《新シリーズの劇中劇のあまりに暗く、ドロドロしたのに絶えられなくなったワタクシの脳みそがクダラナイショートストーリーを叩き出しました。ヘタレ度満点の蓮氏をどうぞ。》
「あ……また忘れてる…」
抱かれたい男No.1俳優敦賀 蓮は自宅の雰囲気とはかけ離れた可愛らしい花柄のハンカチを見つけ取り上げた。
「結構…あぁみえてそそっかしいな」
言葉とは裏腹に蓮はとろけそうな表情で、きちんとたたまれていた手の中にあるハンカチを見つめた。
先程まで夕食を共にしていたキョーコの笑顔が思い出されしばしそれに見入っていた。
(!そうだ…明日[も]会うし…渡さないと……)
『最上さん、ほら忘れ物』
蓮はラブミー部で書類を整理しているキョーコに忘れていったハンカチを差し出した。
『あっ!す、すみません!ありがとうございます!!』
ぺこりとお辞儀してハンカチを受け取るキョーコ。
『クス…でもしっかりしてるようでも意外におっちょこちょいなんだな…君は』
『へ?』
蓮はにっこり笑って首を捻るキョーコに口を開いた。
『一昨日はボールペン、その前はメモ帳…だったかな?…ちょっと抜けてる君もかわい『申し訳ありません!!もう二度と必ず忘れ物などしませんから!』…………』
キョーコは光の速さで蓮から遠ざかっていく。
(………………想像しただけで凹んでどうする………)
蓮はイメージトレーニングの結果、余計な事は言わず返そうと決心した。
「はい、最上さん…」
ラブミー部にいつものように社と休憩兼ねての充電をしに来た蓮はお茶を入れてくれたキョーコに忘れ物のハンカチを渡した。
「!す、すみません!…私ったら…忘れて……
キョーコは恐縮しながらそれを受け取ると、蓮にぺこりと頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんてとんでもない…」
二人のそんなやり取りを見ていた社は口をつけていた湯のみを置くとボソリと呟いた。
「……確か…一昨日はボールペンでその前はメモ帳も……渡してなかった?蓮…」
その言葉にキョーコは固まり、それを見た蓮は妄想…イメージトレーニングでのキョーコを思い出し慌てた。
「も、もが…」
蓮がキョーコを止めるより早くキョーコは床にひれ伏した。
「も、申し訳ありません!!私がドジで間抜けのおっちょこちょいなばっかりに敦賀さんに余計なお手間を!!」
蓮は自分の妄想力が足りなかったことを後悔しながら、ハイスピードで謝るキョーコに面を上げさせた。
「だ、大丈夫だから…それより昨日の夕食も美味しかったよ…また作ってくれると有り難いな…」
「敦賀さんさえよろしければいつでも…」
「ありがとう…なら、今夜もお願いしようかな?」
蓮のお願いに笑顔で頷いたキョーコに蓮は安堵した表情を見せた。
なんとかイメージトレーニングよりはいい結果になったかな?…と苦笑いをしながら、今夜の予定を摺り合わせた。
ある別の日、打ち合わせを終えた蓮は窓ガラスがしとしとと降る雨に濡れているのに気づいた。
(30分前は晴れていたのに……)
蓮はその時、事務所の廊下を玄関口へと移動するピンクの妖精[蓮の目にのみ]が見えた。
キョーコが少し外の様子をうかがって困った顔をしていた。
蓮は少し早足になって後ろから声をかけようとしたが、彼女は鞄から折り畳み傘を取り出した。
それを見た蓮は一瞬にして妄想力を働かせた。
『最上さん、良かったら送っていくよ』
そう声をかけた蓮にキョーコは恐縮して傘を見せた。
『大丈夫です!こんな事もあろうかと、折り畳み傘を持っていますから!敦賀さんにご迷惑になるようなことはしません!それじゃあ、お疲れ様です!』
凄まじい速さで去っていく妄想世界のキョーコに凹んでいるうちにキョーコは玄関の自動ドアの前に行ってしまっていた。
(あっ!…)
蓮はダメ元で声をかけようと近寄った時、キョーコは玄関先の軒下で困り果ててる女性の元に走っていった。
なにやら2、3言交わすと女性はキョーコから折り畳み傘を借りて何度も頭を下げながら雨の街へ歩いていった。その女性がかすかに見えた蓮の目にも女性は妊婦だったことがわかった。
蓮が呆然としていると、一つ息をついたキョーコはまたゴソゴソと鞄を漁り始めた。
(ま、まだ傘持っているのか!?)
しかし、キョーコが取り出したのはフェイスタオルだった。
それを広げて雨が降る中駆け出そうとしていた。
「!!っ最上さん!?」
キョーコが飛び出す一歩前で蓮は慌てて呼び止めた。
「敦賀さん?!……どうしてこんな所に?」
首を捻るキョーコに蓮は正直に話した。
「ちょうど廊下を歩いているのが見えてね…」
はぁ…と頷くキョーコはまだ怪訝顔だった。
「あの…それで…なにかご用ですか?」
キョーコの問いになんて言っていいか迷っていたが、キョーコがまだタオルを被っているのを見てそれを指した。
「……最上さん…なんでそんな格好してるの?」
蓮の問いに少し恥ずかしそうに俯いてキョーコはボソリと呟いた。
「…あ……これは…雨除けにと思って…」
「………そんなのなんの意味もないよ……良かったら送るよ…」
すると妄想通りキョーコは頭からタオルを取った両手を激しく左右に降った。
「いえ!!敦賀さんにご迷惑をおかけできません!!それじゃあ、私は失礼し…!?」
雨の中に行きかけたキョーコの腕を蓮は咄嗟に掴んで事務所内に戻した。
「女の子(特に君)を雨に当てるなんてそんな事、俺には出来ないよ…もし気が進まないなら……俺と……」
そこまで言ってキョーコが目を見開いて固まっているのを見て、蓮は表情を変えた。
「……夕食を一緒にどうかな?……独りじゃまた不精しそうで…」
そう言うとキョーコのお世話モードにスイッチが入ったのか急に蓮を睨みつけてきた。
「駄目ですよ!……そういうことならご一緒いたします!」
行きますよ敦賀さん!…といつの間にか捕まえていた腕を外れて先に駐車場に向かうキョーコを、今度は帰さないようにするにはどうしたらいいだろうかと妄想力を働かせながら蓮は片思いの少女の後を追うことにした。
end