小説です。「百輪村物語」の番外編です。

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番外編は(番:通し番号〇)にします。

 

 

小説と漫画をまとめた目次はこちら→ 百輪村物語 目次

 

 

登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
R(EとKの息子)    陸 ライアン(ジュニア)
E(村長&小学校教諭)  栄一  エデン
K(理容師・Eの妻)   加恵  カーラ
 
D(建築士・Eの友人)  大吾  デイビッド
 
◎(Rの同級生)     介人   カイト

 

では、どうぞ。↓

 

見えない比較(2)

 

 

百輪村に入ると、村民の一人がRの頬の傷に気づきました。

「おお、おかえり、ジュニア。ん?ほっぺ、赤いよ?」

「あ、ちょっと転んで」

「体大切にしろな。未来の村長さん」

 

Rの胸がぎゅっと縮みました。

「僕、村長って決まってるんですか?!」

「え?何を怒ってるんだい?」

「・・・」

Rは黙って走り出し、理容室に飛び込みました。

 

客の頭髪をカットしていた母親のKがRの顔を見て、

「おかえり。顔、どうかしたの?」と尋ねましたが、

Rは「別に」と言って、奥の部屋に入ってしまいました。

 

 

夕食の時間になりました。

父親のEも勤め先の百輪小学校から帰宅しており、

家族三人でテーブルを囲みます。

 

EはRの顔を見るなり「右フックか」とほほ笑みます。

Rはムッとしました。

「笑い事じゃないよ」

「ああ、ごめん。誰にやられたんだ」

「言えない」

「どうして」

「父さんもやられちゃうかもしれないし」

「・・・くっ、そんなに強いやつなのか?」

 

Eは笑いをこらえているため、声が震えます。

Kも味噌汁を吹き出しそうになりましたが、黙っています。

 

「強いよ。大人みたいに体が大きいんだ。

 父さんのこと、痩せてて弱そうって言ってたし」

「ほお」

「お金持ってこいって言われた。どうしたらいい?」

「Rはどうしたいんだい?」

「やだよ。でも持ってかなかったら、また叩かれるかも」

「ふうん。じゃあ、ケンカ、教えようか?」

「え?父さんが?」

 

Rは、Eの意外な提案に驚きました。

 

とうとうKが口を出しました。

「E。乱暴なこと、Rに教えないで」

「ただの護身術だよ」

EはKにウインクしました。

 

夕食後に、EとRの父子はリビングの

テーブルとソファーを移動して広くしました。

 

「今日と同じ流れで右手が飛んで来たらな」

EがRの傷口の向きを確認しつつ、レクチャーします。

「左腕でこうして、右脚でこう」

「え?」

気がつくと、Rはケガ一つなく、

床に仰向けに倒れていました。

視界には天井が広がり、何が起こったのかわかりません。

「え?え?どういうこと?」

「もう一回ゆっくりやろうか」

Rに手を貸して立たせて、スローモーションで再現。

今度は、Eが実験台になって

RがEを倒すのを何度もやりました。

 

「やり方、わかった。

 ・・・でも、もしかしたら、違うやり方でくるかも」

「うん。そうだな。ケンカはランダムだしな。

 じゃあ、基礎の構えも覚えておくか?」

「ランダム?基礎?」

 

リビング横のキッチンで皿を洗うKが呆れて、

「E。ほどほどにして」と声掛けします。

「血が騒いじゃって」とEは苦笑いし、

Rはぽかんとしました。

 

「父さん、ケンカ強いの?」

「少しだけ。若い頃ちょっとな」

「じゃあさ、攻撃も教えてよ」

「いいよ。じゃあ、まず、オレを本気で殴れ、こぶしで」

「えっ」

「ほら、来い。そいつだと思って。全力で」

Eは左頬を少しRの方に傾けます。

 

「・・・できないよ」

「悔しかったんじゃないのか?いいから!」

 

Rは、◎に殴られたときの気持ちを思い出して、

グーにした右手でEの顔をパンチしました。

横に一旦流れたEが顔の位置を戻すと、

左頬が赤くなっています。

 

「ごめんなさい・・・僕・・・」

「いいんだ。オレがやれって言ったんだから。

 R、人を殴るって、嫌な気分だよな? 

 手も痛いだろう?」

「うん」

「だったら、それは覚えなくていいんだよ」

 

 

(続く)