深緑・竹生島の沈影 | 行雲流水 ~所長の雑感~

行雲流水 ~所長の雑感~

松田進税理士事務所 所長の松田が日々思うことを思うままに綴った雑記帳

琵琶湖に浮かぶ国の史跡名勝、謡曲「竹生島」ではその姿は「緑樹影沈んで……」と謡われます。半世紀前、同大ヨット部の琵琶湖周航で初めて訪れた竹生島は、まさに詞の通り。こんもりと緑に覆われた島影は、鏡のような水深100メートルの湖面にその影を神秘的に映していました。神亀元年(724年)に建立された宝厳寺に宿を借り、一夜を過ごしたことが思い起こされます。また島に鎮座する都久夫須麻(つくぶすま)神社は雄略天皇3年(420年)から1500年以上の歴史を持っています。


 YYC(柳ヶ崎ヨットクラブ)が湖北への周航を始めて15年になります。(19989MidorikaiTimes No.63)大津から琵琶湖大橋へかけての南湖に比べ、同じ湖とは思えない湖北のたたずまい、世界でただ一つ湖中の島で小学校がある沖島、湖中に突き出たオーバハングした大岩に「南無妙法蓮華経」の経文が彫られている多景島、湖中に突き出た真っ白な岩の群れ沖の白石、そして竹生島の緑の景色を楽しんできたのですが、いつ頃からか竹生島の周辺で異変を感じ出しました。長い間竹生島はシラサギのコロニーでした。学生時代、島の裏山に登るとシラサギの糞に足を突っ込んで困った思い出があります。しかし濃い緑の間に点々と白が混じり、なかなかいい景色でした。異変というのはその白に黒が混じり出したのです、カワウです。


 そしていつのまにか白は完全に姿を消し、島全体が黒に占領されました。そして緑に覆われていた島は徐々に土肌を見せ始め、一昨年、島の西側はほとんど禿山状態になっていました。湖面にはあちこちにカワウの群れが蠅がたかるように浮いています。ヨットが近づくと一斉に飛び立ち、雁行隊形を作って空を舞いますが、何か悪しきものに空も水も取り込まれたようで不気味でさえありました。2007年、安倍晋三首相が滋賀県の嘉田知事と長浜から竹生島を訪れたテレビ映像が流れました。背景にはおぞましいカワウの大群が映り、その漁業被害や環境汚染が報道されました。


 その映像を見て県の中枢部も被害を深刻に捉え根本的な解決に乗り出すものと期待していましたが、2008年から2011年まで事態は一向に変りませんでした。それどころか前述のように西側が禿山状態、全島枯れ木に覆われた姿になるのは正に時間の問題のように見えました。ところが昨年の2012107日、ジブ(前帆)だけで7ノット(時速12キロ)も出る強風に乗って竹生島に近づいても、例年のように空を覆うような大群が見当たりません。


 その時は強風のせいかなと気にも留めなかったのですが、翌日、風の穏やかな状態でも明らかに個体数は減っていました。そして今年の92324日にかけて湖北クルージングに出かけましたがなんとカワウはたった2羽しか見かけませんでした。そして嬉しいことに竹生島の植生が戻っているように見えました。土色よりはっきりと緑の面積の方が増えていたのです。


 今年激減した理由を見つけようとインターネットで色々検索してみてもはっきりした理由は見つかりません。分かったことは、県、市あるいは竹生島ではこれまで様々な対策を10年以上かけて試行錯誤しながら行ってきたようです。


いわく「営巣妨害のためロープを張った」

「人が頻繁に島に入って巡回追い払いを行った」

「石鹸水を散布して卵の孵化率を低下させる試みを行った」

「樹幹に大きなネットを掛け営巣妨害を行った」

「平成18年度には繁殖期を中心にした銃器捕獲で8481羽を捕獲した」などなど。


 しかし今年私の目に2羽しか入らなかった理由は見つかりませんでした。ところが、109日の京都新聞の囲み記事「灯」の中でそれらしい理由を発見しました。「……そのカワウは、最近、エアライフルなど銃器による捕獲と駆除でピーク時の2008年秋の58500羽から今春には5386羽にまで激減している……。」


答えは「エアライフルなど銃器による捕獲と駆除」だったのです。平成18年の銃器捕獲がなぜ有効ではなかったのか。それは狩猟免許を持つ人が臨時にやってきて試しにやっているだけ、カワウはとうにお見通しだったのです。ヨット部の現役時代の出来事を思い出します。ある日湖上での鴨の銃猟が禁止になり湖岸に立札が立てられました。前日までヨットが50メートルくらいまで近づけば飛び立っていた鴨が、その日から5メートルまで接近しても悠々と泳いでいました。野生の鋭さに舌を巻きました。エアライフルは狩猟免許はいりません。常に手近において誰でも使えます。人間の本気度に気づいたのです。


 10数年前オクスフォードの市場で、首を切り落とされた鹿が逆さづりにされて売られていました。当時英国の動物愛護団体が九州のイルカ漁を標的に非難轟々の時でした。一緒にいたオクスフォード大の学生に君たちの動物愛護はどうなっているんだと、問うたところ「人里に現れた野生はズドンが一番」と悪びれる ことなく答えました。さすが狩猟民族の末裔と舌を巻きました。猪、鹿、熊、猿など日本の獣害対策にも参考になるかも知れません。


 ちなみに「灯」のメインは、びわ北小学校の児童たちが竹生島のタブノキ林の再生に取り組んでいる記事でした。「……タブノキは、過去に育成されたことがなく……手探りの再生事業になる。『卒業する3年後には島に戻したい。』児童たちの言葉が力強かった。」