なんてことない非日常 -10ページ目

なんてことない非日常

スキビ非公認二次創作サイトです。
駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

カメラと彼女と自転車と   4




 たくさんの人が別れを惜しんだり、一人決意をしながら 荷物を抱えなおしたり、家族で楽しそうに今後の予定を立てたり・・・。


空港のロビーで、彼は愛用のカメラバッグを抱えなおしニューヨーク行きの航空券を見つめた。


きっと今頃、彼女は何も知らないでいるだろう。

ニューヨークへ修行に行く出発日を、ずらして伝えていたのだ。



(最後までヘタレだな・・・別れが辛くて嘘をつくなんて・・・・)



悲しみに満ちた顔で無理やり笑み作るのだった。



その頃、彼女は制服のスカートが激しく翻るのもかまわずに自転車を爆走させていた。


鍛え上げた自転車テクを使い、階段を駆け下りたり小さな段差を飛び越えたり。

空港にいる彼の元に間に合うように自転車を走らせる。


大粒の汗を光らせて、彼女は何とか間に合った。



『っ・・・ぜぇ・・・ぜぇっ・・・っく・・・兄ちゃんっ・・・』



『!・・・どう・・して・・・・』



汗を光らせて、近づいてくる彼女を彼は嬉しそうに目を細め見つめた。



『っ・・・おば・・さんにきいてっ・・・・予定よりも・・・早いっ・・・なんて・・卑怯!・・・』



まだ息が整わない彼女に、彼は寂しそうに笑った。



『・・・君に・・・別れを言われるのが・・・怖かった・・・』



その言葉を聞いた彼女は、ポケットに突っ込んだあの日のメダルを彼に投げつけた。



『初めて日本一になったメダルっ・・・今度は世界一になって交換してもらうから・・・大事に持ってて!』



彼女らしい言葉に彼は目を丸くした後、笑い出した。



『ぶっは!・・・うん、大事に・・持っておく・・・っ!』



メダルを掲げ笑った彼の胸に、彼女は飛び込んだ。



『次に会うときは・・・もっと素敵な女の子になっておくから・・・だからっ』



涙交じりの表情で、見上げてきたその顔に彼は目を見開いた。

そして、ドサリとカメラバックを下ろし彼女の小さな体を抱きしめた。



『十分・・・綺麗になったよ・・・・本当は、君から目を離すのが怖いよ・・・他のヤツに取られるんじゃないかって・・・・』



彼女を抱きしめる彼の腕に力が入る。



『なにそれ・・・全部・・・兄ちゃんに振り向いて欲しくて・・がんばったのに・・・』



『うん・・・・綺麗だ・・・すっごく・・・綺麗になった』



囁くように耳元に寄った唇がそう呟くたび、彼女はどんどん真っ赤になっていく。

けれど、肌に透明感を与えるUVパウダーは彼女のその表情をくすませること無く彼に近くでも見られてもその愛らしさを損なうことは無かった。


そして彼の方は、今までの彼女の姿を一つ一つ思い出して心に積もった想いを口にした。



『好きだよ』



『!!・・・わ・・・私もっ!大好き!』



彼女の声は、国際線ゲートに大きく響いた。



『!っ・・・・声・・・・大きいよ・・・』



『ごめ・・・』



慌てて赤面する彼女に、彼はクスリと笑みを零してその頬を両手で包み込むと上を向かせた。

驚いている彼女に、彼は優しく微笑みゆっくりと唇を重ねた。



彼らの物語は、これから始まる。




゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆



Web最終話と、ニルコタのCMは予想以上に大きな反響を呼び黒崎は大きな成功を収めた。


そして、現実にも蓮とキョーコが上手くまとまったことをLMEの社長からご機嫌な声と共に教えられた。


黒崎は、大きく伸びをした。

すると、不意に胸ポケットに入れていたものがカサリと音を立てた。


それを取り出し、眺める。



「中学生かっ」



自分にそう突っ込みながらも、満足げな表情で写真を見つめた。


写真には、蓮と笑顔で会話するキョーコの姿が捉えられている。

幸せそうな表情。


撮影ラスト、キスシーンの前に撮れた写真だ。


