†霧の孤城 2 | なんてことない非日常

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《劇中劇の説明がかなり下手で申し訳ないです…ちょっと長くなりますが次回しっかり書きたいと思います。………書けるのか!?》




†霧の孤城 2




新開から映画のオファーを受けたキョーコだが、役どころの説明を受けるうちに真っ白に固まってしまった。
それでも終始笑顔を崩さない新開は固まっているキョーコに最後のダメ押しをした。




「今まで君がやってきたどの役よりもインパクトが強く、難しいとは思う………だけど、俺は君の今までの作品や初めて君の演技を目の当たりにした衝撃を今回の作品にぶつけたいんだ!……一緒にやってくれるね?」




もともと断るつもりはなかった。
以前、師と仰ぐクー・ヒズリから役者としての変食癖を治すように言われてからどんな役も挑み続けてきた。




でも今回の作品は今までとは全く違う。
自分はこの役をこなしていけるのか、想像すら出来ない。

それでも……。



(やってみないで負けるのは嫌!)




キョーコは意を決して顔を上げ、キョーコの返事を待ちかねている新開に力強い瞳の光を見せ快諾の返事を返した。









「蓮…………」




はぁ…と名前を呼ぶのみの社に蓮はまたか…と苦笑いをした。




新開の映画撮影が始まり数日経った。

社は実は今回題材になった作品の大ファンらしく、ある役柄が大変気になっていた。




「まだ…昭島 直[あきしま なお]と古賀 麗子[こが れいこ]は出てこないんですか?!」




社に何とか返事をしようと口を開きかけた蓮の後ろの方で、社と同じ気持ちで監督に詰め寄る他の俳優達がいた。


新開は苦笑いをして全員を宥めた。




「明日!…明日には君たちとのシーンがあるから…それまで待ってくれ」



その言葉を聞き、蓮は渋々監督への抗議を終わらせた共演者達から視線を外し社を振り返るとそこには興奮状態で踊り出しそうな社がいた。




「…………本当に好きなんですね…」




「あぁ!やっぱり主役級の人物二人がいないのはな~」



まだ興奮を抑えられない社は止まらなかった。




「もう何度読んでもいいんだ!…原作は桑島 草治郎のベストセラー。『孤独な貴婦人』『道化師の独り言』そして完結編の『霧の孤城』を今回はまとめて三時間越えの映画にしちゃうんだから…本当、新開監督もチャレンジャーだよな~」




「その重要人物の昭島 直と古賀 麗子がまだ出てないですからね……誰がするかもまだ知らされてないし……」




ウキウキ顔だった社はその一言で一気に沈み込む。



「………そう…そうなんだよ!!この話は遺産相続を巡る殺人事件がベースになった愛憎劇なのに、その財産を一人相続する古賀 麗子はおろか、彼女の腹心で執事の昭島 直も出てきてないで…クランクインから数日……麗子の18歳の誕生日に遺産相続を告げる弁護士、二階堂 隼人[にかいどう はやて]役のお前はいるなんてな………」




余りの落胆ぶりに自分の配役にケチをつけられた気分が否めない蓮は、とりあえず社をほっておくことにした。






次の日、新開の予告通り古賀 麗子役の女優が来たと告げられ社を始め全員が浮き足立っていた。



「あ~……とある事情で二人入るのが遅くなったが、まず古賀 麗子役を紹介する……。京子ちゃん!おいで」



「!!?」



ざわめいた人だかりの中、今回の舞台である昭和初期に上流階級が着ていたような絹でできた淡いクリーム色のドレスにサラサラのロングヘアになったキョーコがゆっくりと新開の横に立った。



「今回、古賀 麗子役をやることになりました。京子です…よろしくお願いします」



周りの役者達が口々に何か言う中、蓮はキョーコから何も聞かされていなかったことに驚きを隠せなかった。



(…どうして…最上さん、あの時何も言わなかったんだ?)




クランクインの前、当分の間来れないからと社が気を使って作ってくれたキョーコとの時間の時に今回の映画の事も話したのに……普段と変わらずにっこりと笑顔で激励されただけだった。




(突然決まったのか?…いや……新開監督に限ってそんなことはしない………しかも、こんな重要な役を………それにこの役…麗子は……)



「はい!それじゃあシーン26、麗子が入って来るシーン!……よーい…」


(…盲目だっ!)


