の味を奪うなんて!」
「あ、二人にもいつものお弁当作ってきたよ?」
キョーコのその言葉に、二人は突然黙ってキョーコがカバンをガサゴソと漁るのを見つめた。
そして、キョーコがそれぞれに作ってきたお弁当を見つけ出し始めると奏江も千織も怒りを解いてため息をついた。
「・・・・・仕方ないわね・・・」
「ええ・・しょうがないですね・・・私たちのついでだということにしておいてあげましょう」
キョーコが差し出した巾着をそれぞれ受け取ると、いつも繰り返されているように二人は素直に引き下がってくれた。
キョーコは苦笑いをこぼしながらも、少し汗ばんだ額を左手の甲で拭った。
「いっつ・・・!?」
その時、がりっと額をこすったものを確認しようと手を見て悲鳴を上げそうになった。
(しまったあああああ!!)
何もかも突然の出来事と、怒涛の一日のせいですっかり結婚指輪をしたまま登校していたのだ。
キョーコはそれを机の下で慌てて外すと、どこにしまおうか悩んだ。
(~~っ・・・ああ!?もう、先生来ちゃう!!・・・ええっと・・!そうだっ!!)
キョーコは咄嗟に、握りしめていた巾着にぼすっと入れると早業で口を縛り上げグルグルと巾着の紐で一纏めに絞った。
それをカバンの奥底に詰めると同時に、教室のドアが引かれた。
(セ~~~フ・・・でも…誰も気づかないなんて・・・・)
自由な校風で、アクセサリーも化粧も、制服の着方も自由な学校ではあることが幸いしていたようだ。
キョーコは、誰にも突っ込まれなくて済んだ結婚指輪を仕舞えたことに安堵していると、急に視線を感じて顔を上げた。
(・・ん?・・・あれ?・・・・あ、あの人!?)
担任の中年男性に続いて、教室に入ってきてキョーコをじっと見ているのは先ほどぶつかった人物だった。
「ええ~・・・副担任の河島先生が産休に入られたため、今日からこちらの敦賀先生がこのクラスの副担任になる・・敦賀先生、挨拶を」
男の紹介をしただけなのだが、教室中にいる女生徒たちが色めきたった。
それもそのはず、目鼻立ちも整い高い身長は手足の長さが際立っており小さな顔は日本人にはあり得ない9頭身を実現させていた。
まるでモデルか何かのような容姿に、誰しもが心を奪われているようだった。
ただ、奏江や千織・・キョーコは例外だったが・・・
「はじめまして、敦賀 蓮と言います・・・この間までロスに住んでいたのでネイティブ発音で皆さんに英語を教えてあげられると思います・・・河島先生が帰ってこられるまでの間ですが、よろしくお願いします」
落ち着いた低い声と、柔らかい物腰。
そして何よりも整った顔立ちで微笑む大人の男性に、女生徒たちが頬を染めないわけがなかった。
あの奏江たちでさえ…だったのだが、キョーコはちょうどこの時よそ見をしていた。
(あっ!?ショーちゃん!・・・もう帰る気なんだ・・・)
数人の女子をまとわりつかせながら裏門から出ていこうとするのを発見して、キョーコは悲しそうに眉根を寄せた。
「・・・さん・・・がみさん?・・・・最上 キョーコさん!?」
「ひへ!?」
突然大きな声で呼ばれて、キョーコは慌てて返事をした。
「・・・・・最上さん・・・だね?いくら休み明けでも、ホームルームもちゃんと聞いてないとだめだよ?」
敦賀にそう言われ、キョーコはようやくクラス中の視線を浴びていることに気が付いて真っ赤になった。
「すっ・・・すみません・・・・・」
真っ赤になって縮こまるキョーコに、敦賀はクスリと笑って見せた。
「じゃあ・・・罰として、この後の英語の授業前に準備室にプリント一人で取りに来てください」
「・・・はい・・・」
羨ましがる他の女生徒たちに、内心代わってほしいと思いながらも自分の起こしたことのため何も言えず頷くしかなかった。
「・・他に質問は?」
どうやら、敦賀についての質問の最中によそ見をしているのを発見されたらしく話題が敦賀に戻りキョーコは小さく息をついた。
「先生!彼女とかいらっしゃるんですか?」
勇気のある女子が挙手をして、そう叫ぶと熱のこもった視線が一気に敦賀に注がれた。
「・・・彼女は・・・いません」
そう答えた敦賀は、なぜかキョーコの方を向いてにこりと微笑むと左手の甲をみんなに見せた。
「奥さんならいます」
その途端、悲痛な悲鳴が湧き上がった。
呆然としているキョーコに、敦賀は意味深な視線を送り微笑んでまだ指輪が見えるようにかざしていた。
(・・・・・・・あ・・れ?…・あの指輪・・・どっかで…見覚えが・・・・)
中央でクロスするように重なるデザインで、シンプルなものが多い結婚指輪にしては珍しい・・・
と、最近どこかで思ったような・・・・?と、キョーコが首を傾げている内にホームルームの終わった敦賀と担任は教室を出て行ってしまった。
「あんた・・・悠長に座ってていいの?準備室にプリント、取りに行かないといけないんじゃない?」
「でも授業になるかな?さっきの結婚しちゃってる発言でカオスよ?教室・・・」
ザワザワと、いつもよりも一際騒がしい教室の中でキョーコは引っかかる記憶を必死に手繰り寄せあることに気付き突然立ち上がった。
「私・・・行ってくる!!!」
そして矢のような速さで教室を飛び出すキョーコに、奏江と千織はため息をついた。
「だから早く行きなさいって言ったのに・・」
しかし、奏江が言った言葉とは違う意味でキョーコは走って準備室に向かっていた。
(まさかっ!?だってっ!!)