あんなにガチガチだった初日とは比べ物にもならない、豊かな表情は見ているだけでこちらまで幸せになれそうだった。



「俺も不毛だな~」



蓮のことを幸せそうに見つめているキョーコの表情が、一番黒崎が撮りたかったものだと気づいた。


ファインダーを覗けば判る。

自分の気持ちは。


若い時の不毛な感情を未だ持ち合わせていたのかという思いと、CM監督としての才を濁らせなかった自分に複雑な感情を抱きながらその写真を封筒に入れた。


散歩ついでにこれを郵便で送ってやろうと考える。


宛名は、京子と蓮にして。


このCMで何よりの成果である、二人に祝福を届けるのだ。

ただ、写真の裏には一言・・・・・



『彼女の笑顔を大切にしろ・・・さもなくば―』



これを見た彼がどんな表情をするのか、想像しながら黒崎は機嫌よく封筒に糊付けするとそれを携えまだまだ残暑をよく吸い込んだアスファルトをダラダラと歩くのだった。





end







カメラと彼女と自転車と    3





 『実は、KOOSAだけじゃなくてニルコタとも契約したんだわ』



黒崎の発言に目を丸くしたのは、つい先程のことだった。



***************



シリーズ初めての撮影が終わった二人を呼び止めた黒崎の発言に、キョーコたちは言葉もなく立ち尽くした。

それもそのはずニルコタとは今回、蓮の役が持っている一眼レフカメラのメーカーでシェア世界一の大会社だったからだ。



「んで、今回の配役のまま別CMも同時で撮る事になったんだよね~」



黒崎が軽いのりでそう言うと、蓮は少し憮然とした表情になった。



「・・・うちの事務所には・・」



「それは当然先に承諾を貰ってる・・・敦賀君のスケジュールにもほとんど影響がないんだから返事は完結だったけどね?」



「スケジュールに影響ないって・・・・?」



疑問を口にしたのはキョーコだった。

蓮は予想がついているのか、小さくため息をついた。



「つまり、このCMをKOOSA側とニルコタ側双方の視点から同時に作られるっていうことですよね?」



「そういうこと・・・・KOOSA側は主に京子。ニルコタ側は主に敦賀君が主演でいくっていうこと・・・そして両企業は既に乗り気で、ホームページにもリンクが貼り付けられてる・・・」



「・・・・じゃあ・・・俺たちに伺いを立てるまでもなく決定事項じゃないですか・・・」



少し蚊帳の外にいた状態が気に食わないのか蓮がそう言うのを、キョーコが心配そうに見上げていた。



「ああ・・・まあ・・・そうなんだけど・・・それとは別に協力して欲しいことがあったんだよ」



「・・・は?」



「このカメラで敦賀君に京子のプライベート写真を撮ってきて欲しいんだ」



「は!?」



なんだか一触即発な雰囲気が流れはじめたのを感じ取っていたキョーコは、オロオロと二人の間であせっていた。

だが黒崎の言葉に蓮よりも先に反応して、思わず顔を歪めてしまっていた。



「・・・・・・具体的には?」



驚くキョーコとは打って変わって、冷静な切り返しをする蓮に黒崎はニヤニヤと笑いながら条件を述べ始めた。



「できるだけ素に近い状態・・ああ、ただしこの役に近い状態で・・・・そんでできるだけ・・・というか100パー敦賀君が撮った写真でよろしく・・ということだ」



「ええ!?ど、どいうことですか?!」



またしても蓮より先に叫んだキョーコと、その後ろでカメラを持ったまま固まっている蓮に見えるように黒崎は一枚の用紙を掲げた。


それにはニルコタのCMキャッチコピーが大きく中央に書かれたいた。



《俺の視線の先には、輝く君》



「つうことで・・・これを頭において、敦賀君視線の京子を大量に撮ってきてくれ・・・期日は来週の撮影までに」



そんな黒崎の言葉に、不服を申し立てたのは京子だった。



「そんな!?敦賀さんただでさえハードスケジュールなんですよ!?・・なにがスケジュールに影響ないですか・・・こんな私なんか撮ってる間に一秒でも長く体を休めて、一品でも多くお食事を取って欲しいのに!!」



