《やっと続きです・・・長いことかかってますね・・・orz
こんなはずでは・・・・は、もう何回目でしょう?(遠い目・・・》
§心の天秤 12
『もう、私の出番はないわね?』
キョーコは病室の外で、寂しそうに笑った。
この恋はきっと、親友を取られたくない想いから生まれたのだとキョーコは自分を納得させて隣を見ると同じように失恋した飛鷹が俯いている姿が目に入った。
まだ諦めきれないのか、悔しそうに眉間に皺を寄せ失恋の痛みに耐えている飛鷹にキョーコは苦笑した。
(この姿は・・私なのかも・・・)
キョーコは力強く飛鷹の肩に腕を巻きつけた。
『飲みにこう!!』
『は!?何言って・・って、俺は未成年・・・』
『いいから、付き合いなさい!!』
必死に抵抗を見せる飛鷹を、難なくキョーコは引きずってそこから離れていくのだった。
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「カット!オッケイです!!・・これで、京子さんのシーンオールアップです!お疲れ様でした~」
「ありがとうございました!」
助監督からの掛け声に、キョーコはさっとスタッフや共演者達にお礼を述べ頭を下げた。
「お疲れ様、最上さん」
スタッフが用意した花束を、蓮が代表で手渡しに行くと一瞬顔を強張らせたキョーコは直ぐに何事も無かったかのように微笑んでそれを受け取った。
「ありがとうございます・・・敦賀さん・・・」
「うん?」
「・・・・これで、敦賀さんも私に気を使わなくてもいいですよ?」
「え?」
作った笑顔で、キョーコは言われる前に先に言ってしまおうと困惑の表情をする蓮を見上げて先程頭の中で想定した言葉を放った。
「敦賀さんの役に対する姿勢は十分知っています・・私を、『美沙』を『小崎』さんに想いを寄せやすいようにして下さったんですよね?だから・・あんな言葉を・・・大丈夫です!私、わかってますから・・勘違いなんてしませんから」
キョーコは、呆然とする蓮に言いたいだけ言って頭を下げると他の共演者やエキストラ・スタッフ達にお礼を述べに行ってしまった。
「・・・・どういう・・・ことだ?」
キョーコからの言葉が、耳の奥に入ってこない。
耳から中に入ってくるのを拒んでいるように、音が脳に届かない。
(何の事を言っているんだ?・・・勘違い?想いを寄せやすいように・・・した?)
思い当たるのはあの告白のことだが、役に感情を入れるように言った覚えもないしむしろそれ以上役に感情を込めないで欲しいとさえ思ったくらいなのに・・・。
混乱した頭で、スタッフ達と談笑しているキョーコを呆然と見つめている蓮の横に社がため息交じりで歩み寄ってきた。
「・・・・・しっぺ返し食らうぞって忠告したぞ?」
「・・・社・・さん?」
社は、先程のキョーコの言葉を自分なりに読み解き心配していた事態になっていることをいち早く悟っていたのだ。
「キョーコちゃんの感情を必要以上に試したりしたから、肝心な時に信用してもらえないんだ」
目を見開く蓮に、未だ自分がした行動によりキョーコがあらぬ方向に勘違いしていることに気が付いていないのを社は大きなため息で返した。
「つまり、さっき渾身の想いを込めて告白したお前の言葉は『役』の感情を育てる手段だと思われたということだ」
「!?・・・そんなっ・・・・」
あの時は確かに、キョーコの感情が自分に向いてきているとわかって安堵して少し仕掛けてしまったのは認める。
しかし、社が厳酷していたことにはならないと何処か高をくくっていた。
「キョーコちゃんは社長曰く、ラブミー部のラスボス・・・だろ?お前の快心の一撃一発だけじゃ倒せるわけないんだ」
「・・・・・・・・・社さん・・・・」
神妙な顔になった蓮に、社は真剣な表情で頷いた。
「敦賀さん、あの子を泣かせないでとは頼みましたが・・・あんな変な笑い方をさせるのも酷くないですか?」
背後から、棘棘しいオーラと言葉を纏って二人の会話を聞き終えた奏江が割って入ってきた。
「琴南さん・・・」
「全く・・・二人して鈍感というか・・・恋愛超初心者とは・・・敦賀さん、本当のところの女心って実は全く知らないんじゃないんですか?」
「・・・・・・・面目ない・・・」
天下のモテ男は、近しい者たちにザッパザッパと切りつけられてもうぐうの音も出なかった。
「あの子のことだから、きっと自分の感情からも敦賀さんの想いからも逃げ出そうとしていますよ?」
言葉は厳しいのに、その反対に奏江からの視線は何かを期待するものが込められていると蓮は感じ取り大きくため息をつくと項垂れた。
「・・・・琴南さん・・・協力・・してもらってもいいかな?」
「・・・とっくにしてます・・・今度こそ本当にあの子を掴まえて現実を見せてくださいよ?」
情けない程、眉を下げお願いした蓮を見ることなく奏江はそれだけ言い残すとキョーコの元へとツカツカ歩いて行った。
「・・・・お前って・・・本当にキョーコちゃん絡みだとズタボロだな?」
「・・・・・・・・・」
奏江の後姿を見送っていた社にまで、さらに傷口を抉られた蓮だったがこれから来る最後の戦いに備えて姿勢を正すのだった。
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「あっ!モー子さんもっ・・お世話になりました」
キョーコは、他の共演者達にしたように奏江にも形式ばった形で深々と頭を下げた。
「・・・その変な顔やめなさい」
「・・・え?なに言ってるの?モー子さん・・」
冷たい視線で、へらリと笑うキョーコを睨みつける奏江に周囲にいた者たちは途惑いながら二人から距離を取った。
「ほっとにアンタは手がかかるんだからっ」
「モー・・子さん?」
「そのどうしようもない後ろ向きな考え、全部一度捨てなさい!」
「!?」
奏江から一喝されて、キョーコの体がびくりと跳ねた。
と、同時に張り付いていた笑顔は驚きから悲痛に耐える苦悶の表情へとすぐさま移っていった。
「敦賀さんにボロボロにされた感情なら、敦賀さんに全部ぶちまければいいじゃない!あんたはやられたらやり返す女でしょう!?・・それに・・・・いつまでその過去の傷を大事にしまいこむ気?敦賀さんなら・・・その傷ごとアンタを受け入れるんじゃないの?」
奏江の言葉に、キョーコは体を小刻みに震わせ硬くなった首をそろそろと動かしジッ・・と見つめてくる蓮を見た。
「キョーコ・・・自分の気持ちに正直になるのは今しか無いわよ?」
先程までの激しい口調から一転して、奏江の心底キョーコを心配した言葉が静まり返ったスタジオに響いた。
その時、キョーコの心の中ではズタボロになり崩れてしまった心の天秤がボチャリと泉の中に落とされたのだった。
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