【本文④】八木駅南税金ビジネスホテル・分庁舎についての住民監査請求書 第3章請求の理由(2) | 橿原市のことはみんなで決めよう会

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2.橿原市の行った契約が違法または不当である理由(ア)地方自治体としての、公物管理・財産管理上の基本原則 上記1(d)(e)の通り、本契約には、公共施設であり、行政財産としてのホテル及び飲食物販施設を私人であるSPCが管理して、本来市に入るべき公共施設の使用料を私人であるSPCが収受する内容が含まれている。 通常、公共施設の使用料は市条例で定められ、市の会計に歳入として加えられるため、「使用料」と呼ばれるが、これを市の歳入とせずに私人が収受する場合には、「利用料金制」と呼ばれる。 しかしながら、基本的に、公物管理法は極めて限定的にしかそのような事務を許していない。 地方自治法(以下、「自治法」)第238条の4は、「行政財産は、次項から第四項までに定めるものを除くほか、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができない。 」と述べ、行政財産上での私権の設定を制限し、政令など公に定められた手続きで限定的に解除することしか許しておらず、自治法第238条の4第6項で、これに即していない行為は無効としている。 また、自治法第243条では、「普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがある場合を除くほか、公金の徴収若しくは収納又は支出の権限を私人に委任し、又は私人をして行なわせてはならない。」  として、そもそも、私人による公金の取扱い自体を制限しており、本契約のような公共施設の使用料(利用料)の私人による収受どころか、その徴収など施設管理事務の私人への委託ですら、公に定められた手続きを踏んだ場合などに、限定的に解除することしか許していない。  このように、法において、厳しく制限されてきた公物管理の中で、今回、橿原市は、PFI法が、特別法であり、基本的な法理に優先するため、PFI法にのっとって行う事務であれば問題がないと主張して事務を進めているが、本契約は、まさしくそのPFI法にものっとっていないので、違法である。  本契約のような、市の所有にかかる土地建物であり、公の目的のために整備された「公物」「公共施設」「公共用財産」「公の施設」「行政財産」といった建物において、私人が行政に代わって施設の管理・運営を行い、料金の徴収どころか収受までできるという手続きは、自治法第244条の4による指定管理者の設定か、PFI法第16条による公共施設等運営権の設定以外には存在しない。 これらの手続きを踏まずに、公物の上で私人である当該SPCが利益をあげることは、それ自体が違法であるにとどまらず、自治法第2条14項の「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」 という、最少の経費を求めた総則にも違反することになる。 本事業は、指定管理者制度なり公共施設等運営権にのっとったものではないので、公法の通常の手続きとしては、ホテルへの宿泊代金など、公共施設の使用料(3億3000万円)はすべていったん市の収入とならなければならない。 あえて、その手続きを踏まえずに強引にSPCが売上げを収受しようとした時には、SPCがホテル運営に支出した経費に相当する金額(2億1000万円)については、公共事業としてのホテルを成立せしめようとするための「橿原市としての経費」とみなして、そのまま収受が認められる可能性もあるが、SPCのあげた公共施設使用上の「利益」部分(1億2000万円)については、市への支払いを求めなければならなくなる。 この「利益」部分を市ではなく私人に対して渡すことを合法化した手続きが、指定管理者制度と、公共施設等運営権なので、この手続きを踏まえずにこれを行えば、私人に対する利益供与でしかなく、明らかに市にとっての余計な支出であって、「損害」であり、自治法のいう「最小の経費」以上の負担を負うことになる。 自治法第232条1項は、「普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費その他法律又はこれに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁するものとする。」 としている。 仮に、市が、公共施設の運営を私人に(3億3000万円)で「委託」した場合には、そこであがった(3億3000万円)の公共施設使用料はすべて橿原市に収入され、委託費はすべて「橿原市の事務を処理するために必要な経費」という扱いになるので、委託費の中に私人が利益部分を(1億2000万円)見込んでいたとしても公法手続き上は違反にならない。 