キョーコの叫びに、黒崎は一瞬大きく目を見開いた。

が、直ぐに表情を引き締めるとキョーコを見下ろした。



「これは仕事で、決定事項・・・撮られる側のお前の方が負担が大きいの気づいてないのか?」



黒崎の鋭い視線と、低い声にキョーコはさっと青褪めうろたえた。



「・・・・・・・え?!そ、そうなんですか!?・・・あ・・でも、常にこの役を乗せておかないといけないという事で・・・た、確かに・・・でも!私はまだまだペーペーの役者で、敦賀さんほどの忙しさはないから多少の時間なんて・・・・」



「最上さん、君も十分忙しいよ・・・」



まくし立てるキョーコを宥めるような優しく響く低い声に、キョーコは目元をやや赤くして蓮を見上げた。



「でも・・・・」



心配そうな顔をするキョーコに、優しく微笑みかける蓮を見ていた黒崎は元あった予定通りの言葉をさも今思いついたように言い始めた。



「・・・ん~・・じゃあ、しばらく一緒のスケジュールにしてもらったらいいんじゃね?同じ事務所なんだし・・ついでにプライベートもちょっくら一緒の時間を作って素の京子を撮ってもらえよ」



そうだ、それがいい!と、黒崎は否定の叫び声を上げるキョーコを無視して話を進めるべく携帯を取り出し二人に背を向けた。

その瞬間、蓮の中で起こった疑惑が確証を得たように表情が一瞬変わった。

しかし、それに気づかないキョーコは背を向けLME事務所に電話をしようとする黒崎の服を掴んで抗議し続けた。

そんなキョーコの肩をそっと掴んで、引き止めたのは蓮だった。



「黒崎監督、それは俺から直接上に言いますから・・・大丈夫ですよ?」



携帯のコールをかけそうになっていた黒崎は、にっこりと笑顔を作る蓮にそう諭され「お・・おう・・」と戸惑い気味に返事した。


なぜ、少し戸惑ったかというと黒崎の服を掴んでいたキョーコが蓮の顔を見た途端急に子リスのように震えだしたからというわけではない。


なんとなく・・・そう、なんとなく・・・あの笑顔は怖いと・・・感じたのだ。



(・・・・・アイツ・・・・・ただの人気俳優・・・なだけじゃないのかもな~・・・)



黒崎との話しが終わり、衣装を着替えた二人が再度黒崎に挨拶を済まし帰って行く背中を見つめながらそうぼんやりと思うのだった。


後日、上がってきた写真は予想以上に・・・・素のキョーコだった。



****************



最初は少し離れ気味に、畏まった様子のキョーコ。

徐々に笑顔が出てきて、少し膨れっ面をしたり困惑したりあくびをしてたり・・・。


本当に四六時中一緒にいる時にしか見せない表情が、今黒崎の目の前にある低めのテーブルの上にどっさりと置かれていた。



(・・・・・よくもまあ・・・こんなに・・・・・)



200枚以上はあるだろう写真に、一日何枚撮ったのかと数えるのを辟易しながら諦め目に付いた写真を一枚取り上げた。


それは、りんごを持って笑顔で振り返っているキョーコのアップだった。



(・・・・・見てるこっちが恥ずかしい・・)



