家内に言わせると、5つになるこの男の子は相当なママ大好きで、いつも「ママ大好き」と口癖のように言うそうな。ママの事が好きでたまらないらしい。一方、パパにはあまり関心を示さない。ましてババなど眼中にない。少しでも、注意しようものなら、「ババいやだ、あっちへ行って」となる。それでも、ママが出かけていなくなると、先ほどのことなど、すっかり忘れて、ババ遊ぼうとなるらしい。横浜から帰った家内は、そう言って「あの子、調子よすぎる」、「誰に似たのかしら」と怒りをあらわにする。子供のことだ、他愛ないといえば、それまでで、邪念がないのである。
僕の小さい頃は、母親が好きというだけでなく、全幅の信頼をおいていた。しかし親父の存在は、畏敬の対象であって、怖くてそばに寄れなかった。無視するなんてとんでもない。それでも、親父が村の寄り合いなどがあると寝ないで待っていた。必ず、お茶菓子を食べずに持ち帰るからである。宴会のときなど、御膳の残り物を手つかずに箱に入れて、持って帰ってくれた。
半年前の冬の頃だったと思う。ひょんなことから、半日僕が孫の面倒を看たことがある。初めの1,2時間は、遊ばせようと忍耐した。自分の思う通りにならないとこの子は、癇癪を起す。僕は本気で腹を立て、廊下に出してやった。「ご免なさい」といえば、中に入れてやろうと思ったが、奴さん、少しも動じる気配がない。半時ほどして、あまりに静かなので、どうしているかと様子を伺ったら、トイレをしているうちに、ゴム風船を抱いて寝込んでしまっていた。「癇癪を破裂させるところなど、ジジそっくり」とあとで、散々、家内と娘に叱られた。
孫は、おもちゃを沢山持っている。ミニチュアの乗り物など、自動車から船、ヘリコプター、飛行機と山ほどある。彼は、時間をかけて乗り物の鼻面を合わせて、きれいに横一線、縦一線に、斜めにも並べる。少しでも、曲がっていると気にくわない。芸術的ですらある。整理整頓屋でもある。ジグソーパズルなど大人顔負けである。エンジニアの婿に似て、機械いじりが大好きである。何時間も飽きもせず没頭する。父親の血を引いたのは確かである。
ババが、生まれてからこの間まで、この子の面倒を看ていた。その間、本を読んでやり、字や数え方を教え込んだ。まだ5歳の誕生日を前に、本を読み、足し算などの計算をし、時計から時間を読み取ることができる。パソコンも器用に操作して、動画をYouTubeで観る。僕は、少し疑問に思う。孫には、自然いっぱいの田舎で、蝉の鳴き声を聞き分け、カブトムシを見つけてきて、相撲をとらせ、赤とんぼを追いかけてほしかった。
そこに、孫から携帯電話がかかってきた。家内を出せと言う。
「ババ大好き。また、ボクのところへ遊びに来て」と。
娘が、孫に言わせたのだろうと思う。家内も、「くたびれた」と終日横にばかりなっていたが、孫の声に元気がでたのか、起きだした。
2011.9.7