§心の天秤   13 | なんてことない非日常

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《先に謝っておきます・・・私は根っからのギャグ大好き人間です。
シリアスにもう、付いていけなかった・・・(え?今までもそんなにシリアスじゃないって!?)》


§心の天秤   13




 その湖から出てきた神は、絵本の中のことと同じ言葉を私に投げかけた。


「アナタガ~オトシタノハ~コノ金ノ天秤デスカ~?銀ノ天秤デスカ~?」


だから、私も物語のように正直に述べた。


「いいえ・・・私の天秤はメッキで出来たもので・・ショウータローのせいでズタボロになってハゲハゲになったところを、敦賀さんによってぐしゃぐしゃに破壊されました」


すると・・神様は・・・・・。


「エクセレ~ンッツ!ソンナ、ショウジキモノノアナタニハ~・・・コノ!スワロフスキーデコノ天秤ヲサシアゲマ~ッス!!」



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「・・聞いてる?最上さん」


「へ?・・・・・・はわっ!?・・・聞いて・・・ませんでした・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・」



プチ物語へ小旅行していたキョーコは、やっと現実に戻ってきて項垂れた。

スタジオで騒いだため、理由のわからないスタッフ達が困惑し始めたのがつい先程のこと。
今日の撮影も終わりだったので、本来ならキョーコのクランクアップのお祝いに小さな慰労会という名の飲み会が行われる予定だったのだが蓮自ら頭を下げ混乱状態にあるキョーコと共にスタジオを後にしたのだ。

その後の騒ぎは、きっと社と奏江が収めてくれるだろうと信じて・・・。


会話も無いまま蓮のマンションへ到着し、大人しくコーヒーを淹れてもらっている間にキョーコは先程の小旅行へと出かけていたのだ。


「・・・最上さん・・・ごめん・・」


「へ?え?」


まだ意識が完全に現実に戻ってきていなかったキョーコは、蓮からの突然の謝罪によりようやく覚醒した。


「君を・・試したつもりは無かったんだ・・・ただ・・・もっと俺を意識して欲しくなっていたのは事実で、結果として君が俺に感情があるのか試してしまっていた・・・そして、混乱させて・・哀しい思いをさせていた・・・」


キョーコは、正座した足の上に置いていた両手をぎゅっと握り口を開きかけた。
その瞬間、先程の奏江の言葉が脳裏に甦った。


『敦賀さんにボロボロにされた感情なら、敦賀さんに全部ぶちまければいいじゃない!あんたはやられたらやり返す女でしょう!?・・それに・・・・いつまでその過去の傷を大事にしまいこむ気?敦賀さんなら・・・その傷ごとアンタを受け入れるんじゃないの?』


キョーコは開きかけた唇を強く結ぶと、神妙にして目の前に座る蓮を見据えた。


「・・・私こそ・・すみません・・・・もし、またこの感情の存在を全て否定されてしまったらって考えたら・・・自分の気持ちからも・・敦賀さんの気持ちからも逃げ出していました・・・」


キョーコが話す姿を、蓮は何も言わずにじっと見つめ続けた。


「アイツに付けられた傷が癒えたのかいないのかわからなくて・・・確認することも怖くて・・・もう、二度とあんなに痛い思いはしたくなくて・・・『役』になりきるためにそうしたんだと思えば楽になるなんて思って・・・私こそ最低ですっ・・・あんなに自分を変えたくて・・・変えてくれるお芝居と正直に向き合おうって決めたのに・・・逃げ道にしてしまっていた・・・」


いつの間にかボトボトと大きな瞳から涙を溢してそう独白するキョーコの肩を蓮は、優しくそっと擦った。


「でもっ敦賀さんだって悪いんですよ!?待つとか言っておきながら人の気持ちを揺さぶったりっいくらお仕事とはいえ・・・あんなタイミングで・・」


「うん・・・それは本当にごめん・・・・もう既にたくさん怒られたから・・・」


ようやくキョーコから、本音の怒りをぶつけられた蓮は申し訳なく思いながらも嬉しそうにその細い肩を引き寄せた。

フワリと抱きとめられ、一瞬涙を止めたキョーコだったが蓮の香りにまた別の涙が溢れ出して蓮の肩に目頭を押し付けそこをじんわり濡らした。

一頻り泣いたキョーコの耳元に、蓮は想いの全てを込めて優しく囁いた。


「愛してるよ・・・最上・・・キョーコちゃん」



湖から上がってきた、色とりどりのスワロフスキーでデコレーションされたキョーコの天秤はその雫を全て落とし乾いた片皿の上にゆっくりと舞い降りてきた真っ白な天使の羽をフワリと乗せた。

カタン・・・

と優しく小さな音をたて天秤が傾いた。
その音を聞いたのは、きっとキョーコだけではなかったのだろう。
蓮の天秤も同じ方に傾き、二人はようやく想いを重ねることができたのだった。



******************



「・・・なんとか・・・誤魔化せたな・・」


「ごめんね?飛鷹君まで巻き込んじゃって・・・」


奏江は、申し訳なさそうに一緒に歩く飛鷹に頭を下げた。


蓮とキョーコがいなくなったスタジオは、当然の如く騒然となった。
そこを社の上手い言い訳と、奏江のフォローに加え飛鷹までもが話をあわせてくれたため騒ぎは簡単に鎮圧出来た。

そんなフォローをしてくれた飛鷹に、奏江はお礼を述べたのだ。


「なんで奏江が謝るんだよ・・・俺は当然のことをしただけだし・・・大体、あの鶏女が変に誤解するから・・」


「そこは・・・あの子にも色々事情があるから・・・でも、本当に助かったわ・・・ありがとう・・飛鷹君」


「・・・・お・・おう・・・」


心の中でガッツポーズをしながらも、表面上取り繕い軽く頷いた飛鷹に奏江はクスリと笑った。


「・・・私も・・・素直にならなきゃ・・」


「?・・何の話だ?」


「なんでもない」


「?」


フフっと楽しそうに笑う奏江に、飛鷹は首を傾げるのだった。





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