ところが、市が、本事業のような形で、公共施設の使用料を私人に直接収受させることは、橿原市にとって経費の支弁ではなく、公金の賦課徴収を怠って私人の利益を作っていることになる。 地方財政法第2条「地方公共団体は、その財政の健全な運営に努め、いやしくも国の政策に反し、又は国の財政若しくは他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行つてはならない。」 同法第4条「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」同法第8条「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない。」といった、総則に違反する。 また、自治法第2条16項は「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。なお、市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。」と述べており、自治法第2条17項「前項の規定に違反して行つた地方公共団体の行為は、これを無効とする。」との条文によって、本契約は無効であることになる。 (イ)指定管理者制度及び、公共施設等運営権(コンセッション)の非適用 市有地活用検討委員会委員ならびに、本契約の公募型プロポーザル審査委員であった赤羽貴氏は、PFI法第83条に基づき内閣府に設置された民間資金等活用事業推進委員会(PFI推進委員会)の委員としてこの法律の形成に大きく関与してきたPFI法の専門家であり、また、財務大臣を筆頭に多数の銀行が株主となっている株式会社民間資金等活用事業推進機構の社外取締役にも任ぜられている。 その赤羽氏は、PFI法の改正により公共施設等運営権の手続きが盛り込まれた後に、自ら、雑誌「地方財務2011年(平成23年)9月号 特集PFI法改正!(出版:ぎょうせい)」に発表している「改正PFI法の意義と課題」という論文において、以下のように述べている。「公物」(行政主体が公の目的に供している有体物)については、その管理等を行うための権能として、「公物管理権」が観念され、インフラ事業について「管理」=「経営」は公共主体以外はできない思考を前提として、民間企業には単純な手足業務や事実行為以外は原則委託できないという整理になっていた。改正前のPFI法もこれを乗り越えることはできず、結局最も民間企業の強みともいえる運営ノウハウ部分を、インフラ事業に導入することができない、という状況になっていた。 (事⑥「地方財務2011年(平成23年)9月号特集PFI法改正!」 P.3)コンセッション導入前のPFI法においては、公共施設の運営を私企業に任せ、その利用料金を私企業に収受させることができない整理になっていたことが述べられており、それを可能にするために公共施設等運営権が導入されたことがわかる。 赤羽氏とともに、「改正PFI法解説 法改正でこう変わる(出版:東洋経済)」という本を書いている野村総合研究所の福田隆之氏は、同じ雑誌に「改正PFI法が地方自治体に及ぼす影響」という論文を発表しているが、そこでは、以下のように述べられている。国土交通省が2002年に出した「PFI事業者の公物管理法上の位置づけについての考え方」という道路法や下水道法といったインフラ分野を規制する公物管理法と呼ばれる法律群と、PFI法の関係を整理した通知がある。この中では「公物管理法は、公物における事実行為を民間主体に事務委任することを禁止していない」と整理されている。逆に言うと、民間主体は事実行為の事務受任しかできないということだが、これと民間企業が一定の裁量を持ち、責任を負って事業経営をするという民間活用への期待の間に整合性がなかったこと、これが法律上の少ない箱モノの、しかも建設分野への集中という偏りを生み出す一因となってきた。 (事⑥「地方財務2011年(平成23年)9月号特集PFI法改正!」 P.16~17)つまりは、識者の個人的意見などではなく、2002年(平成14年)の国土交通省の通知が根拠となって、公共施設等運営権を使用せずには、私企業が公共施設の運営をできない仕組みになっていることがわかる。 PFI法第8条2項は、(民間事業者の選定等) として、「前項の規定により選定された民間事業者は、本来同項の公共施設等の管理者等が行う事業のうち、事業契約において当該民間事業者が行うこととされた公共施設等の整備等(第十六条の規定により公共施設等運営権が設定された場合にあっては、当該公共施設等運営権に係る公共施設等の運営等)を行うことができる。」としている。 