「“ 尊厳死 ”の是非を問うつもりはない」──今、世界が注目する新鋭監督・早川千絵が描きたいもの。

高齢化が進み、75歳以上に生死の選択ができる制度が施行された近未来の日本という舞台設定の映画『PLAN 75』──生の意味を問うこの作品は、第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出され、特別表彰を受賞。一躍世界の注目を浴びた早川千絵監督がデビュー作に込めた思いとは?

Photo: Tameki Oshiro

小学4年生のときに小栗康平監督の『泥の河』という作品を観たのが、映画監督を志すようになったきっかけです。それまで漠然と“感じていたけれど言葉にできなかった”感情が描かれていて、この映画を作った人は“私の気持ちをきっとわかってくれる”という感覚を初めて知りました。影響を受けた映画監督は、相米慎二、エドワード・ヤン、イ・チャンドン、クシシュトフ・キェシロフスキ。小説家ならポール・オースター。人生の哀感を描いている作家たちばかりですが、私が映画で描きたいことも、「人生の哀感」なんです。荒木経惟さんが撮る(妻)陽子さんの写真の力強さにも感銘を受け、やはり人間を撮っていこうと決意しました。『PLAN 75』は、2017年の初頭から長編映画として構想していたものですが、オムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の「10年後の日本を描く」というコンセプトにも重なるテーマだったので、同企画への参加を決め、まず20分ほどの同名の短編を作り、18年から本作に取り掛かりました。

泥の河 映画

小学4年生のときに小栗康平監督作品『泥の河』を観て、初めて映画の作り手側に強烈な憧れを抱いたという。Photo: ©Unifilms / courtesy Everett collection

きっかけは、社会的に弱い立場におかれた人々がさらに生きづらい世の中になったと感じ始めたからです。自己責任論が根強い日本は、裏を返せば、“自分でできない人はどうなっても知りませんよ”という冷たい社会のように感じます。もし作中で描いている「PLAN 75」のような制度が合法化されたら、負の意味で最も影響を受けるのが弱者ですから。“尊厳死”というモチーフを取り扱っていますが、その是非を問うつもりはありません。この作品を作る際にお話を伺った(主要登場人物と同じく)フィリピンから来日した介護士の方々は皆さん、このような制度には反対の立場でした。一方で、78歳の主人公ミチと同世代の女性の多くは肯定的なんです。

今作が問題提起する重要なテーマとは。

ある視点 映画

早川監督初の長編であり、5月のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品作でもある『PLAN 75』は6月17日公開。Photo: ©2022『PLAN 75』製作委員会 / Urban Factory / Fusee