小説を連載しています。

「百輪女子高DAYS(デイズ)」シリーズです。

 

 

(前作「百輪村物語」のパラレルワールドです。

 登場人物の性別が逆転し、年齢も若くなっています。

 前作を読まなくても大丈夫です。)

 

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「女子高」のまとめはこちら → 百輪女子高DAYS 目次 

「村」のまとめはこちら   → 百輪村物語 目次

 

 

 

登場人物名は、アルファベット表記です。

☆主人公は、いちおうEですが、群像劇です。
(性別が変わったので、新たに名前をふりました)
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
(生徒は下の名前、教師は苗字。男は黄色)
A(3-5 スケバンのボス)  悪久亜  アクア
B(2-3担任・家庭科担当)  芭蕉先生 バブル  
C(2-3 生徒会副会長)  千枝  クララ
D(2-3 転校生)     大奈  ディアナ
E(2-3クラス委員・生徒会書記)栄子 エーデル
F(1-1 DIY部・部長)   文子 フェリス
G(1-4 DIY部・副部長)  月夏  ゲイナ
H(百輪女子高の教頭)  広瀬先生 ヒラリー
J(3-4 生徒会会長)   純子  ジャニス
K(草切男子校2年)     加流  カール
L(百輪女子高の校長)  蘭堂先生 リンドン
M(1-2 ダズンのヘッド) 正美  マーシア
  ダズン=1年の不良グループ名
O(草切男子校3年)    織音  オリオン
P(2-3)         風由子 プリシア
 
ρ(Kの母親 美容師)   六花  ローズ

 

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない眼差し

 

 

 

  1

 

ある日のこと。
百輪女子高では、三者面談がありました。

放課後、3年5組の教室で、

スケバンのボスAと、その母親が、

担任と向かい合い、話をします。

「最近のAさんはとても頑張っていて、
 成績も少しずつ上がってきています。
 この調子で進めば、卒業も見込めるでしょう」

担任の言葉に、

Aはちらりと横の母親に目線を向けました。


母親は、見せられた内申点の表を興味なさげに見て、
「・・・そうですか。それならいいんですが」
とだけ静かに言いました。

「それから、Aさんは、同じく3年のJさんと、
 あちこちに職業体験に行っています。
 どこか、気に入った職場があれば、
 学校としてもサポートしていこうと思っております」

「そうですか。

 この子を受け容れてくれるなら、
 どこでも構いません。

 どうぞよろしくお願い致します」


Aの母は、恭しく頭を下げました。

教室を出ると、Aは母親に、
「見た?成績、上がってきてるでしょ?」
と声をかけてみました。

 

が、母親は、ため息をつきました。
「はいはい。あなたなりに頑張ってるわよね。
 お兄ちゃんは、いつも満点だったけどね」


Aはムッとして、吐き捨てるように言いました。
「だから!東大の兄貴と比べないで!」
 


「あっれ~~?Aじゃん!Aも面談、今日だった?」


素っ頓狂な声がするほうに、

AとAの母親が顔を向けると、
そこにはニコニコ顔のJがいました。


その後ろでは、Jの母親が

隣の3年4組の教室から出てきたところです。

J「おかん、この人がAだよ。
 A、こっちがうちのおかん」


Jがおおざっぱに紹介すると、
Jの母親は相好を崩し、A母子に近づきました。


Jの母「Aさんのお母様ですか?初めまして。

 いつもうちのJがお世話になってます。 
 『Aさんが一緒に職場見学してくれるから
 毎回楽しい』って、Jが話してくれますよ」

Aの母「こちらこそ、お世話になりまして。
 職場見学の話は、

 先ほど担任の先生から初めて伺いました」

J「え?A、お家で話をしないの?」


A「・・・話すようなことでもないし」


Jの母「あら、せっかく

 面白いエピソードがたくさんあるんですから、
 お話されたほうが、きっと楽しいと思いますよ。


 それにね、今度、私も

 一緒に見学したいと思ってるんです。
 Aさんのお母さんも、ぜひいかがですか?」


Aの母「職場見学を?」

 

 

 

  2

 

