小説です。「百輪村物語」の番外編です。

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番外編は(番:通し番号〇)にします。

 

 

小説と漫画をまとめた目次はこちら→ 百輪村物語 目次

 

 

登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

☆主人公は、村長のEと大工のDです。
 
【今回の登場人物たち】
E(村長&小学校教諭)  栄一  エデン
K(美容師・Eの妻)    加恵  カーラ
D(大工)        大吾  デイビッド
 
A(村のボス・故人)   悪久太  アーク

 

では、どうぞ。↓

 

見えないお休み(5)

 

 

 Kはサンダルを脱いで、波打ち際に入りました。

 

 

「あ、冷たっ」

思わず声が出ましたが、だんだんと水温に慣れます。

 

 ワンピースの裾を持ち上げ、寄せる波で足首まで浸します。

するとKの心がいくらか澄んできました。

 

 波から少し離れたところに立っているEに、

「気持ちいい~。Eもやってみない?」と誘います。 

 

「わかった」

Eも裸足になり、チノパンの裾を折ると、 

手に自分のサンダルを持ち、Kの横に立ちました。 

 

「どんな感触?」とKが尋ねると、 Eは答えます。

「うん、水が冷たいな。足の裏で砂を感じるよ」 

「ふふっ。そうね」 

 

ケンカしててもしかたない、とKは気持ちを切り替え、

笑顔でEと腕を組み、並んで歩き出しました。

 

EはKのご機嫌が直ったことに、ほっとしていました。

 

Kは、Eの横顔を見て、

やっぱりこの人が好きだと思いました。

 

 

周りでは水着を着た海水浴客が楽しそうにしています。 

 

「K、私たちも泳ごうか?水着を買おうか?」 

 

Eは楽しい提案をしたつもりでしたが、

Kの表情は途端に曇り、首を横に振ります。

「無理。やけどの跡があるから・・・人に見せたくない」 

 

「あ、そうか。ごめんよ」 

Kの背中のやけどは、幼少期の親からの虐待の痕です。

Eはしまったという思いで、目をつぶりました。

 

KはまたEに気を使わせたと気づき、明るい声で言いました。

「いいの。でも、あなただけ泳いでいいのよ」 

 

「私一人でかい?ふふ。そんなの、つまらないよ」 

 

Eの初めての感想を聞けた気がして、Kは聞き返します。

「今、つまらないって言った?」 

 

「あ、うん」 

Kがまた怒りだすんじゃないかと、Eはドキッとしました。

 

けれどKは、とても柔らかく質問してきました。

「じゃあ、逆に、Eの楽しいことって何?」 

 

「え・・・。なんだろうな。

 こうやってKと歩くことかな」

 

「E・・・」

Kにとっては、一番うれしい答えでした。

 

 

ずっと歩き続けると、 

人気のない小さな入り江がありました。

 

E「K、誰もいないよ。

 ここなら泳げるんじゃないかな?どう?」

Eは海の好きそうなKに喜んでもらいたくて、

再び提案しました。

 

K「いいの。もう。泳ぐことは」 

Kは組んだEの腕を少し強く抱きます。

Kは、Eと並んで歩くことで十分満足していました。

 

「そうか」

Eはことごとく提案が没になることで、無力さを感じます。

ため息をついて、沖の方を見ました。

「K・・・つまらない男ですまない。結婚、後悔してる?」 

 

「なんで?なんでそんなことを言うの?」

Eの意外な言葉に、Kは目を見張りました。

「私、うれしいのよ。

 だって、あこがれの村長を独り占めしてるもん。

 そんなこと言うなら私だって不安よ。

 ・・・私でいいの?E」 

 

(K・・・。君を不安にさせたくない)

Eは、Kの不安を消したくて、

言葉よりも先に唇を近づけました。

 

二人のシルエットが重なります。

永遠に思えるような、長い口づけーー。

 

そして、顔をゆっくり離し、

静かに優しく見つめ合いました。

 

さざ波の音が、遠くで繰り返されていました。

 

 

(続く)