小説を連載しています。
「百輪女子高DAYS(デイズ)」シリーズです。
(前作「百輪村物語」のパラレルワールドです。
登場人物の性別が逆転し、年齢も若くなっています。
前作を読まなくても大丈夫です。)
なんのこっちゃ?の方はこちらから→ 告知
「女子高」のまとめはこちら → 百輪女子高DAYS 目次
「村」のまとめはこちら → 百輪村物語 目次
登場人物名は、アルファベット表記です。
A(3-5 スケバンのボス) 悪久亜 アクアB(2-3担任・家庭科担当) 芭蕉先生 バブルC(2-3 生徒会副会長) 千枝 クララD(2-3 転校生) 大奈 ディアナE(2-3クラス委員・生徒会書記)栄子 エーデルF(1-1 DIY部・部長) 文子 フェリスG(1-4 DIY部・副部長) 月夏 ゲイナH(百輪女子高の教頭) 広瀬先生 ヒラリーJ(3-4 生徒会会長) 純子 ジャニスK(草切男子校2年) 加流 カールL(百輪女子高の校長) 蘭堂先生 リンドンM(1-2 ダズンのヘッド) 正美 マーシアダズン=1年の不良グループ名O(草切男子校3年) 織音 オリオンP(2-3) 風由子 プリシアρ(Kの母親 美容師) 六花 ローズ
では、どうぞ。↓
見えない一歩
1
百輪女子高の昼休み。
各クラスでお弁当を食べる生徒たちのもとへ
生徒会からの特別な放送がかかります。
月末恒例の、
生徒会長Jによる『会長・Jタイム』です。
隣の草切男子校に届きそうな音量で、
「やっほ~、元気~?生徒会長のJだよ~ん」
と学校中に響き渡ると、
百輪女子の全生徒と教職員がニコニコして
放送に耳を傾けます。
各教室から、「わー」「会長ー」「Jさーん」などと
喜びの声が上がったり、拍手が聞こえたりします。
「みんな、体に美味しいもの、いっぱい食べてるぅ?
栄養満点で、午後も乗り切ろうね。
はい、そこの人、狭い個室なんかで食べちゃだめだよ。
つらいことあったら、いつでも生徒会室においで。
それでは、『会長・Jタイム』のはじまりはじまり~。
最初の話題は、再来月の体育祭のことね。
もうちょっと、はっちゃけた自由競技が欲しいんだ。
生徒会室の要望ボックスに
ピカッとひらめいた案を書いて入れちゃって。
匿名でもオッケー。
あと、体育祭のボランティアも随時募集中だよ。
希望者は生徒会に声かけてね。待ってるよ~」
学校中が、この『会長・Jタイム』を楽しみにしています。
Jが生徒会長になってからは、
学校生活が明るくなっています。
そして最近では、この放送のラストに
もうひとつのお楽しみが出来ました。
「・・・てなわけで、お知らせはここまでね。
はい、みなさま、たいっへん、お待たせしました。
来月の、ヘアカットモデルの当選者の発表で~~す」
生徒会と美容室のKとの取り決めが出来てから、
百輪女子高では、毎月5名の希望者が
ヘアカットモデルを出来るようになりました。
希望者が多いため、生徒会は専用のボックスを設けました。
「学年・組・出席番号」を書いた紙を入れると、
Jタイムで抽選が行われ、当選者が発表されるのでした。
放送室では、ボックスを抱えたJが箱に手を突っ込み、
ガサガサと音を立てます。
「今回も、たくさんのご応募、ありがとうございます。
幸運な5人を選びますよ。
ではでは、J、いっきまーす」
Jはドラムロールを口で言いながら、1枚取り出しました。
「ドルルルルル~~~。ジャン!!
はい!お一人目!
2年4組の、27番の方~、おめでと~。
次、二枚目行きま~す。
ドルルルルル~~~」
こんな風に選び続けると、あちらこちらの教室から、
「キャー!」「わー!」「やったー!」
と歓声が上がります。
「はい!ジャジャン!
ラストは、3年5組の1番の方!おめでと~」
Jの言葉に、3年5組の空気が急激に冷えました。
しかし、放送は続きます。
「当選した番号は、廊下に貼っておきますよ。
当たった人は、Kさんの美容室にすみやかに連絡して、
来月の都合のいい日を決めてくださいね。
来月中に行かなかったら無効になるから気を付けて。
それでは次回の”会長・Jタイム”、お楽しみに。
まったね~~~ん」
放送は、昼にふさわしい軽快なBGMに切り替わりました。
一方、重苦しい空気に包まれた3年5組の教室では、
小さなひそひそ声が広がります。
その中で、体の大きな女生徒が席に座ったまま腕を組み、
「・・・何よぉ。文句あるの?」
と、ドスのきいた声で半目になり、
周囲をじろりと威圧しました。
周囲はビクッとして、慌てて弁当に視線を戻します。
最後に当たったのは、Aでした。
2
百輪女子高でスケバングループのボスであるAは、
自分の髪質に密かに悩んでいました。
天然パーマでどこまでも縦横無尽に広がる長髪、
栄養の行き届いたコシのある剛毛・・・
ほうっておくとパーティ用カツラのごとく
アフロな状態、もっとハッキリ言えば爆発頭になります。
Aは毎朝、半狂乱になりながら
力づくでヘアブラシで下方へと落ち着かせ、
無理矢理二つに結んで登校しているのです。
スケバンとはいえ、かわいくなりたいお年頃。
ドキドキしながら、勇気を出して
(一回、一回だけよ、A)と自分を鼓舞しながら、
震える手で応募箱に「3ー5ー1」の紙を入れました。
その、たった一回の勇気が、運命を変えました。
Aはカットモデルの予約日をスケバングループに告げ、
その日の集会をオフにしました。
Aは放課後、Kの美容室に肩で風を切って向かいます。
けれど、うすっぺらな学生鞄を持つ手は、
脂汗でじっとりしていました。
Aは過去の思い出がよみがえります。
「やーい、爆発頭」「鳥の巣~」と
同級生の小学生男子にからかわれたあの日を。
(カットの人は草切男子校の生徒らしいし・・・。
同年齢の男子って、デリカシーないからヤダわ。
指を差されて笑われたら、末代までの恥。
なんで応募しちゃったんだろう、ワタシ。
どうしよう、やっぱり、やめようか・・・)
美容室の前でなかなか入れず、ウロウロしていると、
ドアの中から爽やかな笑顔の青年が出てきました。
K「ご予約のAさんですか?
