今年の夏も、「暑い、暑い」と思ってはいるが、それにしては、蝉の声があまり聞こえてこない。ふと、窓の外を眺める、ニガウリの葉にセミの脱け殻がついているのを発見。今年は、暑かろうと窓辺に、緑のカーテンを考え、五月の連休明けに、ニガウリを植えた。そのネットを固定するのに使った竹の支柱に、蝉が一匹ついて離れない。昨日は、見なかったのに目にしたのは、今朝だ。羽毛を乾かしているのか、じっとして身動きもない。

今日も蒸す暑い一日になりそうだ。夏といえば、無数の蝉がいっせいに鳴きたてる。ひとしきり降る雨の音に似て、蝉しぐれなどという。さきほどから、気になっていった一匹の蝉が、動き出した。ちょっと外へと、玄関を出ると、そこへ大工のかみさんのサバエさんとクニオが現れた。二人は時々このブログに登場している。ぼくに何をしているのかと聞くから、いま蝉を観察しているのだと答えた。

 

先にサバエさんが言った。

「平吾さんって、まるで小学生みたいやね。セミの観察なんて。そういえば小学生のころだったかね。思い出したワ。先生から習うたがよ、蝉ってネ、世の中に出て七日かそこいらの命だって。そのこと、アンタ知っとった?六年も七年も土の中で過ごすがやと。わたしその話を聞いて、切のーて、切のーてたまらんかったワ。はかない命やないの。」

クニオも、何か言いたそうだ。

「土の中に、七年潜ってか。獄中生活七年みたいなもんやのー。その蝉やけど、今年は、少ないがやなかろうか。それに、蝉の抜け殻が少ないにか。なーん鳴き声っちゃ聞かんわイ。前はやぞ、チーチッチとかミーンミーンとか、よーけ(多く)鳴いていたにか。」

サバ子さんが、言葉を継ぐ、

「あんた、なんで蝉が大きい声で鳴くがかと言うとね、ガールフレンドを求める愛の叫びやがねン。いとしいね。あの音って、モンゴル人のホーミーという口笛に似とると思わん?切のーて、切のーてね。」

すると、クニオがいくらか、ちゃちゃを入れる。

「サバちゃん、さっきから『切のーて』とか『愛しい』とか言うて、旦那さん、まだ仕事で今も長い留守じゃないがけエ。」

サバエさん、ちょっと憮然とした表情で

「なーんもよ。もう帰っとるがよ。今、大事なハネムーンの話やっソ。話をまぜっかえせんといて。その愛が成就したら、産卵して命が尽きるがやと。そのわずかなるハネムーンのために、七年間も土の中での獄中生活するがよッ。愛しいとか切ないとか、思わんけエ」

クニオも、また話をもどす

「昔みたいに蝉の声っちゃ、あまり聞かんのう。これも環境の変化かもしれんねエ。やはり農薬のやりすぎの悪い影響やろうか」

「それもあるがかもしれんが、今年は夏が早く来すぎたからやわ。セミが世の中に出る準備が間に合わなかったのよ。アンタ蝉の声って、聞き分けられる?『チ--、チチ』と鳴くのは、ニイニイ蝉、『ミーンミーン』と鳴くのはアブラ蝉、『シャーン、シャーン』鳴くのは、クマ蝉」

クニオもまぜ返す

「『グーグー』鳴くのは、サバエさんの旦那の大きないびきヤ」
 

世の中の役に立たないものを詠む

吸いガラと 蝉の抜けガラ カラ議論
                       
2011.7.18