20分4.2.19、routine前、『吉祥寺オデヲン』で、ヴィム・ヴェンダース監督の映画“PERFECT DAYS”を観る。映画館で映画を観るのは何年ぶりか。
この作品で、主演の役所広司氏はカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞されたが、だからといって、観に行ったわけではなく、博多の旧友の勧めがあったからである。
たとえば、鴨長明の『方丈記』にはこうある↓。
『それ三界は、ただ心一つなり。心もしやすからずば、象馬七珍もよしなく、宮殿樓閣も望みなし。今、さびしき住ひ、一間の庵、みづからこれを愛す。おのづから都に出でて身の乞匈(こつがい)となれる事を恥づといへども、帰りてここにをる時は、他の俗塵(ぞくぢん)に馳する事をあはれむ』
(ああ、この世界は、心の持ち方一つだ。心が安らかでなかったら、象や馬や七つの珍宝があっても、ある意味がないし、宮殿楼閣があっても希望はもてない。今、さびしい住まい、一間の庵にいるが、ここは自分で気に入っている。都に出かけることがあって、わが身を顧み、ずいぶん落ちぶれたもんだなあと思うことがあっても、ここに帰ってくると、東奔西走している連中が、かえって、気の毒になる。)(以上、日本古典文学全集27『方丈記、徒然草、正法眼蔵随聞記、歎異抄』小学舘、1971年より)。
劇中の役所広司は、慎ましやかな品格をもって、ただ静かに、判で押したような日々を過ごしている。それは長明の達観とは違ったものかも知れぬ。動かぬ樹々にあって、ひとつとして同じでない木漏れ陽のように、穏やかなきらめきを秘めた活き方なのかも知れない。