串田孫一著 『雑木林のモーツアルト』 | kasatakakt66

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-- -黄 葉---

                                     

大活字本シリーズ 大活字で読みやすくまたこのシリーズで串田孫一著「雑木林のモーツアルト」を読んでみる事にしました。
読んでみたいきっかけは、雑木林とモーツアルトを組み合わせた題名からどんなことが書かれているのか興味を持ちました。
目次も見ずに借りて来てから改めて目次をみますと、なんと最後の1編だけの題名が本書の題名になっていました。
旨いものも一つを最後に食べるのと同様に、最後の楽しみにとっておくことにして先ずは最初の『羊飼の星』から読み進めました。
13ページから始まります!

 

 

ようやく最後の『雑木林のモーツアルト』にたどり着きました。


親しい友人から、風邪には用心をと外套を届けてくれた。

近くの人通りの少ない道を歩いてくることにした。
西空には雲が全くない。雲のない空を見ると、そこに似合いの雲をえがいてみたくなる。
若い頃には、明日の天気と共に自分の未来を描いたものだが、今は実際には雲のない夕映えの空に向かって何を想えばいいのだろう。何を考えるのが相応しいのだろう。

 

晩年の作者ももう未来を描かずに現実を見据えているのがうかがえます。そして、散歩をするには都会を遠く離れなければならない。と一旦ここで段落。

一年半ほど前、手紙を投函後に近くの僅かに残っている雑木林と片側に畑がある。三十数年前には家も少なく街灯もなかったが、今はそれ程のことはない。いつまでも此の侭であってもらいたい道である。

 

私の散歩コースも三十数年前とは、徐々に家が増えて来て、作者と同感、いつまでも此の侭であってもらいたいです。

その道の途中まで来ると、雑木林の繁みの中から笛の音が聞こえだした。木の葉を口に咥えて鳴らしているらしい。
 それから三、四個月たった夕方、同じ道のほぼ同じあたりで、またこの音の漣(さざなみ)に巡りあった。今度はモーツアルトの『春のうた』である。
余りみごとな音色なので、つい声をかけたりして・・・・と言うと、葉を一枚千切り、もう一度『春のうた』を吹き鳴らして呉れた。
この次に音が出せるようになっていたら、二重奏はどうでしょうか、と言うとその老人は嬉しそうな顔を見せて、別れた。本気になって練習をしないせいか音が出せない。出せるようになるまで、雑木の残っているあの道は通れない。


これが、『雑木林のモーツアルト』の題名でした!たぶん『春のうた』は著者の勘違いで正確な題名は「春のあこがれ」と推測されます。

この酷暑からほんのひと時でもあの清々しい五月を想いだしてみませんか。

 

 

 

 

原曲は、ヘ長調 K. 596 で、モーツァルトが1791年に作曲した歌曲です。さらに元となる曲はピアノ協奏曲 K.595の第3楽章でモーツアルトらしい軽快で優美な曲ですね。

 

おしまい