何度も思いついたことを打ち消そうとしたが、ドクドクという心臓の音だけがその考えを否定する。
(そ・・そうよ・・・ただ、似ているだけよ・・・・でも・・・・ううん!髪の色も・・瞳の色も・・・名前だって違うじゃない!?)
けれどキョーコの感が告げる。
『彼ら』は、同一人物だと。
息を切らしながら、準備室の前までたどり着くと大きく深呼吸をした。
そして、準備室の扉を叩くと中から返事が聞こえてきた。
その声は、彼のものでキョーコは跳ねる心臓を抑え入室の際に言われるように指示されている言葉を口にした。
「2-B 最上 キョーコです・・教材を取りに伺いました」
「はい・・・どうぞ?」
がちゃりと開いた扉のノブを握っていたのは、敦賀で準備室の中には彼以外いないことをキョーコは確認して中に入った。
「プリントは・・・これ・・・よろしくね?」
手渡されたプリントの束を抱えたキョーコは、すぐに準備室を立ち去らなかった。
「・・・もうすぐ授業始まるよ?」
「・・・・・・どうして・・・ここにいるの?」
ぼそりと、そう呟いたキョーコを敦賀はじっと見降ろした。
「・・・何のこと?」
「・・・とぼけないで・・・・その指輪・・・クオンがしていたのと同じ指輪・・・あなたが言ったのよ?これは特注でこの世に二つとない指輪だって」
そう・・あの結婚式の直前。
結婚指輪にしては、不思議な形をしているとキョーコは思ってそれを口するとクオンは少し寂しいような嬉しいような複雑な笑みを浮かべて指輪をキョーコの前に差し出した。
『これは・・・特別なものなんだ・・・俺のばあさんがじいさんに作らせた特注品で、父さんと母さんは婚約指輪として使っていたものを俺に譲ってくれた・・・そして俺はそれに少し手を加えた・・この指輪は重ねると∞の形になるようになっているんだ・・・その中心の裏にお互いの誕生石を入れさせた・・・じいさんたちから受け継がれたけど、これはこの世に二つとない代物になった・・・』
そして、こう続けた。
『俺はアメジスト・・・君は・・タンザナイトを埋め込んだ・・・その誕生石が持ち主を表せるように・・・』
一般的に12月はターコイズを誕生石にすることが多いのを、乙女思考のおかげで知りえた知識でキョーコは知っていた。
それに違和感を覚えたことも、今回指輪のことをすぐに思い出せたきっかけだった。
問い詰めるキョーコに、敦賀はあっさり頷いた。
「そうだよ、クオン・・俺だよ」
するとキョーコは目を丸くした。
「じゃあ、その髪は!?」
「…黒く染めた」
「目は!?」
「カラコン」
「英語教師って?!」
「外国語指導員枠でおじさ・・・宝田さんが採用した」
その答えもなんとなく予想がついていたのに、キョーコは脱力した。
「おじい様もグル・・・・・」
項垂れているキョーコをじっと見ていたクオンは、先ほどの光景を思い出して眉根を寄せた。
「ところで・・・なんで『最上?』」
「え?」
急な質問に、キョーコは一瞬頭の回転が追い付かなかった。
「あ・・・ああ・・・おじい様の関係者だってわかったら、おじい様の学校だもの・・・特別扱いされかねないって母の旧姓を使うことにしたの」
「・・・・・そう・・・」
ここでも徹底して、キョーコの身の安全のために囲いを作っているように感じたクオンだったが府に堕ちないこともあった。
「・・・・じゃあ・・・あのお弁当泥棒が『ショーちゃん』?」
「!!?」
そう言えばあの場面を見られてたんだ!
