登場人物名は、アルファベット表記です。
(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)
E(村長&小学校教諭) 栄一 エデンK(美容師・Eの妻) 加恵 カーラD(大工) 大吾 デイビッドA(村のボス・故人) 悪久太 アーク
では、どうぞ。↓
見えないお休み(5)
Kはサンダルを脱いで、波打ち際に入りました。
「あ、冷たっ」
思わず声が出ましたが、だんだんと水温に慣れます。
ワンピースの裾を持ち上げ、寄せる波で足首まで浸します。
するとKの心がいくらか澄んできました。
波から少し離れたところに立っているEに、
「気持ちいい~。Eもやってみない?」と誘います。
「わかった」
Eも裸足になり、チノパンの裾を折ると、
手に自分のサンダルを持ち、Kの横に立ちました。
「どんな感触?」とKが尋ねると、 Eは答えます。
「うん、水が冷たいな。足の裏で砂を感じるよ」
「ふふっ。そうね」
ケンカしててもしかたない、とKは気持ちを切り替え、
笑顔でEと腕を組み、並んで歩き出しました。
EはKのご機嫌が直ったことに、ほっとしていました。
Kは、Eの横顔を見て、
やっぱりこの人が好きだと思いました。
周りでは水着を着た海水浴客が楽しそうにしています。
「K、私たちも泳ごうか?水着を買おうか?」
Eは楽しい提案をしたつもりでしたが、
Kの表情は途端に曇り、首を横に振ります。
「無理。やけどの跡があるから・・・人に見せたくない」
「あ、そうか。ごめんよ」
Kの背中のやけどは、幼少期の親からの虐待の痕です。
Eはしまったという思いで、目をつぶりました。
KはまたEに気を使わせたと気づき、明るい声で言いました。
「いいの。でも、あなただけ泳いでいいのよ」
「私一人でかい?ふふ。そんなの、つまらないよ」
Eの初めての感想を聞けた気がして、Kは聞き返します。
「今、つまらないって言った?」
「あ、うん」
Kがまた怒りだすんじゃないかと、Eはドキッとしました。
けれどKは、とても柔らかく質問してきました。
「じゃあ、逆に、Eの楽しいことって何?」
「え・・・。なんだろうな。
こうやってKと歩くことかな」
「E・・・」
Kにとっては、一番うれしい答えでした。
ずっと歩き続けると、
人気のない小さな入り江がありました。
E「K、誰もいないよ。
ここなら泳げるんじゃないかな?どう?」
Eは海の好きそうなKに喜んでもらいたくて、
再び提案しました。
K「いいの。もう。泳ぐことは」
Kは組んだEの腕を少し強く抱きます。
Kは、Eと並んで歩くことで十分満足していました。
「そうか」
Eはことごとく提案が没になることで、無力さを感じます。
ため息をついて、沖の方を見ました。
「K・・・つまらない男ですまない。結婚、後悔してる?」
「なんで?なんでそんなことを言うの?」
Eの意外な言葉に、Kは目を見張りました。
「私、うれしいのよ。
だって、あこがれの村長を独り占めしてるもん。
そんなこと言うなら私だって不安よ。
・・・私でいいの?E」
(K・・・。君を不安にさせたくない)
Eは、Kの不安を消したくて、
言葉よりも先に唇を近づけました。
二人のシルエットが重なります。
永遠に思えるような、長い口づけーー。
そして、顔をゆっくり離し、
静かに優しく見つめ合いました。
さざ波の音が、遠くで繰り返されていました。