小説です。「百輪村物語」の番外編です。

             

 

小説と漫画をまとめた目次はこちら→ 百輪村物語 目次

 

 

登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
今回のお話は、大工のDが村に来る直前のこぼれ話です。
(第2章と第52章に関連してますが、
 読まなくても話は通じると思います)
 
Dがやってくる話↓
 
 
【今回の登場人物たち(当時)
K(理容師の卵)     加恵  カーラ
ρ(Kの母)       路子  ロゼット
 
E(バーテンダー)   栄一  エデン
 
A(ボス・故人)    悪久太  アーク
C(牧場主・故人)   千太郎  クリス
D(アチダ国の大工)  大吾  デイビッド

 

では、どうぞ。↓

 

見えない訪問

 

 

ある日の夜、呼び鈴が鳴ったので、

20歳になったばかりのKは家のドアを開けました。

 

そこには、村の入り口のバーで

バーテンダーをしているEが立っていました。

 

「こんばんは。ρさんはいらっしゃいますか」

 

Eは、Kに目を向け、静かに声を掛けます。

Kは緊張した面持ちで返事をしました。

 

「母は、このところずっと病で臥せっております。

 何か御用ですか?」

 

Kは、少しドキドキしました。

なぜなら今目の前にいる若者は、

以前、この村を支配していたボスAの

右腕と呼ばれていた人だからです。

 

しかし、一年前にAは死に、

村人たちはお金を徴収されることもなくなりました。

 

けれど、なぜまたEが来たのか。

Kは不思議でなりませんでした。

 

「では、あなたに伝言をお伝えします」

Eは、一拍置いてから、話を始めました。

「二年前に死んだCを覚えていますか?」

 

「はい・・・牧場の方・・・ですよね。

 私もあのとき見てしまったから、覚えてます」

 

「実は、Cは、この村のためにと、ずっと一人で、

 ひそかにメンテナンスをしていたんです。

 つい先日、私もそれを知ったばかりなんですが」

 

「メンテナンス?」

 

Kの脳裏に、これまでの記憶がよみがえります。

「・・・そういえば・・・

 雨が降った後、水たまりの道を

 ならしてたのを見たことがあります。

 どうしてそんなことをしてたのか、ちっとも・・・」

 

「そうですね。他にも雪かきやら、草取りやらも」

 

「・・・知りませんでした」

 

Eは深く頷き、さらに言いました。

 

「実は、Cには、アチダ国に住むDという友人がいて、

 数日前にこの村に会いに来たんです。

 ですが、DがCの死を知って、この村に移り住んで

 村のメンテを引き継ぎたい、と言うんです」

 

「え」

 

「Dが1,2か月ほどしたら、

 この村にまた戻ってきます。

 そこで、お願いなんですが、

 そのDが来たときに、村の皆で

 温かく迎えてあげて欲しいんです」

 

「あ、はい。わかりました」

 

「もうひとつ、お願いがあります。

 Dには、Cがどのようにして亡くなったのか、

 黙っていてあげてください。

 たぶん、真実を知ったら、悲しむと思うので」

 

「・・・」

 

それは生前のAによって口止めされていたことでした。

Kは小さく頷きました。

 

Eは少し寂しそうな顔で微笑み、頭を下げました。

 

「では、このことをρさんにもお伝えください。

 失礼いたします」

 

Eは、手元のリストにチェックを入れると、

去って行こうとしました。

 

KはそんなEの後ろ姿に、思わず声を掛けました。

「あ、あの。待ってください」

 

Eは真顔で振り返ります。

「なんでしょう」

 

Kは言いにくそうに質問しました。

「あ、・・・あなたは、この村の人たち全員に、

 そのことを言って回っているんですか?

 

 どうして?

 だって、あなたはCさんを・・・」

 

「・・・。

 そうしないと、私の気がおさまらないからですよ。

 では」

 

Eはそう言って、もう一度頭を下げると、

次の家に向かって歩いていきました。

 

 

 

 

 

(「見えない訪問」終)