§ルートX   75 | なんてことない非日常

なんてことない非日常

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§ルートX   75






 「な、なに!?本当か!?」



蓮からもらった電話に、ローリィは思わず席を立ち大きな声を上げていた。


今、社で会議中のことも忘れて携帯を握りしめ直した。



「本~当に、本~~~当にっ来るんだな!?蓮!!」



『クス・・・本当です・・・明後日の夜に時間が空いたので、伺えます』



「そ・・・そうか・・・・・わかった・・奴にも伝えておく」



ローリィは通話が終わると少し放心状態で、ドカリと椅子に腰を下ろした。



「・・・社長?蓮がどうかしましたか?」



「ぬわっ!いたのか・・・・」



「いたのかって・・・まだ会議中だったんですが・・・」



そう言われてローリィは周りを見渡し、ようやく現在の状況に頭が追い付いた。



「・・・そうだった・・な・・・・いや、こっちのことだ気にするな」



ローリィがそう手を上げると、会議はまた何事もなかったかのように進み始めた。

ただ、しばらく考え込んでいたがにやつきが止まらなくなったローリィを見てその場にいた全員が蓮がまたおもちゃにされているだろうと想像して、勝手に同情の念を送ったのだった。




***********




「ふっぁ・・・ックシュ!」



「コーン・・風邪ひいた?」



事務所での仕事を終えた二人は、一緒に帰ってくることが出来た。

夜食を用意したキョーコは、蓮のおでこに手を当てた。



「んー・・熱はないみたいだけど・・」



しっとりとした細い手を額に感じて、蓮は目を閉じると両手を伸ばしその手の主を抱き寄せた。



「コーン?」



抱き寄せられても、いつものように広い胸に納められるのではなく自分のお腹に蓮の頭がすり寄せられる感覚にキョーコは首を傾げた。



「コーン・・何かあったの?」



キョーコは蓮の髪を梳きながら、まるであやす様に尋ねた。

すると、蓮の顔が当たっているお腹にクスリと笑った振動が伝わってきた。



「・・・キョーコちゃんは・・俺にとって灯台の光のようだ」



「・・・え?」



急にそんなことを言われるなど思っていなかったキョーコは、目を丸くしたが蓮は腕から少し力を抜くと顔を上げそんなキョーコを目を細めて見上げた。



「迷っているときは、導く光となり・・・帰り着けば迎えてくれる暖かな光となる」



「・・・・・・・・・・なにかの・・台詞?」



いつもの蓮らしくない口調に、キョーコがそう返すと蓮は目を少し丸くした後笑って見せた。



「・・・・・・・・うん。どうだった?」



重たい口調にならないように、軽くそう返すとキョーコは少し考えてから口を開いた。



「私は・・・ただ立って待っていたくないな・・」



「・・・え?」



予想外のキョーコの返しに、蓮は目を見開いた。



「ただ・・立って待っていたり、道を示していくよりも・・・同じ場所から一緒に未来を見たり、困難に立ち向かいたい・・・だから、私だったら『帆』になりたいな・・・・・あ、でもそれじゃあ舵を切る人の言いなりかな?・・・じゃあ・・風?でも私のような風だったら船をひっくり返しちゃうかな!?・・うう~ん」



悩み始めたキョーコを目の前に、蓮は唖然としていたが口元がふよ・・・っと弛むと同時に大きな笑い声を上げた。



「あっはははははは!!」



「!!?コ・・・コーン!?・・・」



突然笑い出した蓮に、キョーコが動揺していると蓮は涙を溜めた目尻を拭いながら笑いのため引き絞られた腹を抑えた。



「ははっ・・いたた・・腹いた・・ぶっ!・・・はははっ!!」



「ええ!?なんでそんなっ・・きゃあ!?」



蓮は今度こそいつも通り、キョーコを自分の胸の中に閉じ込めた。



「うん・・・君らしいよ・・・」



強く抱きしめられてキョーコは、そう囁く蓮がどんな顔をしているのかわからなかった。



「そうだな・・・・じゃあ、キョーコちゃんは母なる海になってもらおうかな?」


しばらく抱きすくめられたままにしていると、蓮が名案とばかりにそう言って腕を弛めてキョーコの顔を覗き込んだ。

そんな蓮に、キョーコはキョトンとしたまま言葉を返すしかなかった。


「母なる・・海?」



「そう・・・俺を導き、時に厳しく時に凪いでいつまでも一緒にいられる・・・いいよね・・俺は船で君は海」



「・・・・・うん・・そうだね・・」


蓮は結局、真相は語ることなかったがキョーコが頷くと子供のように微笑んだその顔にただ笑顔を返すしかできないのであった。




**************



「なんだったのかな・・・・」



次の日、キョーコは事務所で昨夜のことを思い出していた。


蓮の言葉も行動も、キョーコには理解が出来なかった。

でも、蓮がなにかを心に抱えている事だけはわかった。



「話して・・・もらえないのかな・・・・・」



側に居るのに、とてつもない孤独感にキョーコは思わず長いため息をついた。

すると、丁度のタイミングで奏江が部室に入ってきた。



「・・・・なに・・その不幸満載のため息・・・そんなのここで吐かないでよ」



「・・・モー子さん・・・相変わらずの手厳しさ・・・」



奏江のキレのいい挨拶代りの言葉に、キョーコは苦笑いを返すしかできなくまたため息をついた。



「なによ・・・アンタにしては随分辛気臭いわね?いつもの無駄な前向き姿勢はどこ行ったのよ?」



「アハ・・・ハハ・・・無駄って・・・」



「あんなことがあったとしても落ち込んでいられないでしょう?」



「まあ・・・・・・・・うん?『あんなこと』?」



今来たばかりの奏江には、まだ何で悩んでいるかなど話してもいなかったのにまるで核心を知っているかのように慰める奏江の態度にキョーコは違和感を覚え聞き返した。



「何とぼけて・・・だって、不破が・・・」



「・・・・・ショータローが・・なに?」



いよいよ話が完全に噛み合わなくなって、奏江は呆然とした後急に口をつぐみだした。



「・・・なんでもない・・・気にしないで」



「え!?何それ!?気になるんですけど~!!」



「そ、それより!今日、オファーがあったドラマの面接じゃなかったの!?」



食い下がろうとしたキョーコを、鬼のような表情で振り払い話を変える奏江にキョーコは気圧されて結局真相は知らされないまま蓮のこと以外で頭を悩ませている事を口に出すことにした。



「・・・面接・・・あったよ・・・あったけど・・・・・」



そう言った途端に、また重く吐き出されるため息に奏江が青筋をたてた。



「だから!その辛気臭いのやめて!」



「だって・・・・・全部同じなんだもん・・・」



「・・・・・は?」



「全部・・・どの役もみんな・・・『美緒』みたいにって・・・」



キョーコから聞いた言葉に、奏江も真顔に戻ってため息をついた。



「・・・なるほどね・・・・・まっ、受けるか受けないかはアンタの自由だけど・・・立ち止まっている暇・・・ないと思うよ?」



奏江はそれだけ言うと、椹から頼まれたのであろう部室に置いてあった書類を手に持ち出て行った。

キョーコは、奏江を黙って見送り閉まる扉の音と重ねるようにまたため息を吐いたのだった。




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