「公共施設等の整備」のほかに、「独立採算業務」である運営・管理業務が存在するのであれば、後者については、公共施設等運営権を設定した場合に、ようやく行うことができるのであって、本事業契約のように、PFI法にのっとらずに同じことを行うのは違法であり、違法行為を他の手段で成就せしめようとすることは、脱法行為である。 (ウ)議決(住民の賛成)による民主的統制の必要性 この違法(脱法行為)の詳細な理由を、赤羽氏と同じくPFI推進委員会の委員に、名を連ねている上智大学法科大学院教授の小幡純子氏が、平成15年の自治法の改正によって指定管理者制度が成立する前後に示した論文、「公物法とPFIに関する法的考察」(「行政法の発展と変革 上巻」出版:株式会社有斐閣)(事⑦)、あるいは、同氏が平成23年のPFI法の改正によって公共施設等運営権が導入される前に示した論文「PFI法のさらなる改正に向けて」(ジュリスト 2010年11月15日号 no.1411)(事⑧)、また、平成15年の3月と6月に小幡氏の指導のもとで内閣府がまとめた、「公の施設と公物管理に関する研究(中間報告)―その2」)(事⑨)、平成26年3月に総務省地域力創造グループ地域振興室がまとめた報告書「地方公共団体における公共施設等運営権制度導入手続調査研究」、公共施設等運営権導入時に赤羽氏や小幡氏がPFI推進委員会において議論された議事録などを概観しながら、本事業契約に照らし合わせて簡単にまとめてみると、以下のような考え方になる。 公物管理法というものは、道路のような行政が自ら管理することが前提になっているものについては、個別法によって管理のあり方が詳細に定められているが、ホテルのような必ずしも行政だけではなく、民間が管理可能なものについては、旅館業法といった事業法によって監督されており、個別の公物管理法があるわけではない。 しかしながら、公物としてホテルを整備する以上、その施設の管理運営上の使用許可などは公権力の行使になるため、民間にはできないことになる。 民間が投資をして、建物を民間自らがつくる場合とは違って、行政がつくった建物の上で事業を行う場合には、個別には整備されていなかったとしても公物管理法の基本を踏まえなくてはならないため、法改正が繰り返されてきたのである。 公物の上で行う手続きについては、公権力の強さから、以下のように4段階に整理されている。「公物管理事務のうちでも権力的性格のある事務は、公の行政作用に属するものであり、委託することはできない」とされる。 こうした考え方を踏まえて、公の施設にかかる管理行為を分析してみると、これらの行為は、 ①公物の使用関係の秩序維持し社会公共の秩序に対する障害を除去することを目的とする公物警察権に基づく行為 ②積極的に公物本来の目的を達成させることを目的とする作用を有する公物管理権に基づく行為であって、権力的性格のある行為 ③積極的に公物本来の目的を達成させることを目的とする作用を有する公物管理権に基づく行為であって、権力的な性格のない行為 ④上記のいずれにも属さない事実上の行為 の4つに大きく分類することができる。 この分類にしたがえば、地方自治法第244条の2第3項に基づき管理委託が可能なのは③に属する行為となる。また、④に属する行為については、そもそも公物管理権にも基づかない事実上の行為であることから、地方自治法第244条の2第3項に規定する管理受託者であるかどうかにかかわらず、委託することができるものである。  (事⑨「公の施設と公物管理に関する研究(中間報告)―その2」) この、④分類の中で、②には、施設の利用許可や基本利用条件の設定といったホテルを管理・運営するにあたって宿泊客に対して行う重要な事務が含まれているが、これらは、原則として民間に任すことができない。  橿原市がSPCに対して公共施設ホテルの利用を私契約により、許したとしても、SPCには、公共施設ホテルの利用を宿泊しようとする客に許す公権力がないためである。 このことは、「地方公共団体におけるPFI事業について」(平成12年3月29日付自治事務次官通知)と突き合せながら、繰り返し説明されている。 もちろん、指定管理者制度を使うことで、この利用料金設定や、利用許可だけでなく、利用料金の収受さえも可能になることは触れられており、指定管理者制度の使用の前提になる公の施設の該当性について公の施設の要件については前記第1節1のとおりであり、こうした要件に該当するものかどうかを各地方公共団体において判断すべきものである。この点に関しては、前記の自治事務次官通知においても、「PFI法に基づいて公共施設等を整備しようとする場合の当該公共施設等の管理については、公の施設制度の趣旨や法的効果、PFI事業により当該公共施設等を整備する目的等を総合的に勘案し、公の施設として管理すべきか否か適切に判断するものであること」としている。 (事③閣議決定違反関連通知 「地方公共団体におけるPFI事業について」(平成12年3月29日自治事務次官通知(平成17年10月3日一部改正))と述べており、実質的に、公共施設ホテルを公の施設扱いするかしないかは、地方自治体の裁量において決定できることがわかる。 実際に、東京都江戸川区が作った「ホテルシーサイド江戸川」は、公の施設として設定され、指定管理者をホテルオークラグループが引受けており、橿原市においても、あくまで公共施設ホテルにおいてSPCに利用料金を収受させたければ、施設を公の施設としておけば、不可能ではなかったのである。 ただ、その場合は、もちろん公の施設の設置条例と指定管理者の委任の議案が議会にはかられることになる。 これは、小幡氏「公物法とPFIに関する法的考察」(事⑦)にも示されている通り、民主的統制として必須の事柄であって、省略すると脱法行為になる。権限の委任については、伝統的な行政官庁法通則においては、法律上の権限の分配に変更を加えるものであるから、法の明示の根拠がある場合においてのみ、かつこれを外部に公示することによって行うものとされてきた。一般的に委任行政は、行政機関相互間のみではなく、委任の相手方としては行政主体以外の個人・法人も考えられる。私人への委任には、法律に直接定められた委任(弁護士法八条等)、法律の根拠に基づく指定行為による委任(電気通信事業法五六条等)、委託契約等の民法的手法による委任などの場合があるが、PFI法七条二項では、主に、協定等による民事的手法による委任が想定されていると解することができよう。もっとも、委任される行政が公権力の行使にかかわる場合には、法律の根拠が必要とされるため、協定等で委任された公物の整備を民間事業者が行う場合にも、公物管理法の公物管理権の部分については、法律上明示の個別委任規定が設けられない以上、民間事業者は当該権限を行使することはできないこととなろう。また、公物管理法上の法的手当てがなされない以上、公物管理者はあくまで国・地方公共団体であって、民間事業者は、契約・協定等によって委託された範囲で、公物管理法の中の公権力の行使にかかる部分を除いた公物管理作用を行うこととなる。 なお、法律に基づけば、私人に対しても公権力の行使の権限を委任することができることは前述の例から明らかであるが、一般には、公権力の行使の付託先は原則として民主的コントロールの及ぶ行政機関であるべきとされるため、公権力の行使を伴う行政作用を私人に委任する場合には、その必要性の根拠が明確でなければならないと解される。PFIの対象が、本来行政自身が行うべき公共施設の整備であることにかんがみれば、個別法に根拠を定めて、公権力の行使も含めた公物管理作用を広くPFIによる民間事業者に委ねるという可能性も存するが、法律上の委任という方式によって民間事業者に公権力の行使の権限を付与する場合には、委任を受けた民間事業者に対する法的規制・監督を前提にせざるを得ないと考えられるため、PFIが本来、契約条項によってのみ民間事業者の義務を定め、その限りでコントロールすることを旨とした制度であることにかんがみると、むしろ整合性を欠くというべきであろう。したがって、公物管理法上、民間事業者自身が公物管理者となり得るように手当てがなされた場合にも、公権力の行使の権限を民間事業者が行使するという構成は妥当性を欠くように思われる。 (事⑦「公物法とPFIに関する法的考察」(「行政法の発展と変革 上巻」出版:株式会社有斐閣)小幡氏論文 P.780 ~781)公の施設の設置条例が公物管理法源として機能することにより、この問題はクリアできる。 この議論の延長線上に、PFI法の公共施設等運営権の導入もあり、これを使う時には、PFI法第17条に基づき、実施方針で公共施設等運営権の使用を表明しながら、最終的に委託議案とPFI法第18条に基づき、条件条例の議決を経る必要がある。このような地方自治法上の公の施設の管理委託については、受託者の地位、権能の範囲等が条例という民主的コントロールを通して明確にされることが重要なポイントであると思われ、PFI事業においても、その趣旨は、公共施設の管理・運営の場面で妥当し得るものといえよう。 (事⑦「公物法とPFIに関する法的考察」(「行政法の発展と変革 上巻」出版:株式会社有斐閣)小幡氏論文 P.784)と、述べられている。 本来、民間に任すことのできない公物管理を、民間に任すためには、限定的に設けられた手続きを真っ当に踏まなくてはならないのである。 なお、PFI推進委員会第31回総合部会議事録には、公共施設等運営権が利用料金制を可能にするために設けられることが述べられており、建物の貸借については、運営権者が第三者に貸借することを可能とするための権原として、別途貸借契約を結ぶようにするというくだりがある。 