「スターッ!」




〔資産家、古賀家の大広間には今や遅しと当主古賀 麗子を待ちわびる親族達が集まっていた。

[カッ、カッ]


と何かが当たる音がし、全員が振り返ると大広間の扉の向こう側から麗子が現れた。



棒で足元を確認しながらも住み慣れている家の中を歩いてくる。
しかし、その瞳には全く光さえ感じていなかった。〕



キョーコの麗子に全員が息を飲んだ。
美しい容姿なのに、視線は無くまるで本当に見えていないんじゃないかと思わせた。


出番がまだの蓮も新開の後ろでキョーコの演技に釘付けになった。



まだ役者の道に入って二年にもならないのにあの存在感はなんだ!?………蓮は今舞台にいるキョーコがまるで知らない人物に思えた。
その時、新開がニヤリと笑った。



「よぉし…!いいぞ」


「!!?」



新開の言葉で蓮は悟った。
ワザと麗子との面識を浅くして虚を突かれた表情を撮りたかったことを。


新開の思惑通り、共演者も同様を隠せない様子でセリフを言い始めた。



〔『れ、麗子さん…あなた……』



震える声に麗子の口元がつり上がった。


『あら…おば様…声が震えてらっしゃるわね……寒いかしら?7月ですのに……それとも…怖いのかしら……私が生きてて!……』



真実を突かれ麗子の叔母はたじろいだ。〕




「カーット!完璧だっ!」



カット後、新開は青い顔の俳優達にこの映像が撮りたくてワザとキョーコを遅れて入れたことを説明していたが蓮は腑に落ちなかった。


それならこのシーンにいない自分まで驚かせる必要はないし、なによりキョーコに隠し事などされるなんてたまらなかった。




ムカムカに近い憤りを抱え蓮は舞台を降りてきたキョーコを捕まえようと歩みを早めたが、一歩早く新開がキョーコの前に現れた。



「あ…最上さん……」



「良かったよ、キョーコちゃん!」



蓮に話しかけられたのを気にしながらもキョーコは新開の後ろに隠されるように連れて行かれた。



「悪いな、蓮…ちょっとキョーコちゃんと打ち合わせがあるんだ」




あっという間にいなくなった二人に呆然とする蓮の後ろからまだ驚きを隠せない様子の社がやってきた。




「ど、どうなってるんだ?一体……」




社の質問に蓮は頭を振るしかなかった。





数分すると、新開が戻ってきた。




「じゃあ、次のシーン17を撮るぞ!!このシーンは死んだと思われた昭島 直が登場するシーンだ。みんなしっかり驚いてくれよ」



そう言う新開にみんな愕然とした。



((さっき以上に驚くなんて無理だろう!?))



そう思っていた中に一人が声を上げた。



「か、監督…あの……昭島役の俳優さんの紹介がまだですが……」



麗子の叔母の娘役である若手女優がそう新開に手をあげ主張したが、一笑に付された。



「そんなのは後だ…ほら!みんなスタンバイしろ!」



新開の指示で皆慌てて位置につく。
今回はメンバーに入っている蓮も立ち位置につき昭島 直が出てくるセットの二階階段上を見上げた時、キョーコが戻って来ていないことに蓮は気づいた。



(確かに…麗子の出番は無いが、最上さんはそんなことでスタジオに来ないなんてことはしない……何かあったのか?)




蓮が考えを巡らせている間に準備が整い新開の声がスタジオに響き渡った。



「いくぞ~!」




(!!…まさか)



「よーい…スタート!」



蓮は自分の中に湧き上がった疑問に対しての答えを頭で否定しながら昭島が出てくる所を注視した。




〔黒い正装の青年は客人を迎える為、姿を現した。
その姿に全員が息を飲んだ。

それは死んだと思われた古賀家の執事、昭島 直だったからだ。〕



全員が現れた昭島に息を飲んだ。
小柄で線も細いのだが、威圧感がすごかった。
その威圧感を増大させているのは端正な顔だった。切れ長の瞳がさらに妖しく光った。

その瞬間、あまりの妖艶さにゴクリとのどが鳴った。



〔『ようこそ…皆さん………お嬢様がお待ちです』


その声は柔らかく威圧感のある表情とは相容れない感じがあったが、それさえも彼を纏う雰囲気と混ざり全ての者を魅了した。〕



「カーット!」



新開の声に全員が我に返った。



「バッチリ!良い表情だったぜ~」



まだ、皆夢から冷め切らない気持ちでゆっくり階段を降りてくる昭島を見た。



若手女優の一人は完全に目がハート型になって昭島を見ていた。

他の共演者も皆、蓮とは違う色気を持つ昭島に顔を赤らめていた。




「よし!じゃあ紹介しよう!!昭島 直は…」



「…………最上…さん?」



新開の発表を蓮は呆然としながら遮った。


新開は蓮の言葉に残念がった。



「なんだ…バレちゃってた?」


まだ事情が飲み込めない共演者達は、蓮、新開、昭島を交互に見る。



「そう、昭島 直も京子ちゃんがするんだ、よろしくな」



新開がそう言うと全員目が飛び出そうな顔になり。



「よ、よろしくお願いします!」



といつもの声に戻し深々と頭を下げたキョーコを見た者達はスタジオが壊れそうな雄叫びをあげたのだった。






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