小説を連載しています。

「百輪女子高DAYS(デイズ)」シリーズです。

 

 

(前作「百輪村物語」のパラレルワールドです。

 登場人物の性別が逆転し、年齢も若くなっています。

 前作を読まなくても大丈夫です。)

 

なんのこっちゃ?の方はこちらから→ 告知

             

「女子高」のまとめはこちら → 百輪女子高DAYS 目次 

「村」のまとめはこちら   → 百輪村物語 目次

 

 

 

登場人物名は、アルファベット表記です。

☆主人公は、いちおうEですが、群像劇です。
(性別が変わったので、新たに名前をふりました)
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
(生徒は下の名前、教師は苗字。男は黄色)
A(3-5 スケバンのボス)  悪久亜  アクア
B(2-3担任・家庭科担当)  芭蕉先生 バブル  
C(2-3 生徒会副会長)  千枝  クララ
D(2-3 転校生)     大奈  ディアナ
E(2-3クラス委員・生徒会書記)栄子 エーデル
F(1-1 DIY部・部長)   文子 フェリス
G(1-4 DIY部・副部長)  月夏  ゲイナ
H(百輪女子高の教頭)  広瀬先生 ヒラリー
J(3-4 生徒会会長)   純子  ジャニス
K(草切男子校2年)     加流  カール
L(百輪女子高の校長)  蘭堂先生 リンドン
M(1-2 ダズンのヘッド) 正美  マーシア
  ダズン=1年の不良グループ名
O(草切男子校3年)    織音  オリオン
P(2-3)         風由子 プリシア
 
ρ(Kの母親 美容師)   六花  ローズ

 

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない分担

 

 

 

  1

 

百輪女子高の2年生には、

宿泊研修のイベントがあります。

 

担任から事前準備のプリントが回ってきたとき、

クラス委員のEは、紙を持つ指に力が入りました。

 

宿泊研修は10月の予定だったので、

Eは夏休みのバイトで費用をまかなうつもりでした。

 

(まさか、1学期のうちに前納だなんて。うかつだった。)

Eは唇を引き締めます。

 

その行事の費用としてのお金をどう工面するか。

交通費と、準備するためのこまごまとした購入品。

 

生活費と授業料のために

すでにバイトを複数掛け持ちしているEにとって、

突発的なまとまった金額は手痛い出費でした。

 

(いっそ、研修は参加せずに欠席で済ます?

 

いや。

 

自分はクラス委員として、まとめる役目がある。

長が抜けては、クラスも困るだろう。

 

・・・誰かに任せる?

 

だめだわ。

細かい段取りまで把握しているのは自分だけだし、

今さら引き継いでも、かえって混乱する。

 

だったら、スキマバイトを増やせばいい。

 

生徒会の仕事を少し減らせば、

時間は捻り出せるはず。)

 

生徒会の書記でもあるEの頭は、

めまぐるしく駆け巡りました。

 

 

放課後、生徒会室に入ったEは、

ポテチを食べている生徒会長のJと、

林檎の皮をむいている副会長のCに言いました。

 

E「会長、すみませんが、

 生徒会の特別清掃を少し休ませてください。

 最近は、治安も良くなっていますし、

 パトロールを減らしても大丈夫だと思いますので」

 

J「だよねー。最近、超絶ヒマなんだよねー。

 不良のふの字を探すのも大変になってきたし。

 なんか、うちらの散歩時間になっちゃってるよね」

 

C「じゃあ、頻度を減らします?

 パトロールは、週3を週1くらいにするとか」

 

E「それだと、とても助かるわ」

 

C「E、何か予定があるの?」

 

E「ええ。もう一つ、バイトを増やそうと思っているの」

 

J「なぬう?ばかなの?暇なら遊びなさいよ」

 

E「色々と、事情がありまして」

 

C「あ、ひょっとして・・・研修の?」

 

E「実はそうなの。ちょっと、また貯めないと」

 

C「出世払いってことで、私が一時、立て替えましょうか?

