この正月、久しぶりの東京近郊に滞在している。冬の田舎は、雪に閉ざされているが、ここ数日は快晴であるし、田舎に比べてなんと暖かいことか。正月三が日は、久しぶりに家族が集まり、話は尽きない。ボクは正月酒が効いたせいで、昨夜は早々に床に就いた。今日は、留守番を買って出た。若い夫婦に出掛けに洗濯物を干すことまで頼まれたが、それはちょっとゴメン蒙った。家内まで皆と連れ立って楽しそうに出かけた。しばらくするといくらか静かになったが、あっちこっちから、ピーだのガーだのと音がする。電気洗濯機、皿洗い機、冷蔵庫の働く音である。主婦がいない留守に、機械が代わって動いてくれている。



kashi-heigoの随筆風ブログ-コックピット

 朝のことを話そう。早くに寝たせいか、明け方に目が覚めた。しばらく待って、風呂を沸かそうと浴室に行くと、飛行機のコックピットでもなかろうが、湯船の前面にやたらとボタンがついている。娘の家は、オール電化である。田舎の百姓家と違って、風呂など温度をセットしてボタンを押せば、すべてが整い沸いたら、音声で逐一知らせてくれると言っていた。それが本当なら便利なものだ。ところが、現実のボクは、どれをどうしたらいいのか、分からない。困ったところに、いつもより早起きした幼稚園児の孫に助けてもらった。孫が得意げに教えてくれる。どうにか、お湯を沸かし風呂に入ることになった。浴室の中と外で、妙齢のご婦人の声の案内が聞こえる。

「お湯の温度を42度にセットしました」、「お風呂が沸きました」、「追い炊きします」と。

 浴室を眺めるとテレビまで設えてあるのだ。風呂に入ってまで、テレビは要らないと思うが・・・。ついでなら、モーニングコーヒーのサービスもと思ったが、そこまでは叶わぬ相談のようだ。



kashi-heigoの随筆風ブログ-洗面台

 ずっと以前のことだが、友人のOが言っていたことを思い出した。あるとき在所から出てきた親父さんが、新婚の彼の家に初めて泊まることになった。親父さんもいくらか緊張していたかもしれない。朝早く目が覚めた。洗面所に行ったところ、真新しいタオルと歯磨きが用意されている。ところが、歯磨きのチューブを使おうとしたが、チューブがいくつも並んでいる。いずれもカタカナで、シェービングクリーム、ヘアークリーム、ツウースペーストなどと書かれている。親父さん、カタカナ英語にはとんと弱い。しばらく戸惑っていた。新婚の夫婦を早く起こすのも、不粋というもの。だいぶ経って、息子のOに恐る恐る聞いたらしい。「歯を磨きたいが、チューブが一杯並んでいる。頭につけるのか、髭用か、歯磨きにどれを使うのか教えてくれ」と。



kashi-heigoの随筆風ブログ-電子レンジ

そういえば、田舎の家内の母なども、せっかく全自動の洗濯機や電子レンジがあるが、いくら説明しても、怖がって使うのに苦労している。機能の一割も使っていない。数年前まで、ガスレンジを使うのさえも不安がっていた。いくらか学習したようだ。昔からの習慣で、いまだにテレビなどコンセントを抜いてしまう。若者がやってきて、チャンネルをいじると元に戻せなくなってしまう。そのたびに電気屋に来てもらっている。

核家族化が進んで、文化や習慣の伝承も年寄りから子や孫へという図がなくなった。その逆の「老いては子に従え」とか「負うた子に教えられて浅瀬を渡る」という言葉の方が、あるいは生き返ったのだろうか。まさか、お風呂のセットの仕方を幼稚園児の孫に教わるとは思いもしなかった。                    2012.1.3