§心の天秤    4 | なんてことない非日常

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§心の天秤 4





 キョーコは台本を見つめていたが、不意にそれをギュッと握りしめた。


自分の中に黒い感情が沸き起こってくる。

それと同時に、自分は蓮にとってやっぱり手のかかる後輩でしかなかったんだと改めて痛感した。

今まで一緒の現場の時は何かと気にかけてくれ、気が付いたら傍にいた。

何か思い悩むことがあるといつも親身になって相談に乗ってくれた。


落ち込めばドライブがてらに食事に誘ってくれたり、食事を作りに行けば嬉しそうに微笑んでくれていた。

そのどれもが自分が蓮の傍にいてもいいのだと確認できるものだった。

しかし、今回初めて自分と同じラブミー部である奏江と同じ現場になり奏江がまるで今までの自分の様に扱われ親身に接されているのを見るたび心の奥底から黒い感情が湧きあがってきた。


『そこにいたのは自分なのに・・・・』と。

 
そう思うたびにキョーコは頭を振ってその感情を押しだそうとした。

でも、日増しにその感情が大きくなっていって徐々に自分の中でコントロールできなくなっていた。


心の天秤が崩壊しそうにぐらぐらと音を立てている。

 
友情と恋心。

この二つが両天秤の上で戦っていた。



奏江への友情は確固たるもので、揺らがないと思っていたのに蓮と楽しげに話す奏江がまるで知らないただの女優にしか見えず蓮と自分との距離を作っているかのようにしか感じられなくなり、奏江にさえ嫉妬を抱き始めていた。


恋心については、はっきりいってまだ認めたくない。


これは蓮への崇拝だけなのかもしれない尊敬の意が強いから独占したいと思うのかもしれない。

などとまだそんな事を考えているのだが、これから演じる『美沙』の台詞がその考えを恋心へと押し流すのだ。




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『すき・・・・なんです・・・・主任の事が・・・』



キョーコはぐっと潤む瞳で蓮を見上げた。

驚いた表情の蓮にキョーコは自嘲気味に笑った。



『わかってるんです・・・・貴方が・・・有理のことを好きなこと・・・でも・・・私だってずっと見てたんです!!でも・・・貴方をただの上司だと思えなくなっているんですっ!!』



最後は叫ぶように気持ちを吐き出したキョーコに、蓮は本当に辛そうに顔を背け視線を逸らした。


 

『・・・・・ごめん・・・・俺にはそれに答えることはできない・・・・・俺は・・・峰山さんが好きなんだ』




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「カーット!!敦賀君!!そこは美沙をしっかり見返しながら言ってくれないかな?有理のことが好きなんだとの意思を確固たる物にした小崎の表情で」



監督の声で蓮とキョーコの肩が大きく揺れた。



「・・・・・・はい・・・すみません・・・・・ごめんね?最上さん」



「いっ・・・いえ・・・・」



ふう・・・っと大きくため息をついた蓮の背中をキョーコはじっと見つめた。


蓮がNGを出す事が珍しいとかそんなことよりも、蓮の表情が浮かないのが気になって声をどうかけようか迷いあぐねるキョーコの姿を奏江と飛鷹は二人でじっと見つめていた。




「・・・・あの・・・二人って・・・両思いなんじゃないのか?」



「・・・・・本人達は気がついてないのよ・・・・」


飛鷹の呆れ口調に奏江も合わせてそう言うと、撮影を再開させた二人をまた心配そうに見つめたのだった。