 まあ、私のお金じゃなくて、親のだけど」

 

金持ちのCはさらっと提案してきます。

けれどもEは、首を横に振ります。

 

E「・・・他人様を巻き込みたくないの。

 自分の都合で出た穴は、自分で埋めるべきだと思ってる。

 短期のバイトで済む話だし」

 

C「”済む話”ってーー」

 

E「大丈夫よ。慣れてるから」

 

J「じゃあさ、別居中のお父さんに言うとかは?

 それくらい出してもらったらいいんじゃない?」

 

E「父は父で、色々とあるから。

 生徒会は、月曜だけ顔を出しますね。では」

 

C「ね、待って。せめて、林檎だけでも食べてかない?」

 

Cの言葉が耳に入らないかのように、Eは踵を返し、

さっさと生徒会室を出て行ってしまいました。

 

J「何あれ。ウルトラマンよりもケツカッチンじゃん?」

 

C「胸のタイマー、鳴りっぱなしなのね」

 

 

 

 

  2

 

その翌日から、

Eの行動はスピードアップしていきました。

 

Eには、クラスのみんなが教室を出た後、

教室を施錠する仕事がありました。

 

なので、少しでも居残っている人がいると、

「ごめんなさい。施錠したいから、出てもらえる?」

と頼み、クラスの皆も慌てるようになりました。

 

一度カギをかけた後に、一人に

「あ、ごめん、忘れ物した。E、もう一度開けて」

と頼まることもあり、

眉間にしわを寄せたEは再び開錠します。

 

施錠が終わるとダッシュで職員室に走り、

カギを壁にかけて下校し、バイト先に向かいました。

 

 

別の日には、現在の担任のHが

「Eさん、クラス席の表なんだけど・・・」と

全部言い終わらないうちに、

「あ、はい。私が作成しておきますから」とEは言って、

鉛筆書きの用紙をさっと先生から受け取り、

教室に戻るときれいに清書してまた先生に渡すのでした。

 

避難訓練で廊下に並ぶときもEがさっと列の横を走り、

ゆるゆると並んでいるクラスメイトたちを整列させると、

きびきびと移動させます。

 

DもCも、なんとなくEに

余裕がなくなっているような気がして、

「大丈夫?そこまでしなくてもいいんじゃない?」

と、おそるおそる告げてはみるものの、

E本人は「そう?いつも通りだけど?」と言うのでした。

 

 

ある日、Eは理科担当の先生に叱責されました。

全員のノートを集めて欲しいと言われていたことを

失念していたからです。

 

Eは「申し訳ありません。すぐやります」と

頭を下げながらも、自分に疑問を持ちました。

 

(いつもなら忘れるはずがないのに。

 自分らしくないわ。もっと、しっかりしないと)

 

その日の昼休み、Eは弁当箱の蓋を持ち上げ、

ほとんど手を付けずにまた蓋を閉め、立ち上がります。

 

D「E、どうしたの?」

E「何か、やり残しているような気がして・・・」

C「食べることを忘れてるわよ」

E「え?・・・あ・・・そうか」

 

Eはもう一度座って蓋を開け、箸を動かして

ご飯を口に運びますが、味がしませんでした。

 

また、バイト先でも小さなミスを連発しはじめたので、

Eはそのたびに、

(今後は、小さな案件もメモだわ)と

”メモを取る”というタスクを増やしました。

 

メモ帳のページは、あっという間に埋まっていきました。

けれど、そのメモを見返す時間はありませんでした。

 

 

別の日、すぐに下校しようとしたとき。

 

C「どこへ行くの?今日は生徒会でしょ?」

E「あ・・・今日、月曜だった・・・?」

 

Eは一瞬だけ立ち止まり、

すぐに視線を落としました。

 

「ごめんなさい。すぐ行くわ」

 

その声は、いつもよりわずかにかすれていました。

 

 

 

そして、その日は突然やってきました。

 

放課後。

いつものように、Eは教室の施錠を終え、

職員室へ向かおうとしました。

 

