先日、かっての職場の先輩が、ボクの住む富山に行くのだが、時間があれば、是非に会いたいと言う。なんでも、2月の中旬過ぎに、奥方と二人で二日間の日程で、冬の北陸を満喫したいと。もう既に、行き先は氷見で宿もとり日程も決まったと。東京から飛行機で1時間も乗れば着いてしまう。富山空港から、小型のレンタカーで近郊を走ってみたいらしい。氷見とボクの住む黒部川の下流では、西と東の端だから、距離も7、80キロはある。石川県に近い端から、新潟県寄りの端である。車でも3時間はかかる。その上にこの雪では、外は寒いし景観を楽しむにも、白と黒だけだからいかがなものか。僕は、いかに返事をすべきか窮した。

kashi-heigoの随筆風ブログ-寒鰤


 ほかならぬ、先輩のことお越し頂くのは、大いに歓迎であるも、せっかくなら季節の好い時が、よろしかろう。ただ、冬の氷見の鰤は、天下逸品であるから、食するに悪くない。富山湾は魚の宝庫で、特に奥まった氷見は天然のイケスでもある。このブリを、魚が傷つかない<定置網>で揚げ沖合いで、すぐに大量の<水氷>でしめるのである。富山湾の地形は、急に深くなったりしていて、設置が難しいのだが、氷見の海は、比較的浅瀬で定置網がやりやすい。これを血抜きではなく、氷で仮死状態にする。<沖じめ>というやつである。こうした鰤は刺身に、焼き魚に、旨くないはずがない。

鰤尽くし


 すると、折り返し返事がきて、僕の意見を取り入れて、今回は二人だけで温泉をゆっくり楽しみ、鮮魚に舌包を打つことに専念すると。そのメールを読みながら、なぜか僕も、家内を誘って出湯に浸かってみたくなった。車を30分ばかり駆って、近くの温泉に行った。この温泉については、<雪ん子の童話>http://p.tl/TL6r にも書いた。
 愉しみは、湯ばかりでなく、松花堂弁当にもある。中に十字形の仕切りがしてあって、縁の高いかぶせ蓋のある弁当である。仕切りのそれぞれに刺身・焼き物・煮物などが見栄え良く配置されている。それに、お茶碗に盛られたご飯が、汁と一緒に出される。
 驚くのは料金である。主たる温泉に、この松花堂弁当とは、別にロビーで煎りたてのコーヒーがセットになって1500円である。

kashi-heigoの随筆風ブログ-温泉


 温泉は、それでも湯船が、6,7個はある。サウナがついているし、露天風呂も打たせ湯もある。このあたりは、黒部川の扇状地帯の上流で、河岸に位置するのだが、縄文中期の石器、土器の発見もあった。中世には、木曽義仲が軍勢を進めたともある。そんな歴史に想いを馳せたり、最近のエネルギー不足に、ここの地熱発電や小型水力発電を活かせないものかと想ったりする。すると長風呂が嫌いな僕でも、40分はすぐに過ぎる。温泉に浸かった夜は、身体がポカポカとして冷えないものだ。その後は、100円コインを投入して、マッサージで時間をつぶし、連れとの時間調整を図る。


 温泉を後にした帰り途には、決まって大型スーパーの鮮魚店に立ち寄る。とても、氷見のブリなど求めようもないが、地場の新鮮さがウリの40~50センチ大のブリの弟分(フクラギ)などを、買い求める。海に向かうに従って、積雪の嵩も少なくなる。それでも、家の近くは、60センチはあるだろうか。

 日頃多忙な身の先輩夫婦も、時間など気にせず、温泉に浸かり、富山湾の冬の味覚を堪能されるがいい。閑で余暇ばかりの僕など、いつの間にか、その有難さが薄らいでいる。               2012.2.15