【メロキュンプレゼンツ!! 《ハッピー♡プレゼント!!》】への参加作品です。〔後編〕 | なんてことない非日常

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§Danger Gift~取り扱いの際には細心の注意を~ 後編




 砂漠を炎天下の中彷徨い、夜は氷点下まで下がる中サソリに怯えながら幾数日・・・やっとオアシスにたどり着いた。
・・・・かのような蓮が、自宅マンションのキーを解錠していた。


「・・・やっと帰ってこれた・・・」


時計の針はすでに誕生日を終えていることを伝えていた。


(・・・2時・・・明日は朝8時にテレ麻だから・・・)


時間を逆算しつつ身の回りを片付けていく。
キョーコからもらったプレゼントは丁寧にリビングのガラステーブルの上へ置き、鞄を片付けシャワーに入る用意をして一度キョーコのプレゼントに視線を移す。


(・・・・確認するだけならものの数分だけど・・・)


メッセージが入っていた去年は、完全に先輩後輩という会話文に少々へこみながらも気がつけば15分何も考えずにキョーコが書いた字に魅入っていた×8回。
という前例もあるため、準備できることは先にしておこうと決めてわずかなプライベート時間を有意義に使うため蓮は動き出した。

そして10分後。
結局、大して髪もしっかり乾かさずにミネラルウォーター片手にキョーコのプレゼントの前に戻ってきたのだった。


(さて・・・・)


一口飲んだペットボトルのキャップを閉め、ガラステーブルに置くとそのままキョーコからのプレゼントを開け始めた。

ガサガサと鳴る中身は2つあり、一つはきちんとブランドのロゴが入った袋に収められた革の手袋。
もう一つは、知らない女性シンガーのプロモーションビデオが納められたDVDだった。


(?・・・AIRU?知らないな・・・・)


キョーコの口からも聞いたことのない歌手名に、蓮は首をかしげながらDVDを反しては眺めた。
するとスタッフの中に『京子』の字を見つけ、蓮はキョーコからのメッセージカードをプレゼントボックスの中から探し当てた。

そこにはこう書かれていた。

『敦賀さん。お誕生日おめでとうございます!

いつもプレゼントを迷ってしまうので、今年は社さんに相談したところ演技チェックも兼ねて私が出演しているDVDを欲しがっていらっしゃると伺いました。
半信半疑ですがもしよろしければまだ店頭に並んでいないのですが、私が出演させてもらったPVの演技についてダメ出しをして頂けるとありがたいです。

すみません!せっかくのお誕生日にこんなずうずうしいお願い事を押し付けてしまって。

社さんの話を鵜呑みにするほどボケていませんので、本当のプレゼントは手袋です!
今年も敦賀さんにとって素晴らしい歳になりますように、心からお祈り申し上げます。

                                               最上 キョーコ』


(・・・社さん・・・)


蓮は小さく頭を抱えながらも、メッセージカードを置くとDVDに手を伸ばした。
簡易的なビニール包装がされているのを取り去り、ケースを開ける。
歌詞カードとCD、その裏側にDVDが納められていた。

蓮はDVDを取るとデッキにセットして、リモコン片手にソファーに身を沈めた。
一曲だけなら5分程度なのだが、それには4曲分入っているらしい。

20分程度に蓮は集中した。

再生して曲が始まった。
どうやらスローバラードのようだ。
女性が一人、ゆっくりと歩いて前奏に合わせて軽く頭を振ってリズムを取っていた。
どうやらこの曲を歌っている歌手のようだ。

その女性は歌い始めると、壊れかけたテレビの液晶に軽く手を触れた。
するとそのテレビの中にキョーコと思しき女性が、悲嘆にくれた表情で浮かび上がった。

すると映像は徐々にキョーコへと切り替わっていった。
それと同時に曲もサビに向かっていた。

『貴方がいなくなった日々、もう耐えられない。
こんな思い、今まで知らなかった。
初めて気づいた。貴方の存在が私の中でどれほど大きかったのか・・・。
でも、もう遅い・・
会いたい、もう一度言葉を視線を交わしたい。
もう一度貴方の声で私の名前をやさしく呼んで』


どうやら失恋した歌のようだ。
映像の中のキョーコは、真珠のような涙を幾つも落としていた。
苦しそうで悲しそうで・・・辛いと声が聞こえてきそうな表情を見て、蓮は自分の眉間にも皺が寄った。


(・・・アイツの時のことでも思い浮かべているのか?)