本事業契約においては、契約の中に土地・建物の契約を別途、市とSPCの間で結ぶことを定めており、意図として、この契約により、SPCがカンデオ、あるいはカンデオが、一般の宿泊客に対して公設ホテルの部屋の使用貸借をすることの権原としようとしていることが伺えるが、PFI推進委員会の議論は、あくまでも、公共施設等運営権の設定を行った上での話なのであって、部屋の利用許可のみならず、公共施設である公設ホテルの利用料金設定をすべてSPCに委ねるなどの公権力をSPCに委ねるためには、やはりPFI法にのっとり、公共施設等運営権の議決などが不可欠であることには変わりがない。 (エ)赤羽貴氏の立場について 赤羽貴氏は、以上のような専門性の高い議論を、当然に熟知しているはずだが、市庁舎活用検討委員会の議事録などを読む限りでは、橿原市が本事業契約において公設ホテルの利用料金制を採用しようとするにあたり、指定管理者制度も公共施設等運営権の採用も、特に主張せず黙認したものとみられる。 平成27年3月9日の、本事業契約を審議する市議会の市庁舎建設事業等に関する特別委員会においては、赤羽氏が社外取締役を務める株式会社民間資金等活用事業推進機構からSPCに対する融資が内定したことが理事者から表明されている。 株式会社民間資金等活用事業推進機構はきわめて公共性の高い組織ではあるものの、あくまで、多数の銀行が株主となっている私企業である。 社外取締役の立場から、本契約が円滑に進むよう願う気持ちにより、橿原市が脱法的に煩雑な議決を回避しようとした時に、法律上の成立要件の重大性を知りながらあえてこれを無視したとすれば、残念なことである。 なお、株式会社民間資金等活用事業推進機構は、平成27年3月27日の本契約に対する支援決定に先立って、平成26年12月19日に、女川町水産加工団地排水処理施設整備等事業について、指定管理者制度も公共施設等運営権の設定もないままに利用料金制度を使う私企業に対して支援の決定をしており、赤羽氏のみならず、この機構自身がコンプライアンスよりも融資先の選定を優先する体質であるらしいことが伺える。 しかしながら、せっかくPFI法を改正しているのに、その必要なく、「利用料金」制度が使えるのであれば、法改正の意味がなくなってしまう。 公共施設等運営権が導入される前に、同様の手続きにより、利用料金制を採用した事例について、小幡氏は「PFI法のさらなる改正に向けて」(ジュリスト 2010年11月15日号 no.1411)(事⑧)などで、「脱法的」と指摘しているが、法改正「以後」に同様の手続きを行うことは、法改正の意味を根本的に喪失させるため、より悪質であると評価せざるを得ない。(オ)内閣府の閣議決定違反について 本事業契約は、市議会の特別委員会の審議過程において、宿泊業などの、民間において事業が可能な業種に対する民業圧迫を禁じた平成12年5月26日付け「民間と競合する公的施設の改革について」(事③)という内閣府の閣議決定及び、これを引用したPFIに関する総務省通知などに従っていないことが指摘され、理事者もそのことを認めてきた。 これを是認したまま、事業を執行しようとすることは明らかに不当である。 当該閣議決定や総務省通知が、行政による民業圧迫を戒めるだけではなく、行政自身が民間に競争相手の多い事業にのめり込むことによって非効率・不採算事業をかかえ込むことを戒めているものであることを考えると、本事業は、閣議決定を遵守した場合には生じない、あえて背負い込む必要のない不採算事業を、市が自ら背負いこみ、市民の肩に背負わせることに直結しているのである。 当該閣議決定や総務省通知に従わないことの不当さは、本来なら必要のない、行政(公共施設)による民業参入を可能にした。 私企業のホテルであれば、私企業同士のシェア獲得競争で採算があわなくなったホテルが撤退するのみである。 しかし、本事業は公共事業であるため、道が二つに分かれる。 この事業が成功して橿原市にとって(SPCにとって、ではない)採算があえば、それは民業を圧迫したという話であるが、この事業が橿原市にとって不採算になれば、民業圧迫に留まらず、市自身の損害を作ることになる。 公共事業とは、本来的に採算性を度外視して行われるものではあるが、本事業の場合は、民業に手を出しても採算が合わないのでやめた方がいいという国からの戒めを不当にも無視することから出発しているので、この事業で市の会計に損害を出すことは、不当に輪をかけた不当であると言わざるを得ない。 しかも、その上にさらに上記の違法があり、SPC・カンデオが運営する私のホテルのみが、公共施設整備による大きな公金の後押しを受けて私的利益をあげ、他の市内のホテルや旅館については、公金の後押しがないという不公平な扱いとなっているため、事業開始時には、実際に、民業圧迫をされたと感じる市内ホテル業者からの提訴を招来する可能性もある。