自分で作ったソロジャーナル
「とある魔導士の研修日記」です。
ビエントの5日目です。
これまでの流れ(ざっくり) ↓
1日目。朝、知らない二人と朝食。
昼、古い本を読み、もっと勉強したくなる。
夜、先生からの呼び出しの手紙。
2日目。朝、先生から「あなたは組み合わせが得意そう。様子見したい」&「午後の授業で手伝って」と言われる。
昼。リオとセナと3人で組む。道具にひびが入る。セナが「友だちが直せるかも」と申し出る。
夜。自力で直すも、また動かなくなるので寝る。
3日目。朝、セナはリオと二人でやりたい、と言うので、寂しくなる。結局、別の人とやることに。カイと当たる。
昼。カイがひとりでやる、というので女子(ミナ)とやる。
夜。ミナに誘われ、みんなでおしゃべり大会をする。
4日目の朝。カイと会う。犬が来る。魔法石をもらう。
昼。カイと組み、重なりがうまくいく。先生に「明日の実習で手伝って欲しい」と言われる。
夜、露店で魔法の芳香剤を買う。
主人公:ビエント(17)
5日目。朝。
朝、ビエントが実習室へ向かうと、入口に先生が立っていた。
「おはよう、ビエント。ちょうどよかった」
「おはようございます。昨日の実習の手伝いですよね?」
「そう。……なんだけど」
先生は少し困った顔をした。
「予定を変更することになった」
「え?」
本来は、数人の研修生が組んで、一つの魔法陣を完成させる実習だった。
ところが、今朝になって魔法陣の一部に不具合が見つかったらしい。
「このまま始めると、魔力がうまく流れない。原因を探しているんだが……」
先生は実習室の奥を指した。
そこには、昨夜まで使えていた道具が並んでいる。
ビエントは近づいて、じっと眺めた。
「……これ、昨日の授業で使ったものですよね?」
「そうだ」
「だったら、道具じゃなくて……」
ビエントは魔法陣の端にしゃがみ込んだ。
「ここじゃないですか?」
先生が覗き込む。
「……どうしてそう思う?」
「昨日、ここだけ少し色が違ったような気がして」
先生が黙って確認する。
やがて、
「……本当だ」
とつぶやいた。
どうやら、魔法陣を組み立てるときに、似たような部品を一つ取り違えていたらしい。
「よく気づいたな」
「たまたまです」
ビエントは照れながら言った。
先生は笑った。
「いや。昨日も『組み合わせが得意そう』と言っただろう?」
ビエントは少しだけ考えた。
「……そうでしたね」
「今日も、その才能を貸してもらおう」
先生は、予定していた実習とは別の作業を指さした。
「みんなには予定どおり始めてもらう。その間に、君は私とこちらを直そう」
「はい」
ビエントは袖をまくった。
予定とは少し違ってしまったけれど。
でも、ビエントにとっては、思いがけず自分の得意なことを試す朝になった。
5日目。昼。
午前中の作業が一段落すると、先生がビエントに言った。
「昼休みだ。午後の実習が始まるまで、少し休んでおいで」
ビエントは中庭へ出た。
昼食を食べながら、午前中に直した魔法陣のことを考える。
「ちゃんと動くかな……」
すると、遠くからざわざわと声が聞こえてきた。
「船が来たって!」
「船?」
ビエントが顔を上げる。
研修所の裏手には、小さな水路がある。
そこを、一艘の小さな船がゆっくり進んでいた。
荷物を運んできた船らしい。
ビエントはしばらく眺めていた。
船はそのまま水路の向こうへ進んでいき、建物の陰に消えた。
「……行っちゃった」
ほんの短い出来事だった。
そのとき、
「ビエント!」
振り返ると、カイがいた。
「ここにいたんだ」
「うん。今、船が来てたよ」
「へえ。見たかったな」
カイは残念そうに笑った。
そして、少し間を置いてから言った。
「午後も、昨日みたいに一緒にやるんだよな?」
「……うん」
ビエントはちょっと嬉しくなった。
「じゃあ、よろしく」
「よろしく」
二人で笑った。
船はもう見えなくなっていた。
けれど、ビエントの中には、カイと午後も一緒にやれることへの小さな楽しみが残った。
5日目。夜。
夕食を終えたビエントは、部屋に戻った。
明日の準備をしようと鞄を開ける。
すると、底のほうから見覚えのないものが出てきた。
「……鍵?」
小さな古い鍵だった。
「こんなの、入れたっけ?」
しばらく考えてみたが、思い出せない。
気になったビエントは、鍵を持ったまま、今朝の実習室に行くことにした。
誰もいない薄暗い廊下を歩きだす。
ふいに、後ろから声がした。
「どこへ行くの?」
びっくりして振り向くと、カイだった。
「鍵を見つけたから……実習室のかな、って」
「へえ」
実習室には鍵がかかっていなかった。
「失礼します」そっと声掛けして2人で中に入る。
「どこかが開いたら、面白いよな」
カイはキョロキョロして鍵穴を探し始めた。
すると、部屋の奥に小さな物置があることに気づいた。
ビエントが試しに鍵穴に鍵を入れてみる。
カチャリ。
開いた。
中には、古い教材や壊れた道具が積まれていた。
その中に、昼間見ていたものとよく似た古い魔法道具があった。
「……これ、もしかして」
ビエントは手に取った。
昨日読んだ古い本に載っていた道具と、同じ型だった。
「わあ……」
思わず顔がほころぶ。
もっと調べてみたい。
カイも中を覗き込む。
「面白そう」
二人でしばらく古い道具を眺めた。
「明日、先生に聞いてみようか」
「うん」
元通りに物置に鍵をかけて、二人で部屋を出た。
「鍵は明日、先生に渡すよ」とポケットにしまい、ビエントは、カイと並んで男子寮に戻った。
なんだかちょっとした冒険をしたような、嬉しい気分だった。
・・・続きます。