季節の変わり目は少し体調も変化するから物憂い気になったり、いつもはしない行動に出るのだろうか。
ラブミー部にて、お仕事一番。しゃかりきに働く事で有名な最上 キョーコは徐々に重くなる瞼と戦っていた。
頭が右に揺れ、左に揺れラブミー部の仕事である封書の糊付けがいつの間にか止まってしまう。
(いけない・・・・このままじゃ眠っちゃうわ・・・)
キョーコは鞄から財布を取り出すと、コーヒーを買いに出た。
眠気覚ましも兼ねて少し先の自販機に買いに出ると、少し物陰に隠れたところに見慣れた後頭部があるのをキョーコは発見した。
パタパタとその人物に駆け寄ると、笑顔で声をかけた。
「こんにちは!敦賀さん」
「えっ!?も・・がみさん!?」
キョーコの登場に挨拶指導を恐ろしいまでにする事務所の大先輩らしかぬ態度の敦賀 蓮にキョーコは首をかしげた。
「どうされたんです・・・・・」
キョーコは首をかしげた時に蓮の正面に立つ女性に気づいて、目を丸くした。
同じ事務所の女性タレントでキョーコの先輩でもある人で、彼女は涙を一生懸命ぬぐってキョーコに笑いかけた。
「おはよう、京子ちゃん・・・・それでは失礼しますね?・・・・敦賀さん・・お話聞いてくれて、ありがとうございました」
彼女は蓮に深々と頭を下げると、さわやかに去っていった。
ひじょうに気まずい雰囲気がキョーコと蓮の間に流れた。
「あ・・・あの・・・すみません・・その・・・・お邪魔してしまって・・・」
「いや・・・・・話しは終わっていたから大丈夫・・・・・」
目を反らして話すキョーコを蓮は注意深く見つめた。
「・・・・最上さんは・・こんなところで何してるの?」
「わ・・私は・・・眠気覚ましのコーヒーを買いに・・・散歩を兼ねて・・・・」
「・・・・・・・そう・・・・・・」
怒っている様子もないのに、語気が冷たいような気がしてキョーコはいたたまれたくなった。
「その・・・・仕事もありますので・・・失礼します!!」
言い逃げのように頭をすばやく下げると、キョーコは踵を返してその場から離れようとした。
「待って!!・・・・ラブミー部に・・お邪魔してもいい?」
蓮の長い手足は少し走ったぐらいでは逃げられず、キョーコは片手を掴まれそのまま蓮に引きずられるようにラブミー部へ戻ることになった。
***********
「・・・・・・・・どうぞ・・」
「ありがとう・・」
キョーコは結局、熱いお茶を自分と蓮に煎れて作業を続けることにした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カサカサとキョーコが作業する紙が擦れる音のみが部屋に響いた。
「・・・・・・・・・・・・・すみません・・・・・」
「えっ!?」
沈黙に耐えられなくなったキョーコが先に口火を切ると、蓮はびくりと肩を震わせた。
「その・・・・・お邪魔してしまって・・・・・・告白・・・・とか・・されていたのではないかと・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・だから・・・それはもう終わっていたから・・・ただ、彼女が落ち着くのを待っていただけだから・・・」
「・・・・・・・そう・・・・ですか・・・・・・」
キョーコは真剣な表情で話す蓮から視線を逸らして俯いた。
(やっぱり・・・告白されていたんだわ・・・・)
キョーコの言葉を肯定した蓮にキョーコはため息を付いた。
「気になる?」
「・・・・・そういうわけじゃあ・・・・・・」
キョーコは俯いたまま返事をしたが、なんだか違和感を感じ顔を上げるといつの間にかキョーコのそばに中腰で顔を覗きこむ蓮がいた。
「!!?」
「気ならないの?」
じっと見つめるその顔は以前カインであった時、買い物中に口答えをした後ほっぺをつねられながらの恐怖政治を体験した時に似ていて、キョーコは背中にダラダラと冷たい汗が流れた。
「本当に・・気ならない?」
ずいっと近寄られてキョーコは両手を小さく蓮と自分の間に出すとフルフルと振った。
それでも蓮にはストッパーにすらならず、さらに近寄った。
「本当に?」
(ち・・・ち~か~い~!!!!!)