写り手から明らかな好意が滲み、写し手がそれを上回る愛情で収めている一枚をじっと見つめた。


そしてふと顔を上げると今日撮影を終えたキョーコの姿が、編集用のテレビの中で止まっている。


今日はデオシートの撮影で、先週撮った話の続きは彼女と彼の少し過去にさかのぼった話を撮った。

それと先週の優勝シーンを重ねて放送される。



゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆



内容は、大会に出る少し前何度も同じ所で失敗をする彼女。


それとは別にカメラマンの腕を認められず、モデルの方が向いているのではとからかわれ落ち込む。

そんな彼は目撃することになる。


一度は落ち込み沈んでいた彼女がクールデオシートでかいた汗を拭うと再び元気よく立ち上がり、練習を始めるという姿を。


それを思い出しながら、彼は彼女の名前がコールされて姿を現すまで何度も頭の中で呟いた。

彼女は優勝するべき人物なのだと。



そして、優勝した彼女に彼は惜しみない拍手を贈った。


゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆


というものだ。

今後はUVジェルに保湿ジェルと続く。


隣に住む幼馴染の彼と、高校生の彼女の話はあと三話で終わるがそれを今度は彼の視点でカメラのCMへと引き継がれる。


どちらもお互い思いあっていたんだとわかるようになるのは、この写真を使ったCMが鍵だ。



「・・・・・十分過ぎるだろ・・・・」



こんなにも想いが溢れている写真を目の前に、黒崎は初日の撮影に会話をした人物の顔を思い浮かべた。



「これで文句はないだろう」



これで『彼』の思い通りに事が運ばなくても、俺の責任じゃないぞ・・・

と、黒崎は心の中でごちた。



「・・・・でも・・・この表情は俺が撮りたかったな・・・・・」



絶対の信頼と、一心の親愛を向けた視線と笑顔。

男女の情を交わしたいとは思わないまでも、キョーコとの距離感は今までの女優には抱かなかったほど心地いいものだった。


演技に信頼がおけて、その言動に驚かされて、新たな才能に心臓を高鳴らせられる人物にこれから先新たに出会えるのか・・・黒崎はキョーコの姿を瞼の裏に思い浮かべて、熱の混じったため息をついた。



(あれ?・・・なに言ってんだ?俺・・・・)



思わずもらした言葉を改めて思い返して、呆然としていると部屋をノックされた。



「!・・・誰だ?」



テーブルに散らばった写真を慌てて一まとめにしながら、扉を叩いた人物に声をかけると返事は意外な人物だった。



「敦賀です・・少し・・・話し、いいですか?」



いや、黒崎にはなんとなく察しがついていた。

写真を纏める手を止め、入るように促すと神妙な面持ちの蓮が姿を見せた。



「すみません・・・突然・・」



「いいや・・かまわねーよ・・・・話はコレのことか?」



無造作に束ねられた写真をトントンと指先で叩くと、蓮は困ったような表情を見せた。



「・・・というか・・うちの社長が無理難題を押し付けたのではないかと・・・」



「何だ・・知ってたのか・・」



「いえ・・・なんとなく・・そんな気がして・・・今回のCMの話が来たときからおかしいな・・とは思ってました」



その蓮の言葉に、黒崎は少なからず驚いた。



「俺のスケジュールは、有能なマネージャーが胃薬を飲みながらでもしっかり組んで二年半先まで埋まってます・・・そのスケジュール内容を俺は、マネージャーと同じだけ把握しています・・・だから、二ヶ月前に新規でスケジュールを組めるはずが無いんです・・・特に大きな企業とは」



