おすすめの本:白い巨塔 | つぶやきかさこ

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絶対におもしろいです。おすすめです。ぜひ読んでください。
こんな最高の書を今まで読んでこなかった自分自身が恥ずかしくなるぐらい、おもしろい本です。

「抵抗感」がある人にアドバイス。
・文庫本で5巻あるが、字も大きく量も少ないので、すぐ読めるので、
「5巻もあるの?」と長さを心配する必要はまったくない。
・「どうせ病院の腐敗を描いた社会派小説なんて嫌だ」という方、
私も「社会派小説」だと思っていたが、こてこての社会派ではない。
むしろ「人間ドラマ」が描かれたおもしろい小説ですので、その辺もご安心あれ。

さてさてここから書評に入っていくが、ネタばれになるので要注意。

<1>
まず、上記にも書いたけど「こてこての」社会派小説ではなかった。
病院、医療業界の腐敗を描いたものかと思ったが、
それほどその点に注力を注がれてはいない。
もちろん、到底信じがたい医療業界の実態が明らかにされてはいるのだが、
むしろそんなどうしようもない腐敗業界の中で、
世渡りしていく「加害者」でありながら「被害者」である医師たちの姿、
特に主人公・財前の人生は、反発というより共感を覚える。

腐敗だらけの教授選、序列で凝り固まった封建的な医師集団、
さまざまな利害、利権が絡んだ人事、
患者そっちのけの、自分の名誉のための業界・・・
そんな信じられない腐敗医療業界を見事に描いているわけだけど、
そこで生きている医師たちも腐敗に加担している確信犯でありながら、
そうしなくてはまともにこの業界では生きていけない被害者であることに、強く憤りを覚えた。

主人公・財前が「44歳で教授、46歳で学術会議会員、
50歳で学士院賞、55歳で学士院会員、60歳で文化勲章」というのを目標に、
すべてのものを投げ打って生きている、その情けなさ。
医療業界が肩書きや名誉ばかりにいかに縛られているかを端的に物語っている。
そんな肩書きのために、姑息な策謀をはりめぐらし、
神経をすりへらし、上司にごまをすり、賄賂を渡し、体を壊して、挙句の果てに死んでしまう・・・。
そういうものが「価値」を持ってしまう医療業界そのもののシステム変革をしない限り、
医師もまた加害者であり被害者なんだよなと、財前の生き方を読むにつれ思う。
でももし僕はその業界にいたら、きっと財前のように生きていただろうと思う。

<2>誤診裁判
この本の中心的な物語となっているのが誤診裁判である。
最近の度重なる病院の不祥事と重ね合わせると興味深いものがあるが、
僕は正直、この本での「誤診」はちょっと次元が違う問題だと思う。
患者を間違えただとか、注射を取り違えたとか、
昨今起こっているような単純な信じられないミスの事件ではなく、
非常に高度な医療レベルの「誤診」を問題にしていて、
鑑定人となる医者の立場によっても判断がわかれることから、
これを患者遺族側の勝利にして、医者の敗訴にしてしまうのは明らかにおかしいと思うが、
まあ明らかにおかしい判断をするのも裁判所だよなと思うと、興味深い。

実は、著者は、医師側勝訴の第一審で物語を完結していたらしいのだが、
読者から「社会的影響を考えても、医師側勝訴の判決にしてほしくない」
といった要望が多かったらしく、2年後に続編を書き、
第二審を「患者側勝訴」にした物語を書いたというわけだ。

僕はてっきり、ひどい誤診を行った医者の腐敗を描いたものかと思い込んでいたのだが、
僕がこの本を読む限りは、この「誤診」問題は、
むしろ主人公の医師側に共感を覚え、患者側に共感を覚えることはなかった。
それはこの本が主人公・財前を軸にした「人間ドラマ」を描いていることが理由で、
もし「こてこての」社会派で、もっと明らかな誤診事件にでっちあげ、
それを暴き立てるような本を著者が意図したなら、
財前を主人公にせず、患者側についた「正義の見方」里見を主人公にしたであろう。

僕には財前が悪で里見が善には見えなかった。
里見は正確な診断をするために患者に何度も検査をする医者なのだが、
はっきりいって患者からいやがられているし、僕だって患者だったら嫌だろうな。
確かに理想論からすれば何度も何度も検査をした方がいいに決まっているが、
そんなに何度も病院にはいってはいられない日常生活の中で、
いつまでたっても検査ばかりではっきりした決断をせずにいる里見のような医者だって、
下手をすると訴えられる可能性だってある。

その点、ずばっと手術だといってくれる財前の方が、患者としてはありがたい場合が多い。
だから僕は終始この物語は財前を悪とする物語ではないし、
現実問題として自分が置かれた立場や状況をふまえて行動しない、
理想主義者の里見は、現実的にはあり得ない行動だなと思ってしまう。
だからこそ主人公、財前は、腐敗業界の中で自分もはいつくばって生きていく姿に、
時折、慢心や奢りがあったとしても、それは非常に人間らしく、共感できるんだよなと思う。

この物語でずっといやらしいなと思うのは、東教授の娘。
自分が妻がいる里見を好きになったという理由から、
裁判に協力するようになり、妊娠している元婦長を断られても何度もしつこく訪ねるあたり、
結果として元婦長が裁判に証人として出廷したが、あれもあり得ないなと思うし、
非常識にも熱心に押しかけるああいう娘こそ犯罪だよなと思うが、
確かにこういう不純な動機で裁判に協力してしまうやつもいるよな。

<3>
この物語を読んで思うんだけど、一人一人の医師の誤診や、1つ1つの病院の不祥事よりも、
根本的に日本の医療制度そのものがおかしいから、変なことになってしまうし、
また、医者という肩書きをありがたがる小市民がうようよいるから、
余計に医者を尊大にさせてしまうんだろうなと思う。

財前の妻も里見の妻も、夫の出世ばかりを気にし、世間体ばかり気にしているし、
金を使って医者に特別扱いしてもらおうとする会社社長やお偉いさんがいるし、
医者そのものに限らずその周囲が医者を尊大にさせている大きな要因なんだなとつくづく感じさせる。

政治家の腐敗でもそうだけど、やっぱり金をもらって腐敗政治家に投票しちゃう、
そういう小市民が政治家の腐敗を増大させているのと同じように、
「医者と結婚」じゃないけど、医者を特別階級とあがめたてまつって、
ちやほやする取り巻きが医療業界腐敗の大きな要因であることを忘れてはいけないなと思う。

とにかくこの小説は実におもしろかった。
ぜひ読んで欲しい。買って損はしない本だ。