「気になりません!!!全然!!!!」
目を瞑って青ざめながら、顔を蓮から背けてそうキョーコが叫ぶと急にドヨンとした空気が蓮から発せられ、ため息と共に蓮はキョーコから身を引いた。
「・・・・・・・・そう・・・」
すごすごとキョーコから離れた蓮はおもむろに壁時計を確認すると、またため息を付いた。
「・・・時間だから・・・いくね?・・・お茶・・ごちそうさま・・・・」
あんまりの落ち込みようにキョーコは呆然とその後姿を見送った。
***********
『キョーコちゃん・・・今日蓮と会った?』
あのやり取りの二時間後、社から突然電話がかかってきたキョーコは突然そう聞かれ固まった。
「は・・・はい・・・・あの・・何かあったんですか?」
『あ・・・・いや・・・・蓮、何か言ってたり・・・した?』
「・・・・・・・いえ・・・・その・・・・」
キョーコは迷いながらも蓮が告白されている現場を発見してしまったことを伝え謝った。
『そ・・・それは・・・また・・・タイミングが悪かったね・・・』
「はい・・・本当に申し訳ありません・・・」
『それで?』
「・・・へ?」
『キョーコちゃんは何とも思わなかったの?』
「は?」
なぜ蓮と同じ内容の質問を社からも聞かれるのか分からずキョーコは首をかしげた。
「あの・・・なぜ・・・そのようなことを?」
『え!?・・・・あ・・・いや・・・・ほ・・・ほら!仲のいい連が告白されてるの見て気になったりしないのかな?・・・とか思って・・』
「・・敦賀さんにも言いましたが、気になりませんよ?敦賀さんほどの方が女性から告白されないことの方が驚きます」
『えええ!!?れ・・・蓮にも・・言ったの?気に・・・ならないって・・・・』
なぜか電話口から聞こえる社の声が蓮同様、よどんだ空気を纏ったのがキョーコに伝わった。
「え・・・はい・・・言いました・・・」
そうキョーコが答えると電話口の向こうから大きなため息が聞こえた。
「あ・・・あの・・・社さん?」
『あ・・・うん・・・・わかった・・・・そういうことなら・・・・仕方ないか・・・・』
事情がさっぱり飲み込めないキョーコが首をかしげていると、社がため息をつきつつキョーコのこの後の予定を聞いてきたため、今しているラブミー部の仕事が終わったら今日の業務は終了と伝えるとひとまず分かったと答えられ電話は切れた。
「な・・・なんなのかしら?」
携帯を見つめていたキョーコはあと少しの作業を終わらせるべく、集中することにした。
しかし、部屋に琴南 奏江が戻ってくると突然キョーコは詰め寄られた。
「本当に気にならないの!?」
「ええっ!?何!?突然」
「お姉さま!?本当に気になりませんの!?」
「えっ!!?マ、マリアちゃん!?いつの間に!?」
突然、奏江とは逆側にいつの間にかいたマリアがキョーコにものすごい形相で詰め寄ってきた。
「ちょ・・・ちょっと!!?なに!?」
「キョーコちゃん!?本当に気にならないの?」
「ええっ!?や、社さん!?」
「最上さん・・・」
「つ、敦賀さんも!!?どうしてここに!?」
困惑しているキョーコにみんなどんどん詰め寄ってきた。
キョーコはぐるぐる回る目と頭で答えを出そうとした。
「だ・・・だめ・・・・」
「なにが?」
いつの間にか蓮のみがキョーコの視界を占領した。
「だめです・・・・私には・・・そんなこと言う権利・・・ないもの・・」
「・・・どんなことを言う権利?」
「・・・・敦賀さんに・・・誰も・・・・告白しないで・・・って・・・・」
***********
「誰も・・・告白しないで・・・・・って・・・・・・あれ?」
キョーコはふっと目を開けた。
自分の目の前には片付けたはずの仕事がまだ山積みで一瞬、目が点になった。
「あ・・・あれ・・・?」
壁時計を見ると、コーヒーを買いに行こうと思った時間から20分ほどしか経っていなかった。
「も・・・もしかして・・・今の夢!?」
キョーコが固まっていると、そのすぐ隣から聞き覚えのある声が響いた。
「そうみたいだね?・・・よく寝てたねから・・」
「!!!!」
キョーコは勢いよく声のする方を振り返ると、にこやかな微笑を浮かべた蓮がいた。
「い!?つ!!わ!?なっ!?」
※(いつから!?敦賀さん!!私寝てた!?なにか口走ったっ!?)
パクパクと青くなったり、赤くなったりするキョーコに蓮はこくこくと頷いた。
「俺は10分ほど前に来て、君が寝てたから待っていただけだよ?決して君の寝言を聞き入っていたわけじゃないよ?」
神々しい笑顔が今のキョーコには凶器にしか感じられずイスから飛び跳ねるように立ち上がると、土下座の構えをした。
だが、それはいつものごとく蓮に阻まれた。
「土下座はしない・・・それよりも・・・・」
蓮は夢の中にいた蓮よりも妖しく微笑んでキョーコににじり寄ってきた。
「は・・・はい・・・・?」
「・・・・どんな・・夢見てたの?」
「!!?・・・・い・・いえ・・・特に夢などは・・・見ては・・・・」
「・・・・・・・『誰も・・告白しないで』・・・って?」
「!!!」
キョーコは体中の血の気が一気に引いて沸騰して戻ってくる気がした。
「誰にそう言ったの?」
「だ・・・誰って・・・」
耳からも頭からも湯気が出る思いでキョーコはにじり寄ってくる蓮から逃げながら切に願った。
(お願い!!これも夢であって~!!!)>
end
《たまにはこんなお話しもいいかな?夢落ちは楽じゃ~~ww》