と、ようやくキョーコは思い至りダラダラと冷や汗を流した。
「・・・周りはこんなに囲っているのに、本人は無警戒でよく知りもしない輩に近づいてるんだな?」
「え?・・」
ぼそりと呟かれた言葉に、キョーコは首を傾げたもののクオンの言葉をあっさり否定した。
「ショーちゃんは知らない人なんかじゃないわ?幼馴染だもの・・・この学校で、モー子さんと千織ちゃん以外に私が宝田家の孫娘だって知っているのはショーちゃん・・・不破 尚ちゃんだもの」
その説明に、クオンは目を大きく見開いた。
「・・お・・さななじみ?」
「うん!・・・私・・・ちいさい頃の記憶って断片的にしかなくって・・その頃からずっと一緒にいるショーちゃんは、私の王子様なんだから!!」
「・・・・・・・・・・・・は?・・・オウジサマ?」
「だから、ショーちゃんのことを悪く言わないで!!…今は・・・ご実家のおば様たちと色々あって・・・あんな風に悪ぶっているけど、本当はいい子なんだから・・・」
頬を赤らめながら、俯き加減でそう言い募るキョーコの言葉などクオンの耳には届いていなかった。
「オウジサマって・・なんだよ・・それ・・」
ブツブツいうクオンの様子に、キョーコは首を傾げつつ顔を上げた。
するとクオンも顔を上げ、ギラリと光る視線でキョーコを見つめた。
「!?な・・なによ・・・」
その迫力に気圧されて、キョーコは思わず後ずさった。
クオンは少し開いた距離を、一歩詰めてキョーコを威圧的に見下ろした。
「俺・・いや・・俺たち・・新婚だよね?」
「へ!?」
ぐぐっとクオンは屈んできて、ドアまで追い詰めたキョーコの顔に覆いかぶさろうとしてきた。
「新婚なら…新婚らしく・・・」
徐々に近づていく顔と顔に、キョーコはパニックを起こしかかった。
(んぎゃああああああ!!?)
クラスの女子だけでなく、学校中の女性たちを虜にするであろう端正な顔が息のかかる距離まで近づいてきてキョーコは目をグルグル回した。
「・・・・お弁当、作ってきて・・・新婚さんだしね?愛妻弁当がないと格好がつかない」
「・・・・・・・・・・へ?」
頬に息がかかるほどの距離で、そう囁かれキョーコは目を点にした。
「彼に作っているなら、手間もそう増えないだろ?・・朝から何個も作っていたみたいだし」
「うっ・・・それは・・・モー子さんと千織ちゃんと私の分も作っていて・・」
「つまりは俺だけ作ってもらってなかったと?」
「いるか知らなかったし・・・それに・・・そうよ!学校に教師として来るなんて・・・私は一つも知らなかったんだから!!」
まだ近い距離に戸惑いながらも、必死にそういうとクオンの表情が緩んだ。
「のけ者にされて、寂しかった?」
なぜか少し嬉しそうにそう問うクオンに、キョーコは急に冷めた目になった。
「・・・・のけ者にされるなんて・・・慣れてるわ・・・・」
その表情と、諦めの濃い声色にクオンは驚きを隠せなかった。
すると動きの止まったクオンの肩を、キョーコがぐいっと押してきた。
「お弁当の件はわかりました・・・もう授業始まっちゃうので、プリントもらっていきます」
しかし簡単にクオンの体は押されなかった。
「・・・俺は・・・君をもう、のけ者にしないよ」
「え?」
小声でそう呟かれ、聞き返したキョーコはそれ以上訪ねることができなかった。
その唇を、クオンに塞がれていたからだ。
頭の中で絶叫するキョーコの唇から、リップ音を残して離れたクオンはにっこりと笑った。
「新婚さんはこれぐらいしないとね?」
そうのたまったクオンに声にならない絶叫をぶつけて、プリントをひったくるように抱えると始業のチャイムと共にキョーコは光の速さで準備室を出て行ったのだった。
9へ