Jの母「ええ。

 二人が職業体験するのを見学するんです」

 

Jの母の言葉に、Aの母は目を丸くしました。

 

Aの母「それ、学校の行事じゃないんですよね?」


J「そうですけど、きっと面白いと思いますよ。
 実はこれから進路指導の先生に

 話を持ちかける予定なんです」

 

Jは、Aの母親ににっこりわらいかけます。

そして、Aの方を向きました。


J「親同伴でもOKな見学先があるといいよね、A」


JはAの腕を親し気にぺちぺち叩いてから、
J「じゃ、私これから生徒会なので。失礼します」

と一礼し、校舎の奥へ去っていきました。

Jの母も、

「私も用事があるので。ではまた。ごめんください」
と頭を下げて、Jが去った方とは反対の

下駄箱の方へ消えました。

 

Aの母は驚いて、

「・・・Jさんって、生徒会の人?」と尋ねます。


A「そうだよ。ああ見えて、Jは生徒会長だよ」


「まあ!なんて優秀な方とお友だちに?

 すごいじゃないの」
Aの母は、急に目を輝かせるのでした。

校門を抜けてからも、

Aの母はJのことをよく知らないのに褒めました。


「生徒会長さんだなんて、人望がおありなのね。
 それに成績もきっと1番とか2番でしょう?
 オーラがとても輝いていたわ。


 A、あなたの周りは出来る子が多いわね。
 ほら、うちに来たことがあるEちゃんも、

 すごく秀才じゃないの。


 Aも本気出していないだけよね?
 お兄ちゃんに出来て、

 あなたにできないなんてことないんだから」


Aは、「Jと自分は同じくらいの成績だ」と

言おうとしましたが、黙っていました。


わざわざJの悪口を言う必要はないだろう、と

思ったからでした。


母親はなおも口を動かし続けます。
「Aもね、昔からもう少し机に向かっていたらね・・・」

Aは、もう母親の話を聞くのが嫌になり、
「友達が待ってるから、先に帰って」と促しました。

「友達って?ケンカの?

 もういい加減に、縁を切ったらどう?」


A「うるさい!それに、見学も来なくていいから!」


Aは母に背を向け、いつもの仲間、
スケバングループのいる河川敷へと足を向けました。



「あ、ボス」
「面談、終わって良かったですね」


自分の仲間のスケバンたちを見て、

Aはやっとホッと息をつきました。


A「あんたたち、今日は私が奢るから、

 クレープ屋さんに行くわよ」
「わー、うれしいです」

「お供します~」


数人で移動して、

いきつけのスイーツショップに入りました。

Aは少しぼんやりしながら、

昔のことを思い出していました。


自分の兄が優秀過ぎて、両親に常に比較されてきたこと。


いつもよりもテストの点が良かったのを

母親に見せたときに、
「え?たったの35点?」と呆れられたこと。


それ以来、勉強することが嫌になり、

ケンカ三昧になったことなどを。


Aにとっては家にいるよりも、

こうしてグループのみんなと
わいわいやっているほうが、

何倍も居心地が良いのでした。
 

 

 

 

  3

 

それから数日後、進路指導の先生が、JとAに言いました。


「打診してみましたら、消防の体験が出来るそうです。
 ご家族の参加もOKだそうですよ」


J「わー、消防士やってみたかったんだ。

 おかんも喜びそう」


A「先生、すみませんが、うちの親は来ないと思います」


J「A、言うだけ言ってみたら?

 うちのおかんはぜったい来るから、
 Aのお母さんが一人で気まずいってことはないと思うよ」


A「・・・」


Aは先生に渡されたパンフを見て、

ふうとため息をつきました。
(こんなイベントに、来るわけないじゃない・・・)


