去年の春にアメシロが大量に発生して、庭の柿の木が被害を受け、秋に収穫のほとんどを諦めねばならなかった。農協に連絡すると、シルバー人材センターが、薬剤散布を引き受けているから、そちらに頼めと言う。このアメシロは厄介な害虫で、一回ぐらいの散布では効かない。二回ほどやらねばならない。町全体では、千本以上の柿の木があるだろうから、散布する作業も大変なものである。それで、今年は三月の始めに、初回をやってもらった。
そのせいか、いつもは、小鳥たちが春を告げのは、庭の柿の木からだが、今年は花の朽ちた山茶花からである。アメシロの幼虫などは、薬剤の効果で駆除されたのかもしれない。この天敵は、スズメやスズメバチなのだが、村里に少なくなったスズメに期待できそうにない。さりとて、スズメバチに頼るわけにいかないのだ。
その日の夕方、楽しい飲み会が企画されていた。いや、正しくは、僕が企画したのである。中学時代のMとE子との飲み会である。E子は、お馴染みの冬瓜おばさんである。Mは、『ラブレターはカンニングだった』http://amba.to/spcivF の登場人物であるも、僕がブログを書いていることも、自分がモデルにされたのも知らない。二人とも、僕の気の置けない友人である。『ラブレターはカンニングだった』では、MがK子が、好きだったということになっているが、当時K子はクラスの男子生徒の垂ぜんの的で、何を隠そう僕もK子が大好きだった。E子には、今宵Sが来ると言っておいた。今回、Sの名を出したのは、E子をおびき寄せる罠なのである。なぜなら、以前からE子の前で、Sの話をすると、猫にネコジャラシを与えるのと同じように、目をとろんとさせるくらい、大好きなのを僕は知っていたからである。
僕は、何としてもE子に一泡吹かしておかなければならなかった。なぜなら、『担がれた日曜日』http://goo.gl/Rf9dV だけでなく、幾度も騙しにあっているからである。なんとなく、3人が揃ったのは、7時頃だった、E子が落ち着かない。
「平ちゃん、Sさん遅いっちゃのぅ、まだ来んけぇ」と。
すると、なにも知らされていないMは、
「E子、Sは来んよ。わ(汝)ダラやないが、しゃ、平吾に騙されたがやわぁ」
ここは、抑えておかなければならない場である、僕は言った、
「なーん、E子よ、わ(汝)の想いが通じれば、来るっちゃ。わ(汝)は、Sに恋焦がれておったからのぅ」と。
Mまで調子に乗って、言うのである、
「K子が来ると言えば、Sは来たかもしれんちゃのぅ。なにしろ、SはK子にホの字だったからなぁ」
E子の前で、それを言っちゃお終いよ。だけど、僕はE子という害虫の駆除が出来たと快哉を叫んだものだ。ところが、E子ときたら、敵は猿もの引っ掻くものである。こう宣(のたま)ったものだ。
「あら、私ぃ、K子ちゃん、誘ったがぁやよぉ。平ちゃんが、ご馳走してくれるって言うて、もう来る頃や。平ちゃん、特上の寿司4人前頼んでおいてぇ。K子ちゃん、ここが分からんがやわ。ここっちゃ、キトキト寿司という店やったねぇ。ちょっこし、迎えに行ってくるちゃ。待っとってぇ」と。
僕とMは、日頃滅多にありつけない特上の寿司を頼んで、半時以上も待ったが、K子もE子も一向に現れる気配はなかった。かくして、害虫の駆除は、またしても空振りだった。 2012.3.17