ボクの幼い時からの友人にヒカルがいる。ひとつ年上で、電気高校を卒業して、上京して下町の電気工事会社に勤めたが、10年ほどして、親の求めに応じて、地元に戻ってきた。ボクが東京に住んでいた時は、たびたび訪ねてきてくれたものだ。今、電気屋を営んでいる。シャッター街のN町銀座でも、ヒカルの店は、ひときわ繁盛している。なんでも一説によれば、億以上のお金を貯め込んでいるという噂である。


 ボクは、都会から、田舎に引っ越ししてきて、電化製品の洗濯機、テレビ、クーラー、ビデオの設置に、どうしてもヒカルの力を借りる必要があった。ヒカルは、ボクの頼み快く引き受けてくれた。今回は、その間に交わした、ヒカルとの会話から、採ったヒカル語録である。商売のコツを、カキクケコの挿話で紹介しよう。



「あるようでないのは、ネ、無いようであるのは、悩み。ネって大事ながや。今の若い衆は、なんでもタダだと思っとる。ヤマタ電気だかヤパネット高田だか知らんが、電気製品を安く買って、使い方分からんからと、ロハで教えてくれだと。俺だって、嬶食わせにゃならんが


「俺の客は、年寄りが多いがじゃ。相手が年寄りなら、気()配りが、大事ながやっ。この間も、村はずれの甚平さの婆さま、何か言いたそうやから、から声掛けたがや。そしたらやぞ、アンタに気兼ねで頼めんワイというんじゃ。」

「息子が東京から、送って寄こしたテレビが、映らんと言うが。さっそく見に行ったら、何のことはない。コンセントから差し込みが抜けておったわい。俺ついでに、戸が締まらんと言うから、カンナかけて、滑りを好いがにして、やったよ。

婆さまは、えらい勝負した(助かった)といって、電子レンジを持ってこいと言わすがよ。は、しっかり説明して、何度も使い方、教えてきた。ヒカルさのお陰で、毎度、炊き立てのおまんま(ご飯)が、食えると喜んでおらした。」


「年寄りって、何か不都合があるときは、スリやっちゃ。宮の大門の三吉さの爺さまが、腹が痛いと嘆いていると小耳にはさんだがよ。どうしたがかと聞いたら、四日も、五日もウンチが出んがやと。に、言ってセンナ茶を煎じさせて、牛乳瓶につめて一本届けたさ。一発解消やがいねん。どくだみ茶、センナ茶、柿の葉茶なんでも好いがよ。要は、暖かい心をもって接すれば、薬っちゃ効くがよ。三吉さの爺さまだって、便秘治ったにか。隣村の親戚に、口掛けてもろうて、ドラム式の洗濯機売れたがや。」


「誰でも、命惜しいから、健康(ンコウ)が第一やがいねん。浜浦の源蔵どんの旦那さま知っておろう。あそこの婆様によれば、眠たい眠たいと言って、日長一日寝てばかりやって。俺おかしいなと思って、婆様に言って、N町の医者に連れて行ったさ。医者の言うのには、糖尿病で、薬を1ケ月も飲み忘れていたそうじゃ。それで、ボケが入って、眠ってばかりだったそうじゃ。しばらくして、大阪に勤めているという息子が、親のためだと言って、俺クーラーを注文してくれたよ。」



「俺の一番のコミュニケーションは、困(マ)ったことがないか、訊くことから始まるがよ。何にもなけりゃ、子()供か孫のことを話題にしてみっしゃい。必ず、話っちゃ終わらんがよ。この間も、原発事故で電気が足りなくなるんじゃないかと心配する人がいたから、解決法として、エコーキュートの話をしたが。俺ア、無理に奨めたがやないよ。そんでも、1セット導入が決まったがよ。」

「平ちゃん、アンタ、これが俺の言うカキクケコエ。これが、商売のコツながヤ。


 ヒカルは、今回の原発事故を契機に、築60年の村の海沿いの、いくらか朽ちかけたボロ家にショールームを設えた。ヒートポンプ技術を利用して、空気の熱で湯を沸かすことができる電気給湯機を導入したそうや。見に来いという。なんでもプチ・エコーシステムだと宣伝している。


「平ちゃん、ところで息子さんこの夏、帰ってくるが、孫さん連れて、このお盆に。ところで、アンタ何か他に困ったことないかい。俺ア、平ちゃんのためやったら、なんでもするちゃ」


その手は 桑名の 焼きハマグリ
                                            2011.7.11