kashi-heigoの随筆風ブログ-大根1

 


 晩秋から、冬にかけて鍋もの料理がじつに旨い。とくにじっくり煮込んだおでんなどひときわ美味い。大根、卵、ちくわぶ、昆布、こんにゃくなど煮込めば、煮込むほど美味しくなる。さつま揚げ、すじ、つみれは、あまり煮込むなと料理本には書いてある。大根など少し減って来ると畑に行けば、いくらでもある。それを注ぎ足せばいい。

 

 その日も、大根を採って畑からの帰り道で、冬瓜おばさんの異名をもつ、同級生のE子に会った。正月の挨拶をしようと声をかけようとする前に彼女の方から
「平ちゃん、おめでとう。あんた奥さんに逃げられたんじゃないが。なーん、最近っちゃ顔を見とらんよ。」
正月を東京あたりで過ごして、ボクだけが先に帰って来たのだと説明した。
すると
「そんならいいけど、ところで、あんた奥さんに正月のアカイバ(着物)買って上げたがあ。プレゼントもせんといて、繋ぎとめておこうとしても、しゃ(そりゃ)駄目やっそ」

 

kashi-heigoの随筆風ブログ-冬瓜オバさん


 この人は、ボクがちょっと気を許すとすぐに、土足で気易くボクの心の奥底まで土足で入ってきて、心の中まで覗こうとする。ボクが、家内に洋服を買おうが買うまいが、E子とは関係ない話だ。何か引っかかっているに違いない。
「平ちゃん、おらね、わ(汝)に一言文句があるがよ。去年よ、おらのこと、『冬瓜に似ていると言ったろう。ありゃどういう意味よー。おらの顔は、南瓜に目鼻がついているだけやと。おらの足は、大根足というのは、我慢するけど、その上に言うにことかいて、でっぷりして寸足らずの聖護院大根』やと言ったそうやないが。同級会で澤田のタケシまで、おらのことそう言うとったわ。」


だから、
「オラがそんな、失礼なことを言うと思うか、あんな、それは物の例えや。オラは、都会のよ、女狐の今にも折れそうな白ネギより、お前はんの、太くて大きいのが、丈夫で長持ちでいいと言ったまでよ。冬瓜のことを言ったのは、澤田のタケシや。」

 

 実際、去年初めて冬瓜を作ってみた。冬瓜の花は百にひとつと言って、ムダ花ばかりが多くて、花が咲いてもほとんど実を結ばない。去年2個収穫するのが精いっぱいだった。この野菜は、一般にはなじみが薄い。面白いことに、皮の表面に薄く白い粉をふく。昔から、「冬瓜のお化け」といえば、薄化粧した女の容貌への悪口なのだけど、E子はそこまでは、知らぬはずと思っていたのだが・・・。

 

kashi-heigoの随筆風ブログ-聖護院ダイコン

 E子は、劣勢を挽回しようとしている、
「その大根を煮て、おでんか風呂吹き大根をつくるがケエー。平ちゃんのことだから、法螺吹き大根やないがアー」
また、こ奴は失礼なことを言う。いつ、ボクが法螺を吹いた。すぐ、師匠面をしたがるのである。
「大根を煮るんやったら、お米の研ぎ汁を茹で汁でアクを取らんならんがよー」
ボクはここが勝負の為所(しどころ)だと思った。一言返しておかなければならない。
「E子、なんでオラ、有機無農薬で大根作っているか、知っているか。お前はんのは、化学肥料づけやろ。オレの大根っちゃ、無農薬だし皮むいたら透明感のある白いがよ。ほんとうに乙女の足や。大根独特のエグ味がなーんないがよ。だから、アクをとる必要がないが・・」


 すると冬瓜おばさんが言う。
「さすが、平ちゃんは、大したもんよ。おらまた、食あたりするかと心配したが。わ(汝)、いくら食べても当たらんちゃ。ダラ(馬鹿)の大根役者やわ。かあちゃん、しゃ(そりゃ)東京から、帰って来んわ。ダラのところへなんか」


 E子は、気分を壊して、捨て台詞を吐いて、帰って行った。正月から、ボクはE子に悪いことをしてしまった。罪滅ぼしに、今日中にも残りの冬瓜を、煮てしまおうと思った。

                                        2012.1.10