ずっと前に、U子の旦那のハゲ山とE子の亭主の安さんと3人で飲んだ時の話である。

「一人娘と春の日は、くれそうでくれぬというが・・」と

 安さんが口火を切った、
「俺ぁが、E子の親に嫁にくれと言った。そんなに一緒になりたけりゃ、おみゃ(お前)が婿に来ればいい。舅(しゅうと)は、地球の南極か北極の夏みたいだったよ。なにしろ、真夜中になっても薄明くて、太陽なんて沈まんのよ」と。


白夜


 初め何を言っているのか、よくわからなかった。E子という一人娘を貰うのに、頭を畳にこすりつけて頼み込んだが、なかなかOKが降りなかった。さりとて、NOでもなかったと。


 ハゲ山など、ただポカーンと口を開けてしばらく理解できないようだった。安さんは、役所に勤めていたインテリで、さすがに学がある。なにもオーバーに、暮れぬからと、南極やら北極の夏日まで、持ち出すこともないと思うのだが・・・。これについて少しばかり解説が要る。


 冬と比べて、春の日は、だんだんと日が長くなる。日が暮れそうでなかなか暮れない。E子という一人娘を、嫁にくれというと、一緒になるのは反対ではないのだが、なかなか呉れるとは言わななかった。つまりは、「暮れる」と「呉れる」を 掛けていたのである。


 そこへ行くと、U子の親は、勝手に食べられた<>だか<>の方である。まだ下に妹A代もいる。一人ずつ片付けたかったのだろう。ハゲ山が、

「嫁に欲しい」と、

 言ったら、二つ返事でOKだったという。「はい、はい」と二つ重ねて返事したという。だから、ボクは言ってやった、
「言ってみれば、E子の親は、春の暮れで、U子の親は、秋の暮れか」と、
 すると、ハゲ山が訊く、
「平ちゃんは、学があるから、俺ぁは、ようわからん。どういうことや?」と。

秋の暮れ


 もう、皆さんお分かりのように、秋の日は「釣瓶 落とし」というくらい暮れるのも早い。井戸の中へ釣瓶が落ちてゆく速さで暮れる。ぐずぐずしていて、ハゲ山の気持ちが変わらんうちにと、U子の親は挙式を急いだらしい。

 なにしろ、秋が過ぎれば、じきに冬が来る。季節が巡って、また春が来て夏がくる。次の<>ではなくて、<飽き>が来ないうちにと、結婚式を挙げたという。E子20歳の春だった。


挙式


 あれから半世紀を経て、二人のバカップルも、「若年高齢者」に属している。南国は愛媛のブロ友が、コメントをくれた。

 彼女の街では、「この街で、いつかおばあちゃんになりたい、おじいちゃんになったあなたと歩いてゆきたい、いつまでも好きなあなたと歩いてゆきたい」と、
結婚式のイベントで、合唱するそうである。だから、E子さんやU子さんご夫妻とも、枯れるまでは仲良くしてあげてねと、声援を送ってくれた。


 いつも迷惑を被っているボクだが、これも腐れ縁と思って諦めて、死ぬまで友達づき合いをしようと思う。