登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
E(村長&小学校教諭) 栄一 エデンK(理容師・Eの妻) 加恵 カーラR(EとKの息子) 陸 ライアン(ジュニア)D(大工→建築士) 大吾 デイビッドJ(キックボクサー→インストラクター) 純 ジャックπ(村民・自称UFO研究家) 波印 パイン
では、どうぞ。↓
見えない趣味
1
ある日、百輪村のDと草切村のJは、
マブダチで百輪村の村長Eの自宅に招かれました。
E「良かったら、『人生ゲーム』をしないか?」
Eは平たい箱をDとJの前に出します。
J「いいよー、やろーやろー!」
D「え?オレたち3人で?」
E「・・D、このゲーム、嫌いかい?」
D「嫌いじゃないが、大人になってやるとは思わなかった。
ボードゲームは、小学校以来だ」
E「これ、Rに借りたんだよ」
J「じゃあさ、ジュニアも呼ぼうよ。4人でやろうよ」
Eは自室にいた息子のRを呼んできました。
E「R、大人と一緒にゲームするか?」
R「わあ、やる~」
笑顔のRはDとJの横にちょこんと座りました。
Eは4人分の飲み物を持ってきて、配ります。
全員でスタートにコマを置き、
じゃんけんして順番を決めます。
R「じゃあ、僕からね」
1番めになったRが早速、ルーレットを回します。
J「ちょっとー、お金の計算、面倒くさーい」
E「わかった。オレが全員の分、やってあげるよ」
D「E・・・。就職前から、すでに銀行員だな」
全員がゴールし終わった時、
1位がE、2位がD、3位がR、4位がJでした。
Jは一番最初にゴール出来そうだったのに、
ラストの大博打で全財産を失ったのでした。
R「ああ、面白かった~。Jさん、無一文なんだもん」
J「なあなあ、もう一回やろ。リベンジしたい!」
1位になったEは、少ししょんぼりしています。
E「・・・D、すまなかった。オレが1位で」
D「え?なんで謝るんだ?」
E「これは、君へのサービスとしての遊びだから」
D「へ?オレに?どういうことだ?」
Eは説明を始めました。
先日、JとEが長時間のテニス対決をしている間、
審判のDを退屈させてしまったため、
3人で出来る遊びは何かを考えて、
『人生ゲーム』をチョイスしたのだ、と。
D「サービスって・・・そんなに気を使うなよ」
E「もっと他にも全員で出来ることがあればいいんだが。
ハンデがないやつで。ババ抜きはどうだろうか」
R「トランプ持ってこようか?」
J「Eってさ、真面目すぎ。・・・まさか、テニスも?」
E「もちろん、君へのサービスだよ、J」
Jは後ろへひっくり返りました。
J「ふざけんな。オレは遊びでテニスに誘ったの!」
E「何を怒ってるんだ?」
J「D。こいつ、マジ?」
D「残念ながら、Eは本気で言ってるぞ」
J「そんな接待、いらないってば~。
Eの好きなことで遊ぼうよ。趣味、何?」
E「趣味は特にないな」
D「映画鑑賞もしたことないって言ってたしなあ。
ジュニア、Eって暇なとき何してるんだ?」
R「父さんは散歩するけど、
あれは村のパトロールだよね?
読書も、たいてい学校の授業用の資料だし。
農作業と筋トレもするけど、あれも村のためだよね?」
J「E、それ、変。他人に奉仕しすぎ!!
よおし、今から、Eの趣味を一緒に決めようよ!」
E「そんなこと、してくれなくていい。やめてくれ」
2
趣味を持つことに消極的なE。
マブダチのDもJも、息子のRも、
何か手伝いたい気持ちが湧きました。
D「いや、ここはひとつ、何か人生に加えたほうがいいぞ。
彩りは大事だからな」
E「彩り?ちなみに、”趣味”の定義を教えてくれないか?」
J「趣味ってさ、仕事じゃないやつ。オフにやること」
D「意味のないこと、じゃねえ?」
E「仕事でもなく、無意味なもの?
