§心の天秤   3 | なんてことない非日常

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§心の天秤    3






 「おい・・・蓮・・・お前、いい加減にしておけよ?」



監督との話が終わった途端にキョーコのところに向かいかけた蓮を、社が冷ややかな視線と言葉でやんわりと止めた。



「・・・・・・え?」



やんわりとしているがその語気には強いものが感じられ、蓮は驚きの表情になり社を見つめた。



「なんのことですか?」


「なんのことですか?じゃないよ!・・・琴南さんだよ・・・・・」



「?・・・彼女がどうかしましたか?」



コテンと首を傾げる蓮に社は声は潜めているものの、眼光は完全に尋常なものではなく蓮を睨みつけた。



「お前、いつものように行動してるだろうが彼女はラブミー部員なんだぞ?!」



「・・・・は?・・・・そんなこと知ってますよ?」



「キョーコちゃんの親友なんだぞ!?」



「だから、わかってますが?・・・・それが何か?」



全く意に介さない蓮の態度に痺れを切らした社が、蓮の肩を掴んでガクガクと揺すった。



「お~ま~え~は~!!いくら芝居のためとはいえキョーコちゃんの親友を自分に惚れさせるためにあんな風に接しなくても良いだろ!?しかもキョーコちゃんの目の前で!!」



ガクガクと揺すられた衝撃もそのままで蓮は小さくため息をついた。



「・・・・・・意識・・・してくれたら・・・いいとは思ってます・・・・」



「は?」



ぜえぜえと息を乱す社の耳に蓮のかすれた小さな声が入ってきた。



「なんだって?」



「・・・・・琴南さんにしてくれるのが一番ですが・・・少しぐらい・・・俺にでもいいから嫉妬なり意識してくれたら良いのにって・・・思ったらいけませんか?」



(!?な・・・なんだっ!?このスネスネ蓮くんは・・・・・)



少しむくれてふいっと顔を逸らす蓮に社は呆然と立ち尽くした。



「・・・この撮影の打ち合わせや顔合わせから・・・俺のことなんてほとんど挨拶のみで琴南さんや上杉くんとばかり楽しげに話しているのを俺が毎回邪魔するばかりなんです・・・・まるで俺一人彼女に踊らされてるみたいで・・・・・ドラマの中では俺を追いかけてくれるようになるんだから・・・・少しの間くらい俺を意識してくれても良いじゃないですか・・・・・・・・」



言っているうちに恥ずかしくなってきたのか、蓮は熱くなる頬を隠すように手で口元を覆うと社の脇をすり抜け、自分に用意されたディレクターズチェアに腰をかけ、台本に目を通し始めた。



その様子を呆然と眺めていた社だったが、あまりにも無残な蓮の恋心に涙を流しながら蓮の足元に這いつくばって蓮を慌てさせたのだった。





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(何してるのかしら・・・あの人たち・・・・)


奏江は蓮が足元に縋りつくように泣きつく社を、慌てて許すのを呆然としながら見ていた。

その顔をキョーコと飛鷹は複雑な表情で見ているのだが、それぞれはそれに気がつかないまま微妙な空気が流れた。



「・・・・・モー子さん・・・」



「え?なに?」



「う・・・ううん・・・なんでもない・・・・・・」



少し青ざめたキョーコの煮え切らない態度をいぶかしんでいると、奏江の手が急に引っ張られた。



「!?飛鷹君!?」



驚く奏江に飛鷹は無言で誰も乗っていないロケバスの方へと引っ張った。

その様子をただ呆然と眺めるキョーコや蓮たちを尻目に飛鷹はずんずんと歩き、それを止めようと奏江が叫び続けた。



「飛鷹君!?飛鷹くん!!」



一向に止まる気配がなかったため奏江は一気に力を込めて腕を引くと、飛鷹の動きを止めた。



「どうしたの!?」



切れる息と走る動悸を抑えながら奏江が背を向けたまま手首を掴んで止まっている飛鷹に声をかけた。



「・・・・んな・・・顔すんな・・・」



「・・へ?・・・なに?・・・小さくて聞き取れない・・」



「そんな顔して俺以外見るなよ!!」



「・・・・・・えっ!?」



背中を向けたまま叫ぶ飛鷹に目を丸くしていた奏江が首を傾げていたのだが、何かを思いついたように頷いた。



「・・海斗・・・くん?」



「あ?!」



「え?・・・・違うの?」



奏江の返答に飛鷹は顔面を引きつらせながら勢いよく振り返ったため奏江は困惑の表情で飛鷹を見つめた。



「役に・・・入っちゃってるのかと・・・」



「っつ・・・・・・んなの・・・カチンコ鳴らないと芝居なんかしないだろう・・・」



「じゃあ・・・一体どうしたの?」



「だから!!・・・・・・~~~~っつ・・・・もういい!!!」



飛鷹は乱暴に奏江の手を振り放すと、怒りながらまた先ほど座っていたイスにどかどかと歩いて戻っていった。



「ま、待って!?飛鷹君!!私何かした!?」



「なんでもない!!」



「だって・・・・」



申し訳なさそうに縮こまりながら、傍らに立つ奏江に苛立ちを止められない飛鷹は椅子の背もたれに向かってしがみついた。



どう対応したらいいかわからないでいる奏江の元に、同じようにおろおろしているキョーコの脇を通りぬけた蓮がやって来た。



「琴南さん、今はそっとしておこう・・・・きっと彼もわかってくれるから」



「・・・!敦賀さん・・・・そう・・・ですね・・・・」



蓮の説得で奏江は飛鷹を気にしながら蓮に背を押されるように飛鷹の元を離れた。


そして奏江は蓮に庇われるようにキョーコの元に連れて来られた。



「最上さん、琴南さんと一緒にいて?この後のシーンも二人一緒が多いから二人で話す時間がある方がいいだろう?…俺は彼と少し話しがあるから・・」



「は・・・はい・・・」



キョーコは奏江を蓮から受け取ると、小さく頷いた。


だが、蓮が去ろうとすると振り返った奏江が不安そうに蓮の服の裾を引っ張った。



「あ・・・あのっ・・・・」



「・・・・・大丈夫・・・きっと上手くいくから」



蓮は軽くウィンクするとまだ不安そうな奏江に微笑んでから、呆然とするキョーコをちらりと見るとすぐに背を向け飛鷹の方へと歩いて行ってしまった。


キョーコはまだ不安の塊を胸に抱えているかのように、胸元で両手を握りしめる奏江が蓮を見送る姿を重苦しくなる感情が何か気付きながらも、そこから顔を背けただ眺めるしかできなかったのだった。