かっての会社の同僚や大学の友人も定年をとうの昔に過ぎて、時間を持て余してか、みんなにわかか百姓気取りである。やれ循環農法だ、やれ永田農法だと百家争鳴。キュウリは水をたっぷりやって作れ、トマトには水を余分にやるな、カボチャは元肥が命だと、うるさいことこの上ない。そこで今回は、みんながやっている農法をネタに話を展開してみた。ちなみに、私が採っている農法は、自然農法である。要は、耕さず、無農薬、無肥料である。ズボラ農法というとその道の諸先輩のお叱りを受けそうである。

クスリもやらず 肥しもせずに 草取り忘れて 耕さず

しかし、いまのところ、極めるには道はほど遠く、今日は永田農法かと思えば、明日は循環農法で、次は有機農法と定まるところを知らない。ブレっぱなしである。

  

山梨に大学時代の友人でごく親しいH氏がいる。先年、愛する奥方を病で亡くし、あまりの悲しみの大きさに意気消沈していた。生きる気力さえ萎えたかと周りを心配させた。ところがH氏、家庭菜園をやって、すっかり蘇生したのである。彼は、元来が虫も殺せぬ優しい男であった。ひょんなことから、農薬はおろか化学肥料も使わずに、味がよくて器量の好いのが採れて、収量もけた違いという家庭菜園を始めた。見目麗しき奥さまの面影を野菜に求めたのかもしれない。虫を殺さず、草をいかし、ミミズが息づく畑をつくるというのが持論。好い畑にのみ美味しい野菜ができると信じ込んでいる。

「畑では、草はそこに不可欠なものなんや。草は、畑に栄養をもたらすし、排除はいけません。ただ、草負けしない程度に、除草するもんや。それ以上は、ようーせん。基本的には、草は放置状態で結構。最近、耕運機を買って畑に草をすき込んで、堆肥に混ぜてやっているよ」


「虫というのは、毒を含んだ野菜を食べてくれる。健康な野菜だったら虫は少ししか食べへん。循環農法を実践してたら、作物を食べる虫など発生しません。野菜は細菌によって病気になるのではないんや。ミネラル不足で細胞が死んでそうなる。菌は、すなわちバクテリヤが、死んだ細胞を食べて土に還元してくるわけよ。循環農法というのは、バクテリヤによって、理想の土をつくることなんや」

「僕は、堆肥作りには、労力をかけているよ。循環農法って、作物が健康に育つためには膨大なカルシウムを必要とするんだ。そのカルシウムは植物が作る酵素態のカルシウムでないと吸収されない。河原に行って、山ほどススキなど刈り取って堆肥を作るんだ。畑に生えている雑草だって、畑の土を豊かにしてくれている素晴らしい存在だよ。特にススキ、竹、スギナ、笹が好い。ミネラル・カルシウム不足の土に絶好なんだ。この山盛りになっている草たちが、三か月でさらさらとした完熟堆肥になるんだ。」

難しいことをいろいろ開陳するが、僕なりに彼の循環農法を翻案すれば、

  虫殺さずに 草を生かして ミミズ息づく 菜園を

ということである。亡き妻を思うH氏の気持ちが、僕の心を打つ。その氏の心情を詠んで

   赤・黄・緑の 野菜を供え キミに見せたい わが想い


以前、<何をやってもダメな男>というブログで、僕の対極にある優秀な人材として、友人O氏を紹介したことがある。今回も彼に登場願おう。東京近郊のT市に住み、週に一度料理教室に通い、月二回を大学の同期とゴルフをやる悠々自適の生活を送るまじめな御仁である。健康を兼ね市民農園をやっているという。


「平吾さん、僕は出来るだけ簡便に、それほど手間かけずに、安全な野菜を食べたいんだ。子供にも孫にも食べさせたい。そこで研究していて、永田農法というのにあたったんだ。野菜が欲した時に、必要最低限の肥料を効率よく吸収させるという農法なんだ」

「必要最小限の水と肥料で作物を育てることが特色で、<断食農法>、<スパルタ農法>などと呼ばれている農法なんだ。僕はこれを食べて味が良く、何よりも安全な少量の確保のための身近な農法と知り実践したい」と。


話は難しいが、少し彼の話にお付き合いを願いたい。

「まず、①肥沃に富んだ土地なんていらない、瓦礫の跡地でもいいんだ。②肥料は、液肥を用いて週一回程度やる。液体肥料というのは市販されていて、基本的には、窒素・リン酸・カリの三大要素だけが入っているものなんだ。③マルチをかけておけば、草取りは無用なんだ。④苗は、市販のものを買ってきて、根などさらりと半分ほど切ってしまう。⑤収穫したあと石灰をすき込み一週間ほど寝かせれば、また次が植えられる。連作も問題ないというわけよ」

大手企業のトップまで上り詰めた男O氏、言うことが簡潔で無駄がない。ここまで、都都逸風に評してきたから、O氏についても、代わりに詠んであげよう。いつも入り浸っていたであろう、赤坂・神楽坂の座敷、そこの芸者の気持ちになって羨望をこめ、

永田農法 液肥でよかヨ 市販の苗で 砂地でも

石灰撒けば 連作よかヨ 草取嫌いな 君なれば

                              2011.7.16