一番のサビに来るとキョーコは、思い出の品なのか男物のシャツを抱きしめて大きく泣き声を上げているようだった。
音声は歌手が歌っているものしか聞こえない。
しかし歌手の悲痛な歌詞とメロディーに、まるでキョーコが叫び歌っているかのように見える。

蓮はリモコンをギリリ・・っと握り締めた。


(俺ならこんな表情させないのに・・・・)


近頃のキョーコは復讐心など元からなかったかのように、女優の仕事を楽しそうにしている。
それでももしかしたら何かのきっかけで、またアイツに心を掻き乱されてこうやって独り泣いているのではと蓮は思っていたのだ。
そんな光景が目の前に映し出されて思わずそう漏らしていた。


(こんな風に泣くなら・・・早く外に目を向けてくれればいいのに・・・)


しばらく見ていると、泣いていたキョーコはノロノロと顔を上げて真っ白な壁に視線を移した。
するとその壁がスクリーンの代わりになって、フィルムが回り始めた。
曲はいつの間にか終わっていて、明るく楽しげなキョーコの声が聞こえてきた。


『なに撮ってるの?』


『うん?俺の、彼女で~す』


『ええっ!?恥ずかしい!』


撮っているのは男の方なのか、声だけしか聞こえてこない。
恥ずかしそうにハニカミながらカメラから逃げるキョーコを、カメラは追っていく。
それを見上げている泣きくれていたキョーコは、かつての自分に背を向けるように映像をそのままにして部屋を出て行った。

するとフィルムの映像は鮮明になり、キョーコを中心に歌が始まりだした。
今度はアップテンポのポップス。

『彼はどんな格好が好き?
彼はどんな曲を聴いているのだろう?
彼が好きな食事は?飲み物は?
私のこと・・・好きかしら?

ドキドキする気持ち、もう止められない。
けれどちょっと待って!彼は人気ナンバーワン!
ライバルも多ければ、私の存在すら知らないんじゃない?!』


どうやら片思いの頃の歌のようだ。
歌が進み、男の方は背中など顔が微妙に見えないアングルでキョーコに花束を渡している。


『うそみたい!
私にもやっとやっと王子様が現れたの!?

彼はどんな格好が好き?
彼はどんな曲を聴いているのだろう?
彼が好きなのは私だっていうことだけ、今は知って・・

嬉しすぎて倒れそうよ!?

幸せな現実に倒れそうよ!?』

アワアワしているキョーコが可愛らしくて、無邪気で・・・
だからこそ先程の曲の時の表情を思い出して、蓮は胸が痛くなった。
この未来にはあの悲しみが待っている・・・そう考えてしまって。


(短い物語なのに、前後を入れ替えているから余計にのめり込み易いな)


ただでさえ曲がつくと物語りは頭に入ってきやすい。
頬をピンクに染めて、カメラに上目遣いで微笑む可愛らしいキョーコが本当に彼氏に撮ってもらっているかのような錯覚を覚えさらに腹の中がグルグルし始めた。

すると突然、その映像はプツンと切れて少し雰囲気が怪しい映像へと切り替わった。
ハードロック調に合わせるかのように、キョーコと数人の女性が少し濃い目の化粧をして現れた。


『嘘をつくのも愛からだって!?
ふざけないで!私は一度も二度も許した覚えはないんだから!

愛してるのは君だけ?それはあの子にもそっちの子にも言っているんでしょう?!

一番になりたいわけじゃない!
言葉だけじゃなく、私だけだと確信させて。
貴方には私かいないんだと』


「・・・・・・・・・・・・」


どうやら彼氏の浮気を責める歌らしい。

『どいつもこいつも、愛を振りまいて。
オトコノ甲斐性?!そんなのクソクラエ!』


怒り狂っているキョーコの姿はまるで雪花の時のようで、蓮は身につまされる気分になった。
以前、キスマークのつけ方を教えてやるなど言い訳をこじつけてことに及ぼうとした瞬間阻止され【むかつく】と言った表情とまったく一緒なのだ。

すると仲が良かったころの映像も、泣き崩れている映像も踏みつけてキョーコは薄暗い部屋から出る扉に手をかけた。


『でもこんな事で私は恋を止めない
こんな事で好きになる心を止めない

私を失って後悔すればいいんだわ?!
泣いたって知らないんだからね!?
今さら遅いんだからね!?

