登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
D(大工→建築士) 大吾 デイビッドE(村長&小学校教諭) 栄一 エデンU(バーテンダー見習い) 梅吉 ウニー
今回のお話は、本編でEが入院した時の
裏エピソードです。
Eが入院した話はこちら
(が、読まなくても話は通じます)
↓
では、どうぞ。↓
見えない村長
1
これは、百輪村の村長Eが過労で
1週間入院した時のお話です。
公民館に集まった全村民会議で、
Eが不在の間、どうするかを話し合いました。
Eは村長ですが、
百輪小学校の唯一の先生でもあります。
学校をどうするかが、まず議題に上がりました。
すると会議に参加している子どもたちが手を挙げ、
「僕たち、E先生から自習の仕方を教わってるので、
大丈夫です」と胸を張りました。
「え、そうなの?どうやって自習するの?」
大人たちは目を丸くしました。
子どもたちは、口々に言います。
「自分の好きな勉強をやっていいんです」
「趣味に関することでもいいんです」
「毎日、ノート見開き2ページに、
前日の振り返りと今日新しく覚えたことと
明日調べたいことを書くんです」
「どうしてもわからないことは、
上級生や詳しい子に教わったり、
あとでE先生に質問したりしてます」
「ほえー」
村人たちは、Eのやりかたに
感心するほかありませんでした。
「・・・じゃあ、学校の方はいいかな?」
「うん、まあ、そうだな」
「退院したら、Eが面倒見るよな」
次の議題に入りました。
村長の仕事を誰がするか、ということです。
「ここはひとつ、Dが代理でやったほうがいいと思う」
と村人の一人が言うと、皆が大賛成しました。
D「え?オレ?何もできないぞ?」
「大丈夫。そのままでいいから」
D「そのままって、なんだよ」
「村長という肩書きだけ背負ってくれてたら、十分だよ」
D「・・・でもさ、Eって、村をパトロールしたり、
こまごましたまとめをしたり、
全村民会議を仕切ったりしてるんだろ?
最近、村の中で、意見がふたつに別れちゃって、
その調整で、Eが熱を出したんじゃないか」
「それは、俺たちも悪いかもだけど・・・」
「複雑な話だってわかってるし」
「でもな、意見を曲げる気はないぞ!」
「何を~?!そっちの方が悪いんだからな!」
「なんでだよ。お前らだって変だろうが!」
「いーや、こっちのやり方が正しい!」
「待てよ、ここでケンカしても始まらないぞ!!」
「わかってるけどさー!」
だんだんとみんなの声が荒ぶってきました。
D「えー?ちょ、オレに振るなよ、そんな重い話。
それに、結論が出ないままだったら、
またEが病院に逆戻りじゃねえかよ」
Dが両手で押しとどめながらも少しずつ後ずさりすると、
村人たちは全員、Dの顔に注目しました。
「どっちの意見にも耳を傾ける役がいるんだよ!」
「ただ聞いてくれるだけでいいから!」
D「・・・聞くだけ?」
「あとの仕事は、村の皆で分担するからさ」
「頼むよ、D」
D「・・・うーん。
・・・じゃあ、まあ、わかった」
Dは頭をポリポリかきながら、承諾しました。
2
それからは、Dが、臨時の村長になりました。
大工の仕事が終わって、
百輪村のバーにDが飲みに行くと、
毎晩、村の誰かがやってきて、
Dに愚痴を言い始めました。
1「・・・ていうわけでさ、あいつらのやり方がさー」
D「あー、うんうん」
2「絶対に私たちの方が合ってるのよ。効率を考えたらね」
D「はー、なるほどなー」
3「むこうのやり方、ちょっと変だと思わないか?
