登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
π(村民・自称UFO研究家)波印 パインE(村長&小学校教諭) 栄一 エデンK(理容師・Eの妻) 加恵 カーラ
では、どうぞ。↓
見えない用意
1
百輪村には、20代の、自称UFO研究家がいます。
彼の名は、π(パイ)。
よく空を眺めては、UFOを探しています。
E「おはよう、π。いい天気だね」
通りかかった村長Eが、声を掛けました。
π「おはようございます、村長。
さっき、ちらっと光る物体を見かけたんですよ。
村長にも見せたかったなあ」
E「ふうん、そうか。今はもういないのかい?」
π「さっきは見えたんですけど。あっちの方です」
Eはπの横に立って、
同じようにしばらく空を見上げましたが、
Eには何も見えませんでした。
E「じゃあ見えたら、また教えて」
π「はい!」
πの肩を軽く叩き、Eはその場を離れました。
昔のEは現実主義者だったのですが、
年を取るにつれ、柔軟な考え方に変化していました。
自分が見ていないからといって、
絶対にないとは言い切れない。
あいまいな地点に立ち、見聞を広めよう、
と、思うEでした。
数日後、Eが寝室で寝ているときに、
強い光がカーテンの隙間から差している気配がして、
目を覚ましました。
横に寝ている妻のKを起こさないようそっと起き、
カーテンの影から、ちらっと外を見てみました。
するとπが、大きな電光の機械を外に設置して、
上空にライトを向けているのが見えたので、
Eは上着を羽織り、外に出て、πに話しかけました。
E「こんな夜遅くに、何をしているんだい?」
π「あ、村長。今、UFOと交信してるんです」
E「・・・なるほど」
Eが空を見上げると、πの照らしたライトが、
深夜の雲に当たり、ぼんやりと丸く照らします。
E「π、交信するのは構わないが、
ちょっと光が明るすぎて、眠れないんだ。
光の幅を狭くしてもらえるかな?」
π「え?どうやって?」
E「例えば、このライトの周りに
段ボールや布などで羽を作ったり衝立を置いて、
照らすのは、上の方だけにして欲しいんだ。
こんなにまぶしいと、村の皆の睡眠の妨げになるよ」
π「あ、はい。わかりました。
・・・じゃあ、今日は、やめます」
πはスイッチを切りました。
村は突然真っ暗になります。
Eは周囲の暗さに目が慣れてから、πに言いました。
E「UFOが来て宇宙人が現れたら、どうするんだい?」
π「どうって。もし来たら、ロマンですよ」
E「うん。そうだね。ロマンだね。
でも来たら、現実になるよね。
その現実の中で、新しい生命体と
ちゃんと仲良くやっていける自信はある?」
π「・・・自信?」
E「明るく照らして呼びつけておいて、
もし変な顔だったら帰れ、って言うとしたら、
相手にちょっと失礼だろうな、と思ってさ」
π「そんなことは言わないつもりですよ!
どんな姿だって、ウエルカムです」
πはムッとしました。
2
怒り出したπに対し、村長Eは謝りました。
E「ごめん、ごめん。そうだよね。
πは、地球人代表として、礼を尽くしたいよね」
π「・・・いや、地球人代表ってほどでは・・・。
でも、新しい出会いは、ワクワクしません?」
E「それは確かにそうだろうな。けれど、
やみくもに森をつついたときに、
小動物だけじゃなく大型動物も出てくるように、
ほんとになにが出てくるかわからないんだよね」
π「村長、何が言いたいんですか」
E「勇敢と無謀は違うってことだよ」
π「僕が無謀だって言いたいんですか?!」
E「未知のジャングルに入る時に、
あらゆる想定をしてリュックを用意するのが勇敢、
夜は冷えるってわからないまま飛び込むのが無謀。
違いが判る?」
π「へっ・・・へえ・・・っくしょん!!」
ちょうどπがくしゃみをしました。
深夜なので、かなり外は寒くなっています。
それなのに、πはかなりの薄着でした。
E「いいかい?UFOに乗って来るということは、
そうとう相手は知性が高いんだ。
そこはわかる?」
π「あ、はい」πは鼻をすすります。
E「だったら、こっちもそれなりに準備が必要だ」
π「はっ!武器を用意しろと?」
E「違う違う。そんなのを用意したって、
きっと向こうの科学力には勝てないよ」
π「じゃあ、いったいどうしたら」
E「そうだな・・・。まずは、挨拶から。これは基本」
π「え?挨拶・・・ですか?」
E「うん。敵意がないことを示さないとね。
気持ちの良い『こんにちは』が出来るといいよね。
それから、もう一つ、
こちらが差し出せるものを用意しておくこと。
彼らに『地球はとってもいいところですよ』って、
ツアーが出来るように、地球の観光地を
あらかじめ頭に叩き込んでおくとかね」
π「ツアー?ツアコンになれってことですか?」
E「そうそう。そうしたら、
『地球のことを教えてくれてありがたい』って
君のことを重宝してくれるかもしれないだろ?」
π「あー」
πは何度も深く頷きました。
E「UFOは上空からは色々見えるだろうけど、
観光地の歴史とか見どころとかは知らないはずだ。
君だけの豆知識なんかを披露してあげたらどうだろう」
π「いいですね」
E「そうしたら、お互いに楽しいだろうし、
むこうもあっちの観光地を見せてくれるかもね。
それって、ワクワクしないかい?」
π「します!」
E「じゃあ、明日から準備しないとね。
今日はもう帰って休んでください」
π「わかりました。村長、おやすみなさい」
E「おやすみ。風邪ひくなよ」
Eは手を振ってπと別れ、
そっとあくびをしながら家に入りました。
πは道具を片付けながら、
(明日、世界地図と世界遺産の本を買いに行こう)
と心を躍らせました。
そんな二人の頭上に、三点の光体が
素早く動き回っていましたが、
彼らはそれには気づきませんでした。
こうして百輪村の静かな夜は更けていきました。
(「見えない用意」終)