kashi-heigoの随筆風ブログ-白い猫

 


 数日前、このブログで『自然の成り行き』http://goo.gl/eXsYl で、家の斜向いに飼われている、美猫の鈴ちゃんに、我が家の外猫のクマが、ちょっかいを出して孕(はら)ませてしまったと書いた。反響が多く、ほったらかしにしたらいけない。すぐに堕胎・避妊手術を受けさせるべきだとか、この際、可哀想だから、産ませて里親探しをしなさいというメールが届いたりした。


 中には、「飼い猫は、平均で言えば、年に2.5回出産します。1匹の雌猫は、一生の間に50~150匹以上出産するんです。そんないい加減な態度で、傍観していていいんですか」ときつい物言いもあった。なるほどネットで調べてみると、一対の猫が10年間、何の制限も受けずに子猫を産み続け、子猫も孫猫も同じように子を産むとすれば、その数はなんと、8千万匹に達するという報告もある。

 

そんなわけで、ボクは家人を急き立てて、斜向いの飼い主のところへと走らせた。すると、飼い主のサバエさん、
「私ぃも、鈴のことを考えたら、昨夜もまんじりとも出来んかったわぁ。考えてみれば、外でうろちょろする野良猫を可哀想とばかり、家の土間で飼ったのが悪かったんだわ。去年から何匹、里子に出したり、交通事故に遭わせたりしたろうかぁ、私ぃノイローゼになりそうや。鈴は、その残った子猫ながや。可愛いかったから、大事にしておったがぁ。どこのオス猫が、うちの可愛い鈴ちゃんを、傷モノにしたん。」

 

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そうこうするうちに、ネットの友人から、メールが届いて、猫の妊娠は56日から60日である。ボクが書いた鈴とクマの密会の日から数えても、あまり猶予がない。すぐに堕胎しないと産まれてしまうという。

家人がサバエさんのところに行って、堕胎と避妊を勧めるが、いま一押しである。人間にとって、一押しかもしれないが、命を絶たれる子猫にしてみれば、生死の分かれ目である。堕胎を迫る側も、決断する側もいわば、殺戮のお先棒を担いでいるわけだ。あだおろそかに、ハイそうですかとはいかない。生死をかけた瀬戸際である。


すると、今度はまた先ほどメールの主が宗旨替えしたのか、
「私、少し後悔しているの。命は尊いのよ、産まれてくる子猫に罪は無いの。『堕胎せよ!』と発した言葉に、愕然としているの。罪深い人間だわ私。平ちゃん、一匹引き取って育てなさい、後は、なんとか、里親を探せばいいじゃん」と。


メールの主も心が千々に乱れているらしい。その上に、
「もし、産ませることにしたら、鈴ちゃんは人馴れしてるのかしら。そうなら、授乳期に人間が触ることで、かなり人間になつく猫になるよ。でも人間に対して警戒心があると、子猫をくわえて移動するかもしれん。親猫は、意外におう揚で、バラバラに隠したりするのよ。ああ、私が近くだったら、母猫と隔離して、きちんと躾て里子に出すんだけど・・・」とも。
いやはや、時間や距離を越えての騒動である。


メールの後、家人にどうしたと聞いたら、
「サバエさんを説得して、どうにか、明後日に手術に連れてゆくことにしたの。私も病院まで行ってくるわ。彼女だけに、押し付けるの可哀想だし・・・」と。

 

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そんなことがあって、数日を挟んで今日を迎えた。
先ほど家人が午前中に、鈴ちゃんを病院に預け、再び午後に引き取りに行って帰ってきた。それで鈴ちゃんのお腹の赤ちゃんは、どうだったというボクの問いに、
「あのね、6匹もいてね、白いのが2匹だけど、残りは黒いのよ。やはり、父親は、クマだったのね」と。
紛れもなく、クマの子である。ネットの友は、「白と黒の外に、茶色い別のがいたら、鈴ちゃん、天秤かけているのよ」と言っていたが、鈴ちゃんは、二股をかけるような、ふしだらな子でないと信じていた。人間でいえば、徳操をもってしっかり尽くすタイプなのだから。可哀想なことをしてしまった。そんな騒ぎなど、つゆ知らず、事件の張本人のクマときたら、太平楽にもお腹が空いたと、先ほどから「ニャーゴ、ニャーゴ」と鳴いてまつわりついている。


ボクは何の役にも立たなかった。病院についてゆくことも、鈴ちゃんに優しい言葉をかけることもしなかった。クマとあまりかわらない。ネットの友が言っていた、「平ちゃん、せめて堕胎させられた子猫に、手を合わせてネ」と。だから、ボクは、そっと心の中で、合掌をしたのだった。            2012.3.21