†クリスマス・クラッシュ 7
どんよりと落ち込んだ蓮にキョーコが熱を測った日から4日が経った。
その日から、やたらと蓮が距離を詰めてきているように思えてキョーコは落ち着かなかった。
「・・・最上さん・・・こっちに座ったほうがよく見えるよ?テレビ・・・」
夕食の時、いつも少し離れたところに座っていたのに気がつくと蓮の真横に食器などが用意されてしまっていて、キョーコは渋々そこに座るしかなかった。
それはどんどんエスカレートして、今日はさらにクッションが二つぴったりとくっつけられるように置かれていて、蓮がその上をぽんぽんと叩いてキョーコを促した。
「・・・・・は・・・はあ・・・・・」
キョーコは今日も渋々、蓮の横にちょこんと座り折を見ながらずりずりと距離を離していたのだった。
「最上さん」
「!・・・は・・・はい?」
洗い物を一緒にしていても、袖が触れ合いそうな距離にいる蓮から声をかけられキョーコは目を見開きながら顔を上げた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや・・・・なんでもないよ・・・」
(・・・・・・・また・・・・・・・)
ここ数日、こういったやり取りが多くてキョーコはうんざりしていた。
苦笑いをする蓮になんとなく聞き出す事が出来ずにキョーコは深々とため息をついた。
「・・・・・・・・・・・・ごめんね?」
「へ!?」
本当にしょんぼりとした表情で謝る蓮にキョーコはため息を飲み込んだ。
「い・・いえ・・・」
「・・・・・その・・・ちょっと・・・ショックな事が・・あったから・・・」
あんまりにもしょんぼりと話す蓮にキョーコはきゅうっと胸の奥が締め付けられるような気がして、胸の前に拳を握り締めた。
「・・・・そう・・・なんですか・・・・あの・・・・私が邪魔なら出て行きますから・・」
「え!?・・・どうしてそうなるの?・・・・・・」
「どうしてって・・・なんだか私に言いたい事がありそうにされてらっしゃるから・・・もしかして一人にして欲しい・・とか・・」
「・・・・・逆だよ・・・・・一人にして欲しくない・・・・・」
「!!?」
ふわりと蓮の香りが強くなりキョーコは自分が蓮の腕の中にいることに気がついた。
「・・・・・少しだけ・・・・こうさせてて?」
蓮の胸元に当たっている耳に蓮の低い声がやさしく響いてきて、キョーコはゆっくりと頷いた。
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(私・・・どうしちゃったの!?)
ドキンドキンと強く跳ねる心臓を抑えるようにゲストルームのベッドにキョーコは突っ伏した。
ほんの数分、蓮に抱きしめられてキョーコの方が癒されたようにぼーっとしながら、はにかんで笑う蓮と視線が合うと痛いくらいに高鳴る心音を悟られないようにゲストルームに戻ったのだった。
体に残る蓮の香りと温もりにまた心臓がきゅうっと苦しくなった。
(・・・・・・嫌だ・・・・・もう・・・嫌なの・・・・こんな感情っ)
突っ伏したベッドのシーツを握り締め、キョーコは苦虫を噛み潰したような表情をして頭から布団を被った。
(・・・・・・つい・・・・抱きしめてしまった・・・・・・・)
キョーコの柔らかな感覚の残る手の平を蓮はぼーっと眺めて深いため息をついた。
(・・・・・それでも・・・やっぱり普通だったな・・・・)
そっと離れた後、キョーコの顔を伺ったのだが少し顔が上気しているかと思ったのもつかの間、さっさと食器を片付けるといつものように綺麗なお辞儀をして部屋へ戻っていってしまった。
そんなキョーコの後姿を寂しく思いながら、蓮は見送る事しか出来なかった。
(・・・やっぱり・・男として見られてないよな・・・・・・)
蓮は深々とため息をつくと自室に戻り、寝室に置いてあるチケットを確認した。
「・・・・・覚悟を・・・決めるか・・・・」
小さなため息と呟きは、二人も住んでいるとは思えないほど静まり返った部屋に吸い込まれていった。
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