お盆は終わった。都会から押し寄せていた若者はみんな一斉に引き上げた。わが家に来ていた娘夫婦やその友人たちも帰って行った。村里はお盆の前の静けさを取り戻しつつある。秋というには、少し早いが、朝夕には虫のすだく音が、賑やかである。来年の種に供しようと窓辺のゴーヤの実の一個をそのままにしておいた。いつの間にか、黄色に色づき、手で触ると融けるように形が崩れてしまった。キュウリもそろそろ終わりである。トマトも盛りを越えた。季節は、確実に秋に向かっている。

 ゴーヤの実 我慢できずに 腹見せり 青き弟妹 秋まだ先と


今朝も、ウオーキングにと海への道を少し遠回りした。小半時ほど歩いて広い田園地帯に出た。昨夜の大雨のせいか、小川の流れに勢いがある。水が澄んでいるのをみると、雨は夜半に上がったらしい。このあたりの農地は耕地整理され、一画が広い。テニスコートが四面は入りそうである。お盆の前には、この広い緑の一帯を轟音とどろかせて、無人ヘリコプターが、ラジコンの遠隔装置で薬剤散布をしていた。今は、青い稲穂が、風にいっせいに揺らいでいる。黄金色に染まるには、まだ二週間ほどの間があろうか。ここにきて、虫のすだく音が、まったく聞こえない。広範囲におよぶ、無人ヘリコプターによる農薬散布に、その原因があるやもしれない。

 青稲田 ラジコンヘリで 労なくも 音に逃げ去り すだく虫なし 


どんより曇った空を背に、発電風車がゆっくりと回っている。歩いている農道をまっすぐ行くと海岸に突き刺さる。防風林が、海岸の堤防に平行して数キロにわたって、途切れ途切れに茂っている。その合間を縫うように、アスファルトの遊歩道がある。今朝の海は、もの静かだ。いつもは、縞模様が幾重にも広がるが、海の色は、灰色にアイアンブルーを混ぜた色である。地平線が遠く、定規で引いた長い線で、くっきりと空と海を分けている。

いく人もの漁師出て、定置網の修理の繕いをしている。網は、数百メートルの長さにも伸び、色も原色で赤・橙色・青・黄と原色に近い。紺青色の海と真っ白の堤防といくつもの原色の網のコントラストが面白い。秋たけなわに始まるハマチや鰤漁などの準備だろうか。

 初秋の 青い風呂敷 天空に 広げてたたむ 網の繕ひ


 しばらく堤防に沿って歩いて、防風林の途切れた地に、草むらを見つけた。今度は、虫のすだく音がしっかりと聞こえる。ここまでは、農薬が届かないのだろうか。虫の安全地帯だ。海沿いの野菜畑に目をやる。夏野菜は、次第に秋野菜に移る。畑の瓜のキュウリ、西瓜、南瓜の蔓は枯れはじめている。茄子とトマトも最盛期を越えた。お花畑のキキョウ・オミナエシなどの盆花もその使命を終えたのか、色艶を消しつつある。 

蒼き森 潮風よける 草むらか 虫に与わん ねぐらなりせば 2011.8.18