§心の天秤   2 | なんてことない非日常

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§心の天秤    2





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 『どうしよう・・・美沙!!主任と一緒に出張行くことになったの!!しかも二泊も!!』



奏江は半べそになりながらキョーコの腕に縋りついた。



『落ち着きなさい!・・これはチャンスよ!!・・・いい?小崎主任は絶対、有理のこと意識してると思う!!だからこの機会に積極的にアピールしなきゃ!!』



『ど・・どうやって?』



『そうね・・・・例えば・・・・・』



二人は想像力を働かせるため上部を見上げた。



*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


『峰山君・・お疲れ様、今日はもう宿に戻ろうか?』



『・・・・・小崎主任』



奏江は蓮を呼び止めた。



『どうした?』



怪訝な顔で奏江を覗き込む蓮に奏江は顔を赤らめて目を潤ませた。



『お・・お願いです・・・・』



『?』



『私と・・・今夜一晩一緒に過ごして下さい!!』



*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


『無理でしょう!?そんなの!!むりむりむりむり!!!!』



奏江はキョーコの提案にものすごい勢いで首を振った。



『ええっ!?この際ずばっといかないとっ!!』



キョーコは奏江に食って掛かった。



それに奏江は泣きながら首を振った。



『絶対無理~~~~!!!!』





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「よっし!!これでいいだろう!!じゃあ次のシーン行くぞ!!」



スタジオで撮った映像と先ほど撮った映像を繋げて視聴した三人は安堵の表情でまた立ち位置についた。



その様子を飛鷹は複雑な心境で見守っていると、ふと顔をこちらに向けた蓮と視線が合った。



飛鷹はびくりと体を震わせ、息を詰めると蓮は始めただじっと見ていたのだがそのうち、にっと口の端をあげて奏江になにやら耳打ちし始めた。



少し話しかけると、奏江は蓮を赤い顔で軽く睨み背中を押すようにして立ち位置に押しやった。



まるでその雰囲気は。



「わあ・・・・本当の初々しいカップルみたいねぇ・・」



飛鷹のマネージャーの松田がまた、ついうっかり口を滑らすと飛鷹にものすごい勢いで睨まれた。



(なんだよ!?あいつ!!!あのバカ女が好きなんじゃないのか?!いくら恋人同士になる役だからってくっつき過ぎだろう!?)



イライラとせわしなく足をゆすり蓮を睨みつけている飛鷹の対角線に、先ほどの様子から視線を逸らすキョーコがいた。



「じゃあ、京子さんは親友を心配するあまりに尾行するという事なので、ここの石橋からそっと様子を伺ってください」



「はい!」



助監督の指示にキョーコは大きく頷いて一人石橋の柱影に潜んで座った。



(あれは・・・・有理!私の親友!!そして敦賀さんは小崎主任・・・有理と私の上司で有理の恋人になる人!!私はそれを応援しているの!!!)



すーはーすーはー・・と呼吸を整え、くっと視線を上げて二人を見るのだが・・・まだ、何やら話しながら楽しそうに蓮が奏江の顔を覗き込んで笑顔を見せ奏江は苦笑しながらそれに何か言い返していた。



(・・・・・・・・・・はっ!?ち・・違う違う!!あれはモー子さんでも敦賀さんでもないの!!違う!!違うんだから!!!)



心の中で何かのバランスが崩れたように嫌な動悸が広がる。



「京子ちゃーん!!準備はいいかい!?」



監督からメガホンで確認を取られると、キョーコは慌ててスイッチを入れ替えて返事をすると芝居に集中した。





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『小崎主任!?あ・・歩くの早いです!!』



奏江はスタスタと先を行く蓮に息を切らして小走りで追いつこうとするのだが、蓮はドンドン先を行ってしまう。



『主任!!』



『!・・・あ・・・悪い・・・早かったな・・』



痺れを切らした奏江が大声で呼びかけると、蓮は驚いて振り返った



小さく謝った蓮に奏江は怪訝な顔をした。



『どうしたんですか?そんなに急いで・・・・』



『・・・・・少しでも・・・早く終わらせたくて・・・ね・・』



苦笑しながらの蓮に奏江は急に寂しい感情が湧いて出た。



(そんなにさっさと終わらせたいぐらい私と一緒にいたくないのね・・・)



落ち込むように下を向いた奏江に蓮は少し破顔しつつ口元に手をやった。



『・・・早く仕事が終われば・・・・その分、ゆっくり観光できるだろう?・・・・せっかく遠方まで・・・来たんだし・・・』



思いもかけない言葉に奏江は驚いて顔を上げると、神々しい笑顔が自分に降り注いでいた。



『・・・行こうか?峰山君・・急いで仕事を終わらしてしまおう?』



『っ・・・・っはい!!』




その様子をこっそり見ていた美沙は少し寂しそうにしながらも、安堵の息を付くと走って蓮に追いつく奏江の背中を見つめた。




『・・・よかったね・・・・有理・・・・・』





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「カーット!」



「チェック入りまぁ~す」



バタバタとスタッフ達が動く気配の中、キョーコは極力蓮達を見ないようにしていた。



(何でこんな忌まわしい感情が今頃・・・・っ・・・)