(カ)公金によるSPCの後押しと市民の損害 公法にのっとっていないことの違法によって、宿泊室約140室で稼働率70%の場合、年間売り上げ3億3000万円、費用が2億1000万円、差し引きして利益1億2000万円が業者の手元に残ることが市の損害となることはすでに述べた。 この1億2000万円は、そのまま、上記(オ)で指摘した、公設ホテルへの公金による後押しとなっているが、あわせて、その他の計算式を紹介する。 市議会の市庁舎建設事業等特別委員会だけでなく、市幹部と有識者で作る市有地活用検討委員会においても厳しく指摘されていることだが、本契約の賃貸料は土地が無料、建物については、公設ホテル部分の整備費約15億円に対して需要見込みである宿泊の稼働率70%において、年間約4000万円(最低賃貸料月・坪2500円)、20年間で8億円と、極めて安く設定されている。 まったく同じシステムで行われる飲食物販店の最低賃貸料は月・坪10000円であって、ホテルはなぜか、これの四分の一でしかない。 この公設ホテルの事業について、当初示されていた賃貸料は年間9500万円であり、最低賃貸料を5000万円以上引き下げて4000万円とすることの理由は、業者の利益を作ってインセンティブとするためであると、市有地活用検討委員会ではっきり述べられている。 ところで、橿原市が、通常の事務として市の所有する土地建物を私人に貸し付け・使用許可を出す場合には、「橿原市財産条例」の一般的な基準を使用することになるが、その数値と計算式は「再建築費㎡あたり23万5000円」に今回のホテル面積4385.78㎡と、6%を掛け算した答え「年間賃貸料6184万円(月・坪3878円)」になる。 土地の賃貸料は約400万円となるが、これを含まず、建物賃貸料だけの比較で、本事業契約は年間2000万円以上安い。 さらに、再建築費を23万5000円ではなく、実際の建築費用である43万円で見積もって民間事業との比較を試みるならば、「年間賃貸料1億1327万円(月・坪7102円)」との計算になり、これと比べると7000万円以上安い。 また、先に述べたように、本事業契約のうち、飲食物販店は「月・坪10000万円」の賃貸料を設定しているのだが、実を言うと、この価格は世間並みの相場に近い金額であるらしい。 この数字をあてはめるなら、年間1億5948万円貰ってもおかしくないところ、4000万円しか貰わないので、1億2000万円安い。 以上をまとめると、市は、公共施設としてのホテルの適正な財産管理を行い、支出した建築費の正当な対価として、最低でも年間6000万円から1億6000万円の賃貸料を設定して徴収にむかうべきところ、これを怠っている。 これを下回る年間4000万円の賃貸料の設定は、ホテルという民間事業者が多数いる業界に公共事業参入するにあたって、はじめから採算の見込みが立たないこと、市に損害が生じることを是認した上での価格であると言える。 市がSPC・カンデオに渡そうとしている年間1億2000万円の利益と、市が徴収を怠ろうとする賃貸料の金額が近似してくることは、偶然ではない。 私企業がホテルを自前で建設して、運営する場合には、この程度の金額は必要経費の範囲内であって、市が公共事業としてホテルを作り、賃貸料を格安に設定することは、私企業の経費を肩代わりしてやっていることと変わらないからである。 PFI事業は、前述の赤羽氏などの論文にあるように、採算の不透明なリスク部分に民間ノウハウを活用する意図で制度設計されるべきであるが、本事業では、市が国からの通知を無視して、私企業の使用するホテルを公費で作ることにしたため、普通とは逆に、採算の不透明なリスク部分を橿原市が一手に引き受ける構造になっているのである。 単年度ではなく、20年間で計算すると、橿原市はSPC・カンデオに66億円の売り上げ(そのうち、利益24億円)をあげさせるために、15億円以上のホテル建設費を負担し、賃貸料8億円を得ようとしている。 建設費支出15億円-賃貸料収入8億円=市の損害7億円という考え方もできるが、上記のように市条例に基づけば最低賃貸料は年間6000万円を下らないので、20年間分で12億円であり、本事業の賃貸料設定8億円との差額は4億円となる。 最低賃貸料を、実際の建築費をベースに1億3000万円に設定した場合には、20年間分で26億円であり、本事業の賃貸料設定8億円の差額は18億円となる。 最低賃貸料を、飲食物販店と同様の実勢価格に近い1億6000万円に設定すると、20年間分で32億円であり、本事業の賃貸料設定8億円との差額は24億円となる。 SPCの利益は年間1億2000万円、20年間で24億円という見込みであるが、この中から市に賃貸料8億円を支払うわけではない。 この24億円は、公共施設の使用料として、本来、市自身が収入すべき金額であると同時に、市がSPCに対して最低賃貸料として設定すべきところ、それを怠った金額である。