kashi-heigoの随筆風ブログ-山茶花


 正月の松の内が明けた頃、家内に車のキーを預け、街の居酒屋<あっこ>に一人で立ち寄った。辺りは、ネオンでの明かりが照っているが、まだ時計は六時を回ったところである。熱燗を頼んで、ふと窓辺の棚にある八重咲きの濃い紅色の寒椿に目をやった。椿が花ごと落ちるのに比べて、山茶花は花びらが散るように落ちる。二つは、ともに同種だろうか。一見華やかだが、崩れるともろい。椿は、花ごとポトリ、山茶花は、花弁がパラパラと。冬の花の少ない時に、紅く咲く山茶花は貴重な花である。普通の椿は、三月か四月だろうが、寒椿はもう咲いている。


 居酒屋<あっこ>は、以前ブログにも書いた『日陰が嫌いな茗荷な女』http://amba.to/t6SaGs の訳ありの同級生の店である。娘さんが店主で、あれから1,2回は寄せてもらっている。
「あら、いらっしゃい。今しがた、K子さんが来ていたがやっそう。『平吾さんに会いたいわ』と。ブログをいつも楽しみに読んでいるがやと・・・」
僕のブログのことを喋ったのは、タケシだと咄嗟に思った。この間も突然、電話をかけてきて、モデル探しをするのには閉口したものだ。

kashi-heigoの随筆風ブログ-K子


 「タケシさんから聞いて知ったがや。K子さん宛てのラブレターの代筆したのは、平吾さんやと言うたら、『だったら、私、平ちゃんからの恋文、欲しかったわ』やて・・・」

それは、以前に書いた『ラブレターはカンニングだった』http://amba.to/spcivF のことである。僕の気持ちは、複雑だった。実は正直に言えば、僕もK子ちゃん宛てに、ラブレターを書いていたのだ。決して届かないK子ちゃん宛ての恋文を・・・。恥ずかしながら少年の日に戻って、日記をご披露しよう。


kashi-heigoの随筆風ブログ-白い椿


 庭の生垣の山茶花は、よく見ると白い雪の上にキミが唇のような花びらが、一枚一枚ハラハラと風を受けて散ります。受験勉強に明け暮れる、殺伐とした心に彩りを添えてくれた花でした。そう、あなたはボクの心の支えです。
 今はまた山茶花とは別に、家の庭に雪に埋もれた椿があります。この椿は、今はまだ小さな蕾しか持っていませんが、早春に深紅の赤と淡い白の花を咲かせます。一本に二種類の椿が接ぎ木してあるのです。赤い椿の花言葉は「控えめな愛」で、白い椿のそれは「申し分のない愛らしさ」だと。欲張りなボクは、二つの愛が欲しいのです。
 今の受験生のボクにとって、ハラハラと散るとか、花が首からぽろり落ちるというのは、絶対の禁句です。山茶花も椿の花も愛しむことは、決して許されません。この椿、今は小さな蕾でも、きっと早春には可憐で綺麗な花が咲きます。出来るなら、雪解けの早春を待って、あなたに会いに行きたい・・・

 50年も前の、やや煤けた恋文を読んで、抱いた感慨は・・・

 花の命は短いという。青春に早いも遅いもないと思うが、そんな季節に僕はコンクリートの都会で、懸命に花弁を探し求めていたに違いない。ビルの谷間の花園にも足を踏み入れた。どの温室にも花がいっぱいあった。されど、どれもこれも田舎出のボクには似合わなかった。春を待っていたボクに、凍てついた冬が長すぎたのだろう。その想いに引っ張られて、いつまでたっても蒼い春だったような気がする。      2012.1.12