ニコルタの件のことを言っているのだろうが、KOOSAについてもたぶん同様だろう。

一度KOOSAのCMに相手役として出たことはあるがそれはもう二年近く前の話だ。


蓮のスケジュールにポンと新規の依頼が飛び込んでこれるはずが無いのだ。


社長が絡んでこなければ・・・・



「すみません・・・俺たちのことに黒崎さんを巻き込んでしまって・・・」



「いや・・・俺だっていい作品を作れるならって乗らせてもらったんだからお互い様だろ・・・で?上手くいったのか?京子と・・・」



つい聞いてしまったことを黒崎は後悔した。

蓮が笑顔のまま凍りついたからだ。



「あ~・・・・いや・・その・・・」



なんと声をかけていいのかわからずに、言葉を濁していると蓮が急に立ち上がった。



「ご心配なく・・・撮影に影響は及ぼしませんし、返事を保留されているだけですから・・・・」



伝えるべき言葉は言ったのか・・・と、内心安堵していたのだがそんな黒崎に痛みを覚える視線が蓮から飛んできた。



「ですから・・・この機会に彼女に必要以上に近づいて欲しくないと・・思ってます・・・・」



「・・・・は?」



「・・・・すみません・・・さっきの独り言・・・聞こえてしまって・・・」



目を丸くする黒崎に対して、苦虫を噛み潰したような表情の蓮は顔をそらしつつそう伝えた。



「なっ!?あ、あれは、監督としてこれぐらい簡単に撮りたかったって言ったまでで・・・」



必死に言い訳する黒崎は、だんだん言うのがバカらしくなってきて大きなため息をついて一枚キョーコの写真を束の中から引き抜いた。



「俺に牽制なんかしなくても・・・コレで、十分なんじゃないか?」



差し出したのは、真っ直ぐカメラマンを見つめ愛くるしい笑顔を見せているキョーコのアップだった。



「俺ができるのは、こんな風に少しだけ自分の心の中にあるものを引き出してやることだけだ・・・それはどの作品にも力を込めているし、抜いたことの無いものだ」



黒崎の言葉を聞きながら、蓮は渡された写真を食い入るように見つめた。



「撮影終了まで引っ張られると、最終話のキスシーン・・・上手くいかない気がするんだが?」



黒崎はそう言うと、にぃ~・・・っとチンピラ風の笑顔で蓮を急きたてた。



「KOOSAとニルコタのラストは同じなんだ・・・これ、京子にも渡してやってくれ」



先程出来上がったばかりの最終話の台本を、黒崎は蓮にぐいっと押し付けた。



「!!・・・・・はい、わかりました・・・・必ず、いい作品にします!」



「ぶっは!・・それ、俺のセリフ・・・・似てるよ・・・二人」



「え?・・・・・・」



ぼそりと零した黒崎の言葉の真相を知ることが無いまま、蓮はその後当たり障りのない会話を済ませると黒崎の元を去った。


そんな蓮の後姿を見送りながら、黒崎は確信した。


このCMは必ず、最高の作品になると・・・・・・。




4へ












先ほどのざっくり暑中お見舞いでは、復活宣言にもならないということで・・・・





*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆




 「ほわぁぁ~!!!」



歓喜の声をあげて、頬を赤らめるのはLMEで謎の部署と噂されるラブミー部で密かな活躍をしている最上 キョーコだった。



「・・・・・・・・・・・そんなキラッキラ視線投げても鬱陶しいだけだから」



そんなキョーコに冷たい視線と言葉を投げるのは、同じくラブミー部で琴南 奏江でそんな奏江の言動に思わず噴き出したのは事務所は違うもののラブミー部所属の天宮 千織だった。



「琴南さん、言葉と裏腹に耳・・真っ赤ですけど?」



「!?っ・・あ・・・あついのよ!!そうよ!こんな帯やらなんやらで浴衣なんて着せられてあつっくるしいから!!」



動揺しているのか、汗をかきはじめた奏江にキョーコはイソイソとひえぴたを後ろ首にぺたりと貼り付けた。



「っひぃうえっ!!」



((・・・変な声出した))



突然冷たいものが貼り付けられ、思わず叫んだ奏江の声に二人が固まると奏江は口元をとっさに覆った手を震わせ握り拳を作った。



「急に貼り付けんじゃないわよ!!!」



「わあああん!!ごめんなさい~!!だって暑いっていうから~」



怒り心頭で追いかけてくる奏江から逃げようと扉に向かったキョーコは、突然開いたため手をかけるはずだったドアノブを追いかけるように外に飛び出してしまった。



「えっ!?ふぎゃっぶ!」



ばふっ!と扉の開いた先にしては、心地いい温もりと弾力と香りにキョーコはぶつかっていた。



(・・・・・・この・・香りは・・・・・)



「どうしたの?危なかったよ・・最上さん?」



香りからの連想と、その考えが正解である声が頭上から降っていたためキョーコは恐る恐る顔を上げた。



「怪我・・なかった?」



「つ・・敦賀・・しゃん・・」



キョーコを抱き止めたまま、にっこりと笑ったのはこのLME内でも神の域【※キョーコの中だけです】に位置づけられている敦賀 蓮だった。

ぶつけた鼻の頭を押さえつつ見上げるキョーコに、蓮は笑顔のまま一旦停止をしたが長めのため息を顔をそらして吐き捨ていると、そっとキョーコの腕を支え自分から離した。



「突然飛び出して来たら危ないだろ?」



「!っはいっすみません!!」



笑顔でちゃんと指導する蓮にキョーコは謝りながら、心の中で目をぐるぐるとさせていた。



(ひいやああ~!敦賀さんにぶつかるなんて~!・・・・でも、この香とか敦賀さんの声とか常識的な思考を鈍らせ・・・・・・・・・・ダメよ!キョーコ!!!)



