自分で作ったソロジャーナル
「とある魔導士の研修日記」です。
トランプやサイコロの出目で
お話を作っていきます。
昨日の続きです。
主人公:ビエント(17)
2日目。朝。
目を覚ましたビエントは、枕元の時計を見た。
まだ少し早い。
昨日の夜、机の上に置いた手紙が目に入る。
「本日の実技演習について、明日の朝、少し話をしたい」
「……そうだった」
一気に眠気が飛んだ。
朝食の前に、研修担当の先生のところへ行くことになっている。
着替えて、廊下に出る。
すると、ちょうど昨日の朝に知り合った男子が向こうから歩いてきた。
「ビエント、おはよう!」
「おはよう!」
「今日、一緒に朝ごはん食べない?」
「うん。……あ、でもその前にちょっと先生のところに行かなきゃ」
「なんか悪いことした?」
「それがわからないんだよ!」
二人で笑った。
けれど先生のいる校舎へ向かう途中、ビエントはだんだん口数が少なくなった。
――何を言われるんだろう。
そして、職員室の前。
扉をノックする。
「どうぞ」
入ると、昨日の実技担当の先生が待っていた。
机の上には、昨日ビエントが読んでいた古い魔法書が置かれている。
「座ってください」
ビエントは椅子に座った。
先生は本を手に取る。
「昨日のことですが、あなたはこの本をどこで?」
「あの……教室の隅に置いてあったので」
「そうですか」
先生は少し考えた。
「実は、この本は研修用の教材ではありません」
「えっ」
「以前の魔導士が残した、かなり古い研究書です。普通なら、研修生が触ることはありません。手違いで誰かが置き忘れたのでしょう」
ビエントは背筋を伸ばした。
やっぱり何かやらかした?
しかし先生は怒らなかった。
「ただ――」
そこで、先生が昨日のビエントの魔法を再現する。
小さな光が、ふわりと浮かんだ。
「昨日、あなたがこの本の理論を読んだあと、魔力の流れが変わりましたね」
「……はい」
「あなたには、魔力そのものを強くするより、異なる魔法の性質を組み合わせることに向いたところがあるようです」
ビエントは目を丸くする。
「僕が……?」
先生は頷いた。
「まだ何とも言えません。だから、少し様子を見たいのです」
なるほど。
昨日の「明日の朝、少し話をしたい」というのは、そういうことだったのか。
ビエントはほっとした。
そして、ちょっと嬉しくなった。
「じゃあ……僕、そういう魔法をもっと練習してもいいんですか?」
「もちろん。ただし、独学で無茶をしないこと」
「はい!」
先生が少し笑った。
「それと、今日の午後の実技では、あなたに一つ役割をお願いする予定です」
「役割?」
「ええ。あなたには、ある二人の研修生の間に入ってもらいます」
「……僕が?」
ビエントは目を瞬いた。
どうやら、今日の午後は普通の実技では終わらなさそうだ。
先生との話を終え、廊下に出る。
すると、さっきの友達が待っていた。
「どうだった?」
「うん。怒られなかった!」
「よかったじゃん!」
「それでね――」
ビエントは歩きながら、今聞いた話を夢中になって説明し始めた。
その途中で、ふと気づく。
先生に褒めてもらったことと、人との間に入る役割を任されたこと。このふたつが、じわじわと嬉しかった。
自分に何ができるのか、まだよくわからない。
でも、
「やってみたい」
という気持ちは、はっきりしていた。
2日目。昼。
午後の実技は、二人一組で行う予定だった。
ところが先生が教壇の前で言った。
「今日は一部の人に、三人組になってもらいます」
ビエントは顔を上げる。
そして、先生が名前を呼んだ。
「ビエント。それから、リオとセナ」
「はい」
振り返る。
リオは昨日の朝、食堂で知り合った男子だった。
もう一人のセナは、ビエントとはまだほとんど話したことがない女子生徒。
セナは少し不満そうな顔をしている。
「……私、二人でやりたいんだけど」
リオも、
「僕も、いつもの相手と組むつもりだったんだけどな」
と言った。