だから早く・・・私だけだと
俺には君だけだと言葉と態度をちょうだい』


挑むような誘うようなキョーコの表情に、蓮は釘付けになった。


(・・・本当に・・・君はどんどん・・・・)


綺麗になっていくだけじゃない、演技力もぐんを抜いて伸びていっているのを目の当たりにして蓮は苦笑いを零した。


(俺も、うかうかしてられないよ・・)


すると曲調がまた変わった。
最後の曲らしい。
スローテンポで始まった曲と共に、扉を出たそれぞれのキョーコの足が映し出され最後裸足で舞い降りた場所は清々しい光が降り注ぐ林の中だった。
澄んだ小川に足先をつけてゆっくりと歩くキョーコに合わせて、曲も徐々にサビに入っていく。

『私は未来へ向かって歩いていく。
貴方との過去はきっと私を強くしてくれると信じて。
いつか二人で見た夢は、一人で叶えて・・・・』


すべてを受け止めて、未来に向かい始めた女性の歌のようだ。
木々の間から降り注ぐ光に時折目を細めながら、キョーコはどんどん歩いていく。
その足取りはしっかりとしていて、迷いなど感じさせなかった。

キョーコは芝が柔らかそうな山を白いワンピースをはためかせながら、頂を目指してゆっくりと上っていく。

『あの時涙した私も。
あの時怒りに囚われた私も。
あの時周りが見えなくなっていた私も。

すべて今、ここにいる私と繋がっている・・・・だから。

まだ見ぬ特別な人と出会えたら、強くなった私で共に歩いていく。

私は未来へ向かって歩いていく。
貴方との過去はきっとこの時のためだと信じているから。
いつか二人で見た夢は、叶えてさらに大きな夢へと・・・』


キョーコがもう少しで頂に辿り着く直前で、その足を止めた。
逆光で顔は見えないが、男性がキョーコに向かって手を差し伸ばしていた。
それに少し驚いたように目を見開いたのだが、次の瞬間・・・


「っ!?」


ふわりと嬉しそうに表情を崩し、柔らかな笑顔を見せその手を取りにさらに足を進めた。
二人手を取り光に向かって歩き出し、映像はそこで終わった。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


会社名のテロップも消えて、テレビにはメニュー画面が映し出されている。
それでも蓮はしばらく呆然としていた。

先程見たキョーコの顔が忘れられないのだ。

あの表情はいったい・・・。
アイツに恋をしていた時のような盲目さではなく、本当に新たな恋に目覚めて羽ばたこうとしている女性の表情だった。


(・・・・・演技・・・・?それとも・・・・・)


時計はすでに午前3時を回っている。
しかし蓮はそのままソファーで悶々と考え込み、翌朝を迎えてしまうのだった。


*************


「・・・・・・・蓮・・・君?」


キョーコからのプレゼントはどうやら玉手箱だったらしく、蓮は一気に老け込んだように・・・社には見えた。


「社さん・・・俺は開けてはいけないプレゼントをもらったようです・・・」


「は!?」


「・・俺・・・本当にうかうかしてられないのかもしれません・・・」


目を丸くしている社を他所に、蓮は携帯の画面にキョーコの番号を表示するとそれをじっと睨み付けるだった。

そんな蓮がいる楽屋前に立ち尽くす人物が一人。


「あれ?京子さん?スタンバイまだですよ?」


「あっ・・はい!あの・・敦賀さんに挨拶を・・・」


するとスタッフはキョーコの手元を見て頷いた。


「ああ!今日はバレンタインですもんね?」


「え!?・・ええ!お世話になっていますチョコを・・あ、あと皆さんにも用意してきたので後でお持ちしますね?」


「ありがとうございます!それじゃああと30分ほど待っててください!」


「はい!・・・・・」


スタッフが去っていくまで、キョーコは営業スマイルで乗り切ると自分の手の中にあるものを見つめ大きく息をこぼした。


「ふう・・・変に構えちゃダメよね・・・でも・・・ばれてないよね?DVD見たくらいじゃ・・・」


撮影の時、ずっと共演者の顔に誰の顔を重ねていたのか・・・。


「・・・アイツと思われていたら嫌・・・なんだけど・・・・・・」


そう呟きながら、バレンタインのプレゼントをガサガサと取り出す。
今年だけはチョコを用意したキョーコ。


「・・・だって・・・告白するには・・やっぱり・・・チョコ・・だよね?」


蓮にようやく告白する決意をローリィに話し、先日ラブミー部の卒業も言い渡されたばかりのキョーコは何度も深呼吸を繰り返すと蓮にとっては最終兵器のような
Danger Giftを握り締めて楽屋の扉をノックした。
それとほぼ同時に蓮がキョーコの携帯に電話をコールした。
一言伝えたくて・・・・

贈る方も贈られる方もそのプレゼント、取り扱いの際には細心の注意を・・・・・。



end


《・・・あれ!?甘くない!ホラーチック!?
これから甘くなるはず!皆様の脳内で!!(ええ~~ってすっごい聞こえる・・・・・)
こ、こんなのでも・・・無理やりアップしちゃってごめんなさいいいいい!!!土下座しながら高速バック中》