突然夢心地から復活したキョーコは、支えてくれていた蓮の手から凄まじい勢いで飛び退くと敬礼をした。



「誠に申し訳ありません!!今後気を付けます!!」



奇跡の迎合は、蓮の思惑よりも早く打ち消されたのか誰の目から見ても蓮の切ない心情を読み取ることができた。

宙に浮いたままになった両手によって。



(やれやれ・・・まったく・・この二人は・・・・・)



蓮たちの行動を見守っていた、敏腕マネージャーの社 倖人は小さくため息をついた。



「蓮、それよりも準備ができたか・・」



「ああ・・そうでした」



蓮は本来の目的を思い出し、ラブミー部の三人を見渡した。



「準備は・・・できてるみたいだね?」



「はい!!準備万端です!」



すっかり浴衣姿にチェンジした三人は笑顔で頷くと、同じく浴衣姿の社と蓮に促されて部室を出た。



「会社内の広場で盆踊りなんて・・・・相変わらずうちの社長はお祭り好きですよね?」



「好き・・というよりも、ライフワークだから」



奏江の言葉に社が苦笑する。



「私・・事務所違うんですが・・・いいんでしょうか?」



千織の心配に、奏江は何でもないというように答えた。



「いいんじゃない?切りたくても切れないラブミー仲間なんだし?」



「・・・・クス・・そうですね?」



柄にもないことを言ったと赤くなる奏江に、千織は嬉しそうにクスクスと笑みを漏らし歩いていく。

その三人の後ろを、蓮とキョーコは肩を並べて歩いていた。



「敦賀さん、お似合いになりますね?浴衣」



長身の細身では着こなすのが難しい、日本人の都合がいいように作られた服だが蓮はそれさえも華麗に着こなし女性陣の華を蹴散らしてしまう有様だった。



「そう?・・・最上さんの方がよく似合っているよ?」



「・・・・・・・・・そりゃ、ニッポンジンですから・・・」



ハハハ・・・と遠い目で乾いた笑いを返すキョーコに、蓮は褒めたのになぜそんな顔をされるのかわからず戸惑った。



「本当にかわいいと・・・」



「いいですよ、無理しなくて・・タレントなのに事務所の受付のお姉さんたちの方が色っぽいですからね・・」



またもやため息をつくキョーコに、蓮は戸惑っていたのだが他の人たちに視線を投げているキョーコの襟足に気が付いてしまった。


細く白い首筋に、少し伸びたショートの髪をピンで浴衣に合うようにアップにした後れ毛がふわふわとかかっていた。


洋服ではあまり感じない、細い肩や帯の下から明らかになる腰から下のラインに思わず喉が鳴った蓮は無理やり視線を外した。



「あ!敦賀さん!!」



「えっ!?な、なに?」



突然声を上げたキョーコに、蓮は思わず後ずさった。



「マリアちゃん!かわいい!!」



特設で作られたやぐらの上に立つ、フリルたっぷりの浴衣で手を振るLME事務所社長の孫、宝田 マリアに気付いたキョーコは声に驚いた蓮の手を掴むとマリアの方へと走り出した。


突然のことで、声を上げられずキョーコに引き回される蓮をタレント部の椹や俳優部の松下社長の秘書で通称セバスチャン。

その他大勢の者たちに見られながら二人は、やぐらで一番気合の入った者の元へとたどり着いた。



「よお!来たな?・・よおーし皆の者!!今年も暑い夏を乗り切って最高の思い出を作るぞ!!!」



ねじり鉢巻きに半被姿なのに、バックダンサーはリオのカーニバルなLME事務所社長であるローリィ宝田は大太鼓の前に立つとバチを振るったのだった。




蓮は、笑顔でマリアやローリィに手を振るキョーコを見つめて繋がれたままの手に視線を落とした。



(こんなことで『最高の思い出ができた』とか言ったら・・また、馬鹿にされるんだろうな・・・)



そう苦笑しながらも、少しだけ繋がった手の感触を覚えるため力を込めたのは蓮だけの夏の秘密なのだった。




*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆




うがあっはあ!!・・ごっふ・・・・・・


すみません・・・すっかり鈍って・・・え?今まで通り??


・・・ですよね~・・・デスヨネ・・・・・



きっと、こんな感じで今後も進んで参りますのでどうぞ良しなに!!!




ユンまんまでした☆