kashi-heigoの随筆風ブログ-冬の夜


 この凍てつく寒さは、いったいなんなのだ。昼間は日だまりに身を潜めていれば、まだいいが、夜にもなると底冷えがしてくる。夜気が肌を刺す。空気の冷たさだけでない。気持ちまでうすら寒い。月の夜は、窓から月光がこぼれて少しは、安どもあるが、闇夜なんぞ身体の芯からおぞけ振るうぜ。
 夜は鳥の声もしない、ネズミすら暗闇に身を隠し、音無しの構えである。時たま、雪が重みに耐えかねて、屋根から滑り落ちてくる。その雪の落下音に驚く。夜の闇に、魔物が棲むというが、今でも俺は信じている。


 この暮れに大家は、俺らを残して東京に行った。大家と言えば、親も同然の間柄。まあ、俺なんぞ、家賃なんか払ったことがない。このガレージに置いて貰っている。感謝しなければならない身だ。考えて見れば、去年の冬は、縁の下で空き腹を抱えて、ひもじい思いをしていたもんだ。幸い今年は、大家の、わけても奥方の優しい好意に甘えているわけだ。欲はかぎりのないもので、満足すると言うことはない。俺の心は、御し難いものだ。なぜなら、俺はすぐに家猫ミーコに嫉妬し、あやつが特段の待遇をうけているのを比べてしまうからよ。あやつは、暖かい部屋で、旦那様の大事な羽毛布団にくるまって、ひねもすのたりのたりやっているに違いないんだ。このあいだミーコのやつを、追いかけて脅したら、びっくりしてお漏らししやがった。ざま見ろ。この熊太郎を舐めるなよ。


kashi-heigoの随筆風ブログ-南天

 まあ、腐ってばかりいても仕方があるまい。楽しいことを考えようぜ。昨日の朝だった。久しぶりの晴天だった。庭で緋色のかんざし見つけたんだ。きっと、隣のタマちゃんに、似合うと思う。真っ赤なビーズが美しいのよ。束になった南天の実よ。以前は、そんなにも気を止めていなかったんだ。だけど真白い雪に映えて、なにもない庭にひときわ目立つのよ。妖にして艶があるんだ。この南天は初夏に、茎の頂点から花軸を伸ばして、小さな白い花をまとまって咲かせていたんだ。花の後に小豆より大きい果実をたくさんつける。晩秋から、鳥どもがついばんでいやがった。今は、真っ赤に色づいている。葉っぱは、濃緑色で、光沢があるから、かんざしになる。ここの奥様が、おせち料理に添えると言って、お土産に持っていったんけど、まだたっぷりある。なんとしても、あれをタマちゃんに進ぜよう。タマちゃんの御髪に似合うこと請け合い。

kashi-heigoの随筆風ブログ-千両万両


 タマちゃんへのプレゼントはOKとして、ここの大家さん、正月松の内には家に戻って来なさる。いつも、「貧乏は嫌いだ、それにつけても金の欲しさよ」といっておいでだから、向かいの庭から、お金を持って来よう。千両でいいかな、ケチケチ言わずに、万両としようか。俺は知っているんだ、千両,万両のあるところを。庭園のモチノキ(黐の木)の下に千両と万両が、並んで植えてあるんだ。千両は上に向かって赤い実があるし、万両は、地面に垂れるようにして実をつけている。


いつか、向かいの住職が、
「『金は,千両も 万両も一年中あるように』と、アカネ科の常緑低木のアリドオシ(蟻通)も植えたがです。アリドオシを一両というがです・・・」って言っていた。
ちょっとぐらい、失敬しても許されるだろう。3万両もあれば、旦那もこの一年は安泰よ。俺からのお年玉だぜ。

kashi-heigoの随筆風ブログ-クマ自画像

                                                        2012.1.8