廊下を一歩踏み出した瞬間、

 

ーーあれ。

 

何をしようとしていたのか、

わからなくなりました。

 

カギを持ったまま、Eはその場に立ち尽くします。

 

(カギ・・・。

 それから・・・バイト・・・走って・・・)

 

頭ではわかっているのに、体が動きません。

 

(今日は・・・どこ・・・)

 

視界の端が、じわりと暗くなりました。

 

そのとき。

 

「E!」

 

駆け寄ってきたのは、Dでした。

 

「E!しっかりして。E!」

 

Eはなんとなく、

誰かに抱きかかえられている感じがしました。

 

(大丈夫よ、D・・・今、起きるから)

 

何かを言おうと口を開くものの、

言葉になりません。

 

代わりに、かすれた息だけがもれました。

 

カギが、手から落ちて、

床に小さな音を立てました。

 

 

 

 

  3

 

Eは過労のために数日間、学校を休みました。

 

その間に、小さな動きが起こりました。

 

百輪女子高生の日直の当番たちや職員たちが、

クラス委員に頼んでいた雑務を、

それぞれが手元に引き戻すようになりました。

 

2年3組では、Pが前に出ました。

 

「仕方ないわね。

 Eがいない間だけ私がクラス委員の仕事をするわ」

 

軽く言いながらも、Pは意外なほど手馴れていて、

クラスの混乱も徐々に落ち着きました。

 

 

後日。

まだ本調子ではないものの、Eは登校しました。

 

すると、その日の放課後、校長室に呼ばれました。

 

机の前に立つEに、

校長のLは一通の封筒を差し出しました。

 

中を確認して、Eは差し出し返します。

 

E「これは・・・受け取れません」

 

Lは穏やかに言いました。

 

「以前、君が自費で用意した機材があっただろう。

 あれは学校の防犯に資するものだ。

 正式に経費として処理した。

 手続きで遅れてしまって、すまなかったね」

 

Eはしばらく黙り、やがて封筒を受け取りました。

 

E「・・・ありがとうございます」

 

「君はよくやっている」

と、Lは小さく頷いて、窓の外へ目を向けました。

 

L「だからこそ、ひとつだけ覚えておいて欲しいんだ」

 

Eは顔を上げます。

 

L「何を置いても、優先順位はまず自分だよ」

 

E「・・・頭では、わかります。でも――

 もし回らなかったら、みんなに迷惑が」

 

ガラス越しに流れる雲を見ながら、

Lは少しだけ笑いました。

 

L「芋堀りイベントでは、私はポテトを揚げたいんだ。

 そのときは、生徒会が助けてくれるだろう?」

 

E「はい。もちろんです」

 

L「なら、君も同じだ」

 

Lは振り返りました。

 

L「一人が百人分働く必要はない。

 一人は一人分の仕事をする。

 あとは自然に回り出すんだよ」

 

Eはしばらく黙ってから、少しだけ視線を落としました。

 

E「・・・はい」

 

L「それでいい」

と、Lは静かに言いました。

 

 

校長室からEが出ると、そこには、

いつもの見慣れた顔がありました。

 

D「E。もう本当に体は大丈夫なの?」

 

E「ええ。心配かけて、ごめんなさい」

 

Dのポチのような目を見ると、Eの頬も緩みます。

 

C「このおばか。ちゃんと食べてなかったでしょ」

ぱし、とCはEの腕を軽く叩きます。

 

E「いたっ」

 

J「Eさあ、研修で使うやつさ。

 バッグとかジャージとか、

 私のお古でよければ全部あるよ」

 

E「会長・・・いいんですか?」

 

J「もう持ってきてあるんだよ。サイズだけ確認して」

 

E「・・・ありがとうございます」

 

 

4人は並んで、生徒会室へ向かって歩き出しました。

 

いつもより、少しだけゆっくりと。

 

Eは一歩分だけ歩幅をゆるめ、

隣のCと、歩調を合わせました。

 

 

 

 

(「見えない分担」終)