どうぞ。お入りください」
A「・・・」
Aは無言で頷くと、ボスらしく胸を張って中に入りました。
KはAの鞄を受け取ると、洗髪の席に促します。
K「本日は、ヘアカットモデルになっていただき、
ありがとうございます。
道、わかりました?
ちょっと住宅街で分かりづらい場所だから」
A「すぐわかりました」
(縄張りはぜんぶわかってるわよ)
と心でツッコみます。
K「良かった。では、御髪を濡らしますね」
Aの心は、少し落ち着きをとり戻しました。
(なーんだ、ふつうの美容院じゃない)
次は、カットの席に移動します。
K「とても豊かな髪ですね。
・・・うーん。若干ボリュームを落としてみます?
それとも、このボリュームを活かしましょうか」
A「活かす?そんなことが出来るの?
こんなに広がって、どうしようもないのに」
K「広がりの欲しい方には
パーマをかけるんですけど、
あなたにはそれが必要ないでしょう?」
A「・・・毎朝、この髪と格闘しては絶望してるの。
なんとかなるといいけど」
K「そうでしたか。毎朝となると大変でしょうね。
では、ボリュームを落とす方向で。
痛みもあるので美容液を使わせてもらいます。
あとは、5センチほど切らせてください。
先にちょっとだけ、頭皮マッサージしていいですか?
血行を良くすると、うねりがおさまることもあるので」
A「・・・おまかせするわ」
K「やり方をお教えしながらやりますね。
爪を立てずに、指の腹で行ってください。
パーツとしては、前側、側頭部、後ろ側でやります。
まず、前側いきます。
・・・いた気持ち良い強さで、こうして・・・」
KのマッサージでAの緊張は完全にほぐれ、
(あ、なんだか・・・眠気が・・・)
と、Aはついウトウトしてしまいました。
3
K「・・・Aさん、終わりましたよ」
AはKの言葉にハッとして、目を覚ましました。
鏡の前には、アメコミのスーパーウーマンのような、
超ワイルドでセクシーな女性が映っています。
A「こっ・・・これが・・・ワタシ?
ど、どうやって・・・」
思わずAは、椅子から身を乗り出し、
大きく目を見開いて鏡に顔を寄せました。
K「お気に召しましたか?」
A「あ・・・あなた、魔法使い?」
Aは鏡から振り向いて、Kの方に顔を向けました。
K「いえ、ただの美容師の卵ですよ」
KはAに今後のヘアケアを説明しました。
日々のブラッシングは毛先から行うこと、
洗髪の後、抑えるように水分をタオルに移すこと、
頭皮マッサージをこまめにやること、
なるべく夜はちゃんと寝ること、
水分を多めに摂ること、・・・などを。
「わ、わかったわ。ありがとうございます」
AはKにお礼を言って、店を出ました。
翌日の3年5組では、感嘆の声があがります。
「え、Aさん、きれい」
「すご」
「女優さんみたい」
Aは余裕の笑みを浮かべ、
「ふん、元がいいからね」と
年下のクラスメイトたちに言いました。
まるで当然のように振る舞っていましたが、
幼少期から容姿を褒められたことのなかったAには、
どこかくすぐったくて ――
時折、自分の髪をなでたり、
洗面台で鏡を見るたびに、ほほを染めるのでした。
スケバングループの中でも、
ボスAの変わりように
手下たちがほれぼれし、感涙しました。
「バカねえ。大袈裟じゃないの」
と片手を振りながらも、
内心では、にやけるのをこらえるのに必死でした。
Aは、ただ暴れまわるのがなんだか恥ずかしくなってきて、
自分からけしかけるケンカの回数が減り始めました。
近所でのAの評判は、怖いだけの暴走女から、
落ち着きのある女傑イメージへと変貌しました。
他校のスケバンたちは、
百輪女子高のAの美とカリスマ性があがったのを見て、
自分たちもなにやらケンカをするのを控えだし、
街中の雰囲気も、穏やかになってきました。
そして、Aのビフォーアフターにより、
K美容室のヘアカットモデルの応募者数は
うなぎ上りになり、
生徒会室前の応募箱を大きくしないと
応募用紙が入らないほどになりました。
生徒会室では、Jがつまらない顔です。
「最近、特別清掃の機会がないんだけどさ~」と。
副会長のCと書記のEは
「まあまあ」
「平和が一番ですよ」
となだめながら、
お茶と季節限定のポテチをJに差し出しました。
(「見えない一歩」終)