小説を連載しています。
「百輪女子高DAYS(デイズ)」シリーズです。
(前作「百輪村物語」のパラレルワールドです。
登場人物の性別が逆転し、年齢も若くなっています。
前作を読まなくても大丈夫です。)
なんのこっちゃ?の方はこちらから→ 告知
「女子高」のまとめはこちら → 百輪女子高DAYS 目次
「村」のまとめはこちら → 百輪村物語 目次
登場人物名は、アルファベット表記です。
A(3-5 スケバンのボス) 悪久亜 アクアB(2-3担任・家庭科担当) 芭蕉先生 バブルC(2-3 生徒会副会長) 千枝 クララD(2-3 転校生) 大奈 ディアナE(2-3クラス委員・生徒会書記)栄子 エーデルF(1-1 DIY部・部長) 文子 フェリスG(1-4 DIY部・副部長) 月夏 ゲイナH(百輪女子高の教頭) 広瀬先生 ヒラリーJ(3-4 生徒会会長) 純子 ジャニスK(草切男子校2年) 加流 カールL(百輪女子高の校長) 蘭堂先生 リンドンM(1-2 ダズンのヘッド) 正美 マーシアダズン=1年の不良グループ名O(草切男子校3年) 織音 オリオンP(2-3) 風由子 プリシアρ(Kの母親 美容師) 六花 ローズ
では、どうぞ。↓
見えない開拓
1
百輪女子高の3年のJとAは、
まだ、進路を決めていません。
2学期に入ってから、
進路指導室からお呼びがかかり、
二人は一緒に部屋に入りました。
「その後、女子プロに行く話はどうなりましたか?」
A「その話は、今の所、保留にしています」
J「実は、この間、すごく楽しかったんで、
せっかくなら、もっといろいろと体験したいんですよ。
ダメですか?」
「えっ?色々とは?例えば?」
J「あれから、Aとふたりで話し合ったんですけど・・・」
Jは手帳を取り出して、メモ書きを読み上げました。
スタントマン、遺跡の発掘調査、気球のパイロット、
樹木医、舞台の照明スタッフ、トリマー、
イルカの調教、などなど。
先生はぽかんと口を開けて聞いていましたが、
ハッと我に返り、
「あなたたち、
小学生の七夕の短冊みたいなことを言いますね」
と、苦笑しました。
A「ほら、やっぱり。先生が呆れてるじゃないのよ、J」
J「えー?でも、気になるんだから仕方ないじゃん」
先生は一旦メガネを外して、
ハンカチでレンズを拭いてから、
またかけなおしました。
そして一言。
「よろしい。では、まずどこからにしますか?
一番行きたいところは?」
A「え?いいんですか?」
「この間の、女子プロレスの見学と聞いてから、
多少のことでは驚かなくなりましたよ。
こちらとしても進路指導の幅も広がりますし、
一緒にやりましょう」
J「おお、先生。話が分かる~」
「ただし、二人で一緒に行動してくださいね。
その方が、先方に見学の話を持ち掛けやすいですし、
見知らぬ職場に単独で行かせるより安心ですから」
A「ずっとこのJと一緒に・・・?」
J「はーい、わかりましたー!」
「それから、お願いがあります。
見学をしたら必ず感想文を書いてください。
この間の女子プロレスの件もです」
J「えー?宿題?」
「違います。
あなたがたのためだけではありません。
今後の後輩のための進路資料にしたいんです。
あなたがたは、
後輩のためのパイオニアです」
J「パイオニア・・・かっこいい。
けど、どういう意味?」
A「開拓する人、って意味じゃなかったっけ」
先生は、机から身を乗り出して、
目の前の二人の生徒に言います。
「これまで『女子プロレスを見学した感想』という
進路資料は、わが校にはありませんでした。
けれども、これからはあります。
成功も失敗も、すべて財産になりますので、
正直に書いてください」
JとAは頷き、さらにヤル気に満ち溢れました。
2
それからというもの、
進路指導の先生が電話をかけ見学の約束を取り付けると、
ふたりは週末、そこへ出向くようになりました。
ある日は、
漁師さんと一緒に舟に乗って魚を釣ったり、
宅配便の仕事を手伝って家々を回ったり、
水族館の水槽を掃除する仕事にいそしんだり。
そして学校に戻ってくると、
フォーマットの用紙に感想を書きました。
J「ちょっと体力がいる仕事だったよね」
A「海が好きな人には最高。
ただ、船酔いする人には無理かも」
などと相談しながら。
今回、ふたりが向かったのは、県内の動物園でした。
小さい規模ですが、
近隣の幼稚園や小学生たちが
遠足で利用するなじみ深い場所です。
JもAも昔来たことがあり、
「なつかしいなあ」とニコニコしました。
園長先生やスタッフに出迎えられ、
借りた作業着に着替えると、
動物たちのエサである野菜や果物をカットしたり、
園内の通路や、動物たちの寝床の清掃をしました。
Jが水の入ったバケツを持って移動しようとしたときに、