なるほど。それは確かに持ってないな。
しかし、・・・無意味なことをなぜやるんだ?」
R「僕、時々、マンガ読んだりするけど、
それって父さんから見たら無意味だよね、きっと」
E「いや。Rは好きなことをしていいんだ。
ただ、オレにとってはマンガはちょっとな」
D「R、1冊持ってきてやれよ。Eに読ませよう」
R「じゃあ僕の好きなの、持ってくる」
Rは自室から推理系のマンガを持ってきました。
衆人環視の中、Eは読みづらそうにページをめくります。
R「どう?」
E「うん。絵が上手だね」
J「ストーリーはどうなのよ」
E「うーん。たぶん、こいつが犯人だと思う」
R「すごい!まだ冒頭なのに、合ってる。ねえ、面白い?」
E「うーん・・・」
Eの反応が薄いので、Dは自宅にすっ飛んでいき、
映画のDVD数枚とギターを持って戻ってきました。
D「E、ギターはどうだ?教えてやるよ。
こうやって構えて・・・左手で弦をおさえて・・・」
E「ふむ。こうか?」
D「そう。ちょっとピックで弾いてみなよ」
Eはポロンと音を立てました。
E「音は出たが、これは・・・ド?」
D「いや、今のは、ソ」
E「・・・ドとソ、どう違うんだ?」
D「・・・あ、うん。ギターは止めて、映画見るか」
DはDVDのケースをテーブルに並べて、
「どれが見たい?」と尋ねます。
Eはものすごく悩んで1枚指さしたものの、
「中身がぜんぜん想像がつかない・・・」
とつぶやきました。
D「そりゃあそうだよ。
でも見たら、面白いのがわかるって」
Dはケースから円盤を出して、プレーヤーに入れました。
4人で1本映画を見た後、Dが尋ねます。
D「どうだった?」
E「あの中盤のアクションはイマイチだったな。
オレだったら、まず相手の右脚を狙って・・・」
J「なんで俳優の演技指導を始めるのさ」
E「いや、合理的に考えると――」
D「はいはい、もういい。
Eなりに”楽しんだ”ってことで」
E「オレなりに?」
R「父さん、今の映画、楽しくなかったの?」
E「勉強にはなった」
J「それだよそれ!すぐ“役に立つか”で考える!」
D「じゃあさ、何もせずにちょっと休憩しようぜ」
Eはため息をついてキッチンへ行き、
再び全員に飲み物を作りました。
(趣味とは、役に立ってはいけないもの、なのか・・・?)
と考えてから、急にハッとして、電話をかけました。
3
しばらくしてから戻ってきたE。
D「E、どこへ電話?」
E「ああ。 π(パイ) のところだよ」
πとは、百輪村の自称UFO研究家です。
E「以前、πと話をしたときに、
余計な口出しをしてしまってね。
それを謝ったんだ」
J「わざわざ?気にし過ぎじゃない?」
E「いや、しかし・・・」
D「・・・E。
この村には、π以外にも趣味人が多いから、
片っ端からレクチャー受けたらどうだ?
ひとつくらい、心に引っかかる奴、あるかもしれん」
E「なるほど。じゃあ、そうするよ」
その後、村長のEは、村の家々を訪問しては、
趣味の話を聞いたり、試しにやらせてもらったりしました。
そば打ちや、ゲートボール、刺繍、俳句、スケッチ、
ペットの飼育方法、ヨガ、ビーズアクセサリー、けん玉、
書道、英会話、手品、古地図での探索、絵手紙など・・・。
次の全村民会議の時に、村人たちから
「村長、なにかいい趣味、見つかった?」
と尋ねられると、Eは苦笑いをしました。
そして、
E「皆さんの趣味は、とても興味深かったです。
これを村の特色として、
カルチャースクールにしませんか?」
と、また村の発展を提案するEでした。
Dや村の皆は、やれやれと肩を落とし、
もうEに趣味をオススメするのはあきらめました。
会議からの帰宅後、書類を片付けたEは妻のKに、
「自分にはぴったりの趣味がないんだ」と愚痴ると、
Kは微笑みました。
K「趣味がないと、つらい?」
E「趣味がないことがつらいんじゃなくて、
『趣味がないね』って言われることがしんどいかな」
K「そうなのね。でも、趣味って、
無理に探さなくてもいいんじゃない?」
E「そうなのか?」
K「うん。むしろみんなに『やるな』って言われても、
ついやっちゃうのが趣味なのかもね」
E「・・・。思いつかないな」
K「まあまあ。そのうちに、見つかるわよ」
肩をすくめたEは、再び靴を履くと、
いつものように村のパトロールに出かけました。
その足取りは、どこか軽くなっていました。
(「見えない趣味」終)