果たして、当日。


Jの家族は、Jの母親と小学生のふたりがやってきました。
一方、Aの家族は、Aの母親と大学生の兄が参加しました。

消防署の人が、JとAにだけ、消防服を貸してくれました。
防塵マスクとヘルメット、

反射テープが腕や足に巻かれているスーツの上下。
背中には小さな呼吸用のボンベを背負い、

二人は立派な消防士のいでたちです。

JとAは、その服装で、

準備運動したり、

階段を上り下りしたり、
煙で満たされた部屋を通り抜ける体験や、
長いホースをリールから外して現場に持っていく作業、
訓練施設に向かって放水する訓練などを

やらせてもらいました。

「わー、J姉ちゃん、かっこいい~」
「僕もやりたい~」
と、Jの弟たちがおおはしゃぎをします。

消防署員の人が、そんな子どもたちに目を細めながら、
「ご家族にはあとで、

 手動の消火器の訓練をやっていただきますね」
と声掛けしました。

JとAは、最初は家族の目に照れていましたが、

だんだんと真剣になり、
他の消防士さんたちと一緒にきびきびと行動しました。

消火活動以外でも、

人形を使用した応急手当の訓練など、

消防士ではなくても実際に役立ちそうな知識を

教えてもらえました。

「人命がかかっているんだ。生半可な行動は抜きだ」
とインストラクターに言われ、

二人の背筋がピンと伸びました。



一通りの訓練が終わり、

JとAは休憩時間をもらったので、
その場にしゃがみこみ、

やっとヘルメットと上着を脱ぎました。

防火スーツの密閉具合と重労働と緊張で、

ふたりとも汗びっしょりでした。

すれ違いざまにAの兄がぽつりと
「ボンベ・・・重そうだな・・・」

と言うのが耳に入りましたが、
Aは聞こえなかったふりをして通り過ぎました。

 

 

 

  4

 

JとAが壁にもたれて座っていると、

少し先の広場で、
ふたりの家族たちが順番に小型の赤い消火器を手にして、
鉄板の大なべから立ち上る炎を消火していました。

Jは弟たちと母親が、

キャーキャー言いながら消火するのを見て、
小さく「ははっ、可愛い」と笑いました。


Aは、自分の母親と兄が

ぎこちなく消火活動をするのをみて、
(ああ、あの人たちも

完璧ってわけじゃないんだな)と思いました。

インストラクターが休憩するJとAのそばにやってきて、
「ご苦労様でした。どうですか」

と尋ねるので、Jは

「ヘルメットで視野が狭かったのと、

 思ってたより重労働で驚きました」

と言い、Aは

「命を預かって仕事をする大変さが身に染みました」

と返事をしました。

消防署員の人は、JとAに

「人手不足だから、いつでも入団して欲しい」と言い、
最後は体験参加者全員と署員のみんなで敬礼して、

一日体験を終えました。
 


帰り道、JはAに言いました。


J「今日も面白かったよね。やりがいあった?」
A「わりと自分に合ってた。

 グループ行動、けっこう好きだな」
J「へー。良かったじゃん」
JはAの背中を軽く叩きました。
 


その夜、Jの家では、

弟たちと一緒に消防ごっこをするJ。


「火事だ~!」「消火~!」「ホース、こっち!」

などと騒ぎながら、ジェスチャーで

消火器やホースを持つ真似をして遊びました。


Jの母「J、消防士さんはどうだったの?」


J「体を張る仕事はやっぱ、いいね。
 ただ、大けがしてる人とかは見たくないなあ。

 泣いちゃうかも」
Jは、少し困ったような顔で言いました。
 


一方、Aの家では、Aの母が

「ああ、疲れた。

 慣れないことはするものじゃないわね」

と、リビングのソファーでぐったりしていました。


「だから来なくても良かったのに」

とAは口を尖らせます。


すると、めったにAに話しかけてこない兄が
「なんか、A、今日、かっこよかったぞ」

と静かに声をかけてきたので、
Aは(ええ?!)とびっくりしました。


兄は続けます。

「オレは、体力はからきしだからな。
 お前みたいに動けたら、良かったんだけどな・・・」


ますますAは目を丸くしました。


Aの母親は、

「危ないから、お兄ちゃんはやらなくていいわよ。
 Aも女の子なんだから、

 別にやらなくてもいいんじゃない?」
と、なげやりな言葉を放ります。


そんな母にAは、

「決めるのは私だから」とだけ言いました。

 

 

 

(「見えない眼差し」終)