kashi-heigoの随筆風ブログ-柿の木


 庭の柿の木の葉も、だいぶ色づいて、こぼれては風に舞っている。葉が落ちて、幹や枝ばかりが目立つんだ。柿そのもの色合いも好いが、葉の紅いのやら黄色のやら、まだ緑を残しているものもある。これが、秋の青空を背景に、屹立すると絵になると思うんだ。庭から仰ぐ立山連峰の峰は、すでに冠雪を頂いている。冬将軍が、だんだんに勢力を蓄え、その影もちらほら見えてきたよ。俺も毎朝、身づくろいするのだが、冷たい空気が肌を刺すようになってきた。世間の風は、冷たいってこと。


 庭塀になっているドウダン躑躅も日に日に、紅くなってきている。もう、冬支度の準備と点検は、待ったなしなのに。この家の旦那ときたら、冬の到来に備えなくちゃならないのに、畑に立っては、
「里芋は、そろそろ収穫時期じゃないかい。はやく、里芋の煮ころがしが食べたいなぁ。山芋はまだかなぁ。とろろ汁はうまいぞぅ」と、
 そんなことばかり言っている。食べることより、冬支度を急いだ方がいいのになぁ。この百姓家じゃ、冬のすきま風なんてたまったもんじゃない。冷気が入らんように、すき間を塞がねばならないぜ。せめて、窓は外気に直接触れないように、厚手のカーテンかなんかを吊るせばいいのに、旦那は、ドブロクばかり飲んで何を考えているのやら。


kashi-heigoの随筆風ブログ-薪ストーブ


 いや、薪ストーブなんかどうだろうね。癒しの空間を演出できると思うがね。スイッチひとつの現代的なエアコンの暖房なんて味気がないじゃないかい。日頃、エコーな生活なんて言っていながら、そんなところに考えが及ばないのだろうかねぇ。たまには薪を割るっていうのは健康にもいいぜ。体を動かすことで爽快感だって味わえるしよ。凍てつく寒い朝、火をおこすなんて、風情があるじゃん。焚き付けてから、徐々に太い薪へと火を育てる。鉄瓶で湯を沸かし、コーヒーを入れる。問題は、肝心の薪だよなぁ。今じゃ、どこにも薪になる木なんてないじゃなーい。昔は、その辺に転がっていたのにさぁ。


 この間、旦那ときたら、シートテックならぬミートテックの話をしていた。俺なんぞ、冬籠りのために、たっぷり脂肪を身体に溜めこんでさ、丸々と肥ってきたよ。脂肪太りよ。脂肉で全身を覆っているのさ。この家のみんなも寒いせいか、朝が遅いよ。俺なんぞ、朝6時には、玄関の前に端座して待っているのに、朝寝坊なんだから。あんまり遅いと、できるだけ細々と絞り出すようにして鳴いて、エサ乞いをするんだ。


kashi-heigoの随筆風ブログ-クマ



 するってーと、
「あら、クマちゃん、お腹空いたのかい。悪いわね、ちょっと待っていてね」と、
奥様が、エサを下さる。そこへゆくと、旦那は、ケチで薄情よ、
「こらぁクマ、朝から騒々しい。働きもないくせに、ネズミでも獲ってこい」と。

 俺は、元来があてもなくさすらう、流浪の猫よ。なにも、この家にいなきゃならないって義理もないのよ。1キロも歩いてゆけば、優しい小母さんがいて、
「あらぁ、クマちゃんじゃないの。久しぶりだね、ちょっと待っていてよ」って、
 猫缶だって、くれる時もあるのよ。だけど、あそこに、意地の悪いトラがいて、俺を追いだすんだよな。


 まあ、この家の奥さんは、エサをくれるから嬉しいんだ。だけど、世の中甘くはないよ。ここの旦那は、こんな風に奥方に言ってやんのよ。参っちまうよ。
「このクマの奴、実に、演技が巧いと思わないかい。哀調を帯びた声なんか、出しやがって、千両役者よ。知らない人が聞いたら、こっちが猫を虐待していると思うぜ。」
 当たり前よ、世知辛い世の中、これも生きる知恵なんだから。


 しかし、人間なんて、甘っちょろいもんよ。俺が、名ハンターだってことを知らないんだよ。別に、エサがないないなら、ないでいいんだ。野ネズミだって、野鳥だって、いるのよ。狙って獲っては、おやつ代わりにしているんだ。この家の飼い猫のミーコなど、たまに、誇らしげに口にくわえて、見せに来るとか言っていたが、俺なんか、そんなことしたら、これから先、エサなんか貰えなくなる。おい出されるだけよ。ハンティングは、俺の道楽なのさ。もう、女には、興味がないしさ。そこが、旦那と違うところかな。