だってさ、あれがこうで、これがこうで~!!」
D「あー、そうかー。わかるわかる」
4「は~、すっきりした~。話聞いてくれてありがとね」
D「おう、じゃあな」
このような感じで、
村の人たちは、Dに話を聞いてもらうと、
ケロッとした顔で帰っていきました。
一方、店内にDとバーテンダーのUだけになると、
Dはカウンターに突っ伏しました。
D「・・・悪酔いしそう・・・」
U「大丈夫ですか?お水どうぞ」
D「Eってこんなの、毎日聞いてんのかなあ?」
U「どうでしょう。ここではなくて、
いつも立ち話で済ませてたようですし。
僕もこんなに聞いたことないです」
D「Eよぉ・・・早く帰ってきてくれ・・・。
人数が半端ねえんだよ。
ただ聞くだけでもキツイって。
どっちの言い分もわかるから、よけいにさ」
Dはカウンターに突っ伏したまま、頭を抱えました。
U「・・・Eさんって、どんな話を聞いてても、
いつも穏やかなんですよね。
イヤな顔ひとつ、したことないし・・・」
Uはグラスを磨く手を止めて、遠くを見る目をしました。
Dはのっそりと起き上がって、片手で頬杖をつきます。
D「そうだな・・・
でも、それってさ、やっぱどこかで、
かなり無理してたんじゃないかなあ。
あいつ、全部飲み込むし、簡単には反論しないし・・・
ろくに休みもしないで、
いつも脳みそがフルスロットルだからな。
そりゃあ、入院もするよ・・・ったく」
U「そうですね・・・」
D「早く帰ってきて欲しいのはやまやまだが、
Eがまた倒れやしないかと思うと複雑だよ・・・」
Dは大きくため息をついて、
もう一杯、おかわりをしました。
3
一週間後、百輪村にEが病院から戻ってきました。
E「皆さん、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
D「もう大丈夫なのか?無理すんなよ」
E「ええ、この通り」
Eはにこやかに軽くガッツポーズをしました。
村人たちも、ニコニコしてEを囲みました。
「良かったよかった」
「Eが戻ってきてくれただけで、安心だ」
子どもたちもEの前に進み出ます。
「先生、おかえりなさい」
「E先生、あとでノート見てください」
「僕たち、ちゃんと自習してたよ」
E「そうなんだね。
みんな元気で頑張ってくれてたんだね、嬉しいよ」
子どもたちは、顔をほころばせました。
E「留守中、他に変わったことはありますか?」
Eは顔を上げて、村人たちを見回しました。
「こっちはなんとかなったよ」
「それにDが村長の代理をしてくれたからな」
E「え、代理を?ありがとう、D」
D「いや、オレ、ホント、何もしてないし・・・。
この間からのもめ事も、ちっとも解決してねえんだ。
すまんな」
Dはうつむいて、首筋をこすります。
E「・・・そうでしたか。
つまり、私が入院している間、
何も変わらなかった、ということですね?」
すると、村人たちが言います。
「Dにずっと愚痴を聞いてもらってたんだけどさ」
「何回考えたって、やっぱ、意見は変わらないんだ」
「決着つけないと、村はまとまんないよ」
Eは静かに頷きました。
「はい。とてもよくわかります。
では・・・どうしたいと思います?」
その場で、沈黙が流れました。
Dもまた、腕を組んで、しばらく黙っていました。
が、ふいに何か思いついたように、つぶやきました。
D「なあ、あのさ、・・・両方ってわけには?」
「え?」村のみんなが、Dの顔を見ます。
D「これまで、ずっと話聞いてて、思ったんだけど、
どっちも正しいんだよ。うん。
だから・・・どっちかに決めようとするから、
ややこしくなるんじゃねえかなあ?」
「・・・」
「・・・両方?」
「ああ、そっかー」
「両方、試しにやってみる?」
「だったら、・・・いいかも」
「俺たちだって、別にケンカしたいわけじゃないんだし」
「じゃ、それでいいってことにするか、みんな」
「賛成~」
村人たちは、急に納得して、笑顔で解散しました。
残ったのはEとD。
D「え?え?なんだよ。これで良かったのか?」
E「良いんじゃないかな?
じゃ、D村長、あとはよろしく」
DはEの前で両手をパーにして振り、
「はあ?無理無理無理~~~!一週間が限界だって!」
と後ずさりしました。
E「ふふっ、冗談だよ。
・・・ごめん、D。留守中、大変だっただろう?」
D「まあな。・・・ずっと、聞き続けてたからさ。
いろんな考えがあるんだなって、初めてわかったよ。
聞いてみないと、わかんねえもんだな」
E「・・・」
D「全部聞いて、わかんなくなって・・・
・・・やっぱ、簡単じゃねえな・・・」
Eはわずかに口元をゆるめて、Dの手を取りました。
E「D。あの案件が、一週間、広がらなかったんだよ?
君のおかげだよ。本当にありがとう」
Dはちょっと泣きそうになりながら
「・・・今夜、飲めるか?」と尋ねると、
「もちろん」とEが頷きました。
(「見えない村長」終)