ビエントは二人を見た。
先生が言っていた「ある二人」というのは、この二人らしい。
「まあまあ」
ビエントは二人の間に立つ。
「今日だけ三人でやってみようよ。うまくいかなかったら先生に相談しよう」
セナは黙っている。
そこでビエントは、ふと気づいた。
この二人、仲が悪いわけではない。
むしろ――お互いに遠慮している。
リオはセナの魔法を邪魔しないようにしている。
セナはリオに合わせようとしている。
だから、魔法のタイミングが合わない。
「ねえ」
ビエントは言った。
「二人とも、相手に合わせようとしてない?」
二人が同時に顔を上げた。
「……」
「……そうかも」
「じゃあ、まず自分のやりたいタイミングでやってみようよ」
ビエント自身も魔力を出す。
三人の魔法が、それぞれ別々の方向へ動く。
当然、最初はめちゃくちゃだった。
「わっ!」
「ちょっと、ビエント!」
「ごめん!」
三人で笑った。
何度か繰り返すうちに、少しずつ呼吸が合ってくる。
最後には、三つの魔法が一つの光になった。
教室の中央に、柔らかな光が浮かんだ。
「……できた」
セナが呟く。
「うん」
ビエントも笑った。
先生が頷く。
「今のが、今日の課題です」
授業が終わったあと、セナがビエントに声をかけた。
「ありがとう」
「え?」
「私、あの子に合わせなきゃって思ってた。でも、そうじゃなかったんだね」
ビエントは少し照れた。
「僕も勉強になったよ」
そのとき、セナが笑った。
「午後の授業、けっこう好きかも」
「僕も!」
……なんだろう。
誰かと誰かをつなぐ役割ばかりしてる気がするけど、それが嫌じゃない。
むしろ――楽しい。
教室を出ようとしたとき、ビエントは自分の机の上に置いた魔法道具が、少し壊れていることに気づいた。
「……あれ?」
授業中に魔力をぶつけたせいだろうか。
大したものではないけれど、明日の実技には必要になる。
「修理しなきゃ……」
セナが横から覗き込む。
「それ、私の寮の友達が直せるかも」
「ほんと?」
「うん。聞いてみる」
「ありがとう!」
こうしてまた一つ、人とのつながりが生まれた。
2日目。夜。
夕食のあと、ビエントは自室に戻った。
机の上には、午後に壊れてしまった魔法道具が置かれている。
小さな魔力増幅器。
明日の実技で使う予定だった。
「……これ、どうしようかな」
手に取ってみる。
やっぱり、魔力の通り道にひびが入っている。
でも、昼間セナが言っていた。
「友達に聞いてみる」
その言葉を思い出すと、少し安心した。
「明日、聞いてみよう」
そう言って、道具を机の隅に置く。
ところが。
ふと、ビエントは思った。
――自分で直せないのかな?
今日、先生に言われた。
「あなたは、異なる魔法の性質を組み合わせることに向いているかもしれない」
なら、この道具も。
「……やってみよう」
ビエントは昼に読んだ古い魔法書を開いた。
そこには、魔力を一方向に流すのではなく、二種類の魔力を循環させることで、物体の内部にある魔力の流れを整えるという方法が書かれていた。
「これなら……」
机の上に道具を置く。
両手をかざす。
魔力を流す。
最初は何も起きない。
もう少し。
ゆっくり。
魔力を循環させる。
すると――
ぱちっ。
ひびの入った部分が淡く光った。
「……!」
もう一度。
光が少しずつ広がっていく。
そして。
カチッ。
ひびが消えた。
「……直った!」
ビエントは思わず両手を上げた。
「やった!」
ところが、その直後。
魔力増幅器の光が、すっと消えた。
「あれ?」
もう一度触ってみる。
反応しない。
「……?」
完全に壊れたわけではない。
でも、今は眠っているように動かない。
ビエントは少し考えた。
「……今日は、ここまでってことかな」
魔力を使いすぎたのかもしれない。
道具をそっと机に戻す。
そして古い魔法書を閉じる。
ビエントはベッドに入る。
「明日になったら、また動くかな」
そんなことを考えながら目を閉じる。
・・・明日に続きます。