kashi-heigoの随筆風ブログ-冬の木立

  四季の移ろいは早い。こうして、庭に佇んで周囲を見回すといろいろな、変様が見て取れる。早い春に黄緑色した小さな葉を身にまとい、やがて鈴なりの白いかれんな花をつけたのは、どうだんつつじだった。あれは五月にまだ間がった。あの満天星も、師走になって、衣を次々と脱ぎ捨てている。とうに公孫樹の樹木は、身ぐるみはがされている。もっとも柿の木は、ずっと時期が早かった。今、若々しく元気がいいのは、槇の木、これから花を咲かせる椿だろうか。いや、紅い実をいっぱいつけている南天かもしれない。


 思い返せば、この一年は長かった。春の訪れは、雪解けを告げる小川のせせらぎの音からだった。すぐに野性のすみれやすずらんが咲きほこり、小川の水が温みはじめた。小鳥のさえずりは、朝まだきボクが、まだ寝床にいるうちだった。ボクが外に出るとすぐに、小鳥たちは姿を消してしまう。そこにゆくと郭公は図々しく、未明から啼いて騒ぐのだ。今から思えば、春先の出来事は懐かしい。走馬灯のように去来する切なくも哀しい紙芝居でもある。


kashi-heigoの随筆風ブログ-想い猫


 ボクが心を奪われたのは、キミの白いうなじ、すっと伸びた四肢。なによりも、その切れ長で優しい瞳。あの頃、キミを想うと小さなこの胸が、はち切れそうだった。夜明けが待ち遠しかった。ボクは悶々としていた。千里も一里。いとしいキミのもとへ行く道のりは、どんなに遠くても苦にならないというが、ことキミに関しては、千里が一里どころか、一里が目と鼻の先だ。あのとき、我慢しきれず、ドアのすき間から侵入したのは、春先の宵の口だった。朝まで待ちきれなかった。


 ところが、あの大工のサバエさんが、目ざとくボクを見つけて、ほうきでボクを追い回したのだ。キミはボクを許していたと信じたい。ボクは弁解しないが、タマちゃんのお腹が大きくなったのは、ボクのせいだとみんな思っているのだ。

 

 夏は、菜園の瓜の葉に隠れて、キミと愛を語らいたかった。オクラの花などは、葵の花だから花畑を豪華に彩ってくれていた。生きとし生けるものは、勢いがある。土の匂いがむんむんしていた。雑草のたくましさなんて半端じゃなかった。足を刈られ手を切られても、雑草はすぐに、なんでもないように息をふっ返す。ボクは、雑草に倣って、キミに想いを寄せたのだった。夜となく昼となく、キミの姿を慕って辺りを徘徊した。しかし、キミは一顧だにせず子育てに専念していた。

kashi-heigoの随筆風ブログ-南天


 ボクは晩秋が好きだ。そう十月から十一月が好きなんだ。まだ山々に冠雪はなかった。稲刈り跡の稲株が芽をだし青々として、さながら春を思わせた。移動性の高気圧に覆われて、穏やかで暖かい天気が続いた。あのとき、ボクは土手のすすきの白穂に誘われ、キミの影を慕って草むらを探していた。けれどキミに会うことはなかった。かくれんぼに、誘いたかった。ボクの夢はキミとのランデブー。キミにボクが必死に追いかける姿を想像できないだろうと思う。


 キミは、もうボクなんか眼中にないのだろう。でも分かってほしい。ボクは気にしないよ、キミが子持ちだろうが、シングルマザーだろうが。幸いボクは、キミのすぐそばにいる。目と鼻の先だ。いつもキミを見守っている。報われない愛に殉ずる孤高のボクだと分かっているが。ただ、こうしていると、いたずらに時間が通り過ぎて行くような気がする。それだけが、哀しい・・・。               2011.12.6

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