足元のフンを踏んでしまい、つるりとすべりました。
そこをすかさずAが腕を取り、
Jは尻もちをつかずに済みました。
J「ああ、A、サンキュー」
A「気をつけなさいよ、ったく」
スタッフはそんな二人を見て
「仲がいいねえ」と笑いました。
作業の合間の休憩時に、Jはスタッフに話しかけました。
J「動物たちがのんびりしてるから、
仕事も楽だと思ってました」
「動物たちが主役で、僕らは裏方のようなものだ。
掃除やえさの準備はもちろんだけど、
健康管理にも気を配るし、
ショーやイベントの準備もやるんだよ」
Jはあとで感想が書けるよう、メモをしました。
Aもまた質問しました。
「この仕事のやりがいって、なんですか?」
「スタッフによって違うと思うけど、自分は
動物の魅力を伝えて、
お客さんに笑顔になってもらうことが
喜びの一つかな」
Aはなるほど、と頷き、
他にも思いつくまま、質問しました。
あとになって、JとAが二人きりになった時に、
A「あんた、ちゃんとメモして偉いわね」
J「いや、Aこそ、あんなにたくさんよく質問が浮かぶね」
と、褒め合いました。
休憩が終わって、また別の場所を掃除しているときに、
Jがデッキブラシを動かしながら、
独り言のように言いました。
J「なんかさあ・・・」
A「なによ」
J「学校じゃ教わらないこと、いっぱいあるよね」
A「・・・当たり前でしょ、そんなの」
J「私、学校の勉強って嫌いでさ。
ずっと座ってて眠くてさ。
でも、こうやって体を動かしてるの、
最高に気持ちいい」
A「あんた、服にフンがついちゃってるわよ。
それでも?」
J「テストで零点がつくより、よっぽど良いよ」
Aはふっと小さく笑いました。
A「あんたは、体を動かす仕事が向いてるってわけね」
J「そうかも~。Aは?」
A「仕事そのものは何でもいいのかもしれない。
けど、やりがいは欲しい。
あと、今あんたがいてくれて、
結構ありがたいっていうか。
ひとりでやるより、誰かがいるとやる気出る」
J「へー。だから、ボスやってたの?」
A「確かに。一匹狼じゃ、つまらないな」
その後、二人は話をやめ、黙々と作業を続けました。
3
JとAによる職業体験の感想文は、
どんどんたまっていきました。
進路指導の先生が、
これまでのファイルを二人の前に置き、
「ずいぶんと体験してきましたが、その後どうですか?」
と尋ねます。
Jは顔を上げて、
「どれも面白くて、決められないです」と
正直な感想を述べました。
Aは神妙な顔で、
「やりがいって、どこにあるんですかね?」
と先生に逆に質問で返しました。
先生は腕を組んで「うーん」と悩みました。
まだ結論が出ないまま、Jは生徒会室に行きました。
久しぶりに会う書記のEと副会長のCの顔。
J「ただいま~」
C「会長、お元気そうですね」
E「今、お茶を淹れますね。ポテチ、ありますよ」
J「わーい、ありがとう」
Jはさっそく自分の定位置に座ると、
バリっと袋を開けました。
C「その後、どうですか?見学ツアー」
J「うん。面白いよ。Aといろんな体験してるよ。
この間は、発掘手伝ったら、
地層からアンモナイトを見つけたんだ」
E「それは興奮しますね」
J「でもさあ、これって、
最初だから面白いだけなのかなあ。
毎日やってたら、飽きちゃわないかなあ」
C「どうかしら。
でも、何度やっても飽きないものが一番なのでは?」
J「それはそう」
E「ずっとやっていたいもの、ありました?」
J「うーん。・・・ひとつに決められないっていうのは、
逆に、これぞ、がない気もするしなあ」
EはJにお茶の入った紙コップを置きました。
E「ひとつに決めなくてもいいんじゃないですか?」
J「え?」
E「飽きたら転職するという選択肢もありますよ」
J「あー、そっかー。
なんか、思ったんだけど、
例えば『看護師を目指す』っていう
職業の探し方もいいかもしれないけど、
そのとき、自分が面白いって思ったものに
飛び込むのもありかもね」
C「仕事にも旬があるってことでしょうか」
J「うん。
今一番ひかれる奴を選んで、
転々とするのも、いいかもな~」
E「Aさんは、どんな様子ですか?」
J「やりがいが欲しいって言ってたよ。
面白いとは別かな」
E「仕事に意味を見いだしたいんでしょうか」
J「そこはわかんないな。Aに聞いて」
この後もJとAは次々と職場見学に行っては、
感想文を書きました。
先生は、それらを、
「職業体験レポート」と背表紙に書かれた
分厚いファイルに、丁寧にまとめていきました。
――こうして、
百輪女子高の進路指導室の資料は充実し、
Jたちが卒業したあともそのレポートは活用されて、
進路で悩んだ後輩たちの可能性が大きく広がるのでした。
けれど、それはずっと後のお話です。
(「見えない開拓」終)