キョーコは胸を押さえて苦痛に耐える表情でその場に立ち尽くしていた。



「・・・さん?・・・・・」



かすかに背後から声が聞こえてくる。


それにキョーコは緩慢に反応して振り返ると、そこには蓮がいた。



「最上さん!?具合悪いのか?!」



心配そうに眉間に皺を寄せ、すぐ側でキョーコを覗き込む蓮にキョーコはひゅっ・・と呼吸が止まり慌てて顔を逸らした。



「・・い・・・いえ・・・・何でもありません・・・・・」



「・・・顔色・・・すごく悪いよ・・・・とにかくこっちに・・・」



蓮はキョーコの腕を掴むとロケバスに連れて行こうとしたが、キョーコはそれを振り払った。



「だ、大丈夫です!!・・・・・・あ・・・す・・・すみま・・せん・・・・本当に・・・・なんでもありまんから・・・・役に集中してただけです・・から・・・・」



「・・・・・・・そう?・・・・それなら・・・いいけど・・・・」



蓮は急に空虚になった手の中を埋める様に握り締めると、監督に呼ばれたため俯いてしまったキョーコを心配しながらも移動して行った。



「・・・・・ちょっと・・大丈夫なの?」



蓮と入れ替わるように奏江がやってくると、キョーコは歪みそうになる表情を堪えて笑顔を作った。



「うん!!二人がすっごく上手だから・・・つられて私まで『美沙』になりきっちゃった!だってこの後、本当は小崎主任が好きだったっていう設定でしょう?・・・だから何だかこう・・もやっと・・・・・ほ、ほら!飛鷹君も集中してるみたいだよ?『有理』の事を好きになっちゃう『海斗』くん役でしょ~・・・あ!飛鷹君に話があったんだった!!じゃあねモー子さん!!」



バタバタと奏江の前を走り去ると、嫌がっている表情を見せる飛鷹にキョーコが苦笑いしながら話しかけてるのを見て、奏江はため息をつきながら監督と話している蓮を眺めた。



(何処まで計算してるのかしら・・・あの人・・・・・)



本当に怖い人だなあ・・・・と奏江は思いながら蓮とのやり取りを思い出した。




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「琴南さん・・・もしかして・・・最上さんを手本にしてる?」



「・・・・ええ・・・このキャラにはあの子の様な感じが合う気がして・・・」



立ち位置に移動するように言われたあの時、二人はこう会話をし始めた。



「そうだね・・・『有理』にはそんな感じが合うかな・・・・でも、本当によく見てるね最上さんの行動によく似てる」



少し顔を綻ばせながらそういう蓮に奏江は半ば呆れた表情で笑った。



(・・・あの子・・こんな顔されて見られて何で気づかないのかしら・・・・・)



「顔・・・崩れてますけど?」



「え?・・・・そう?・・・・・・・・・そういえば・・・彼・・・」



蓮は崩れかけた顔を隠しながら奏江の耳に近寄ると小さく囁き、ちらりと飛鷹を振り返った。



「いい表情をするよね?琴南さんに俺が話しかけると・・・」



その蓮の行動に赤面しながらも、にっと口角を上げた蓮のその表情は俳優魂に火がついたような感じがして奏江は飛鷹に気づかれないように伺った。



飛鷹は蓮を睨みつけており、まるで『海斗』が兄の『空也』に挑みかかっているように見えた。



(・・・飛鷹君・・・・もう役の感情を掴んでるのかしら・・・・私はまだ・・・・・ただ、あの子の真似をしてるだけだわ・・・・)



奏江は俯いてきりっと痛む胸を押さえた。



キョーコは蓮の芝居を見ているうちに演技の技術を盗んでいったと話していたことがあった。


自分はどれほどのものを蓮から得られるのか・・・

それとも自分よりもずっと素人だったキョーコが、今や見上げたくらいじゃ届かないほど上に行っているかのような錯覚を思わせるほどの演技をするのをただ指を咥えて見ているしかないのか。



奏江は蓮を見るたびにキョーコを嫉妬しそうになる自分が嫌になった。



(確かに・・・敦賀さんはすごい俳優だと思う・・・今回一緒に共演して噂に聞いていたのなんて足元にも及ばないほど全ての空気を司る人になってる・・・・だからってあの子の急成長にこの人が全て関わってるわけじゃない・・・・あのこの実力を偶然この人の手によって引き出されただけなんだと思う・・・・そう、思うけど・・・それでも・・・・ずるいと何処かで思っている私は・・・・・・・・)



「琴南さん?・・・すっごい眉間の皺だよ?」



蓮が俯く奏江にそう声をかけてきて覗き込む体勢に思わず奏江は赤面した。



「なっ!?そ、そういうのはあの子だけにして下さい!!」



「え?・・・・そういうの?」



無自覚なのかとぼけているだけなのか、その蓮の行動に苛立ちを覚えながら奏江はそれ以上話す気になれず、無理やり蓮の背中を押して立ち位置に移動させたのだった。






**************





(はあ・・・・私ったら・・・・なにしてるのかしら・・・・・私は私なりに成長すれば良いと自分に言い聞かせたばかりなのに・・・)



キョーコと久しぶりの共演と聞かされたとき、歓喜するキョーコの横で実力の差が大きくついていたらどうしようと怯えた自分を叱咤した。



(あの子は・・・あの子なんだから・・・・)



奏江は飛鷹とぎゃあぎゃあと言い合いをし始めたキョーコを見つめ、ぐっと顔を上げ二人の元に足を向けるのだった。