小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
【百輪村】
D(大工)        大吾  デイビッド
F(Dの弟子)       文也  フランク
G(Dの弟子)       弦   ジョージ
 
 
【草切村】
ダズン(Dの見習いたち) ←元不良グループ名
 
M(ダズンの元ヘッド)   正道  マックス
N(Mの父・大工N組の棟梁)  紀道  ニック

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない意味(1)

 

 

ダズンたちが今日の持ち場に散っていったところで、

親方のDが、FとGとMだけを道具置き場に呼びました。
 
近付いてきた3人の愛弟子に、
Dが机に置いてある自分の道具を指さしました。
 
「F、これは、
 オレの親父が使ってたトンカチだ。
 G、これは、
 オレの親友のCが譲ってくれたのこぎりだ。
 M、これは、
 オレが初めての給料で買った愛用のカンナだ。
 お前たちにあげるよ」
 
「そんな大事なものは、もらえません」
Gが即座に辞退すると、
「お前たちにこそ、持っていて欲しいんだがなあ。
 まあ、いらないなら、捨てるけどさ」
とDが言うので、3人は慌てて受け取りました。
 
Mは、カンナを抱きしめ、しくしく泣き出しました。
「なんか、お別れみたいで辛いですよ。
 ずっと、オレたちの親方でいて欲しいのに」
 
「別にお別れじゃないさ。ただ立場が変わるだけだ。
 建築から足を洗うわけじゃないんだし。
 いつまでもオレたちは仕事仲間ってことだ。
 これからもよろしくな、3人とも」
 
Dが、Mの背中を優しくたたくと、
Mは服の肩口で涙を拭きました。
 
「オレが、その道具で何を伝えたいと思ったか、
 これまでの付き合いから何を感じるか・・・
 ひとりひとり教えてくれないか?」
 
Dが3人の顔をぐるっと見渡してそう言うと、
まず口を開いたのはリーダーのFでした。
 
「おいらは・・・。
 
 親方がこのトンカチで
 釘を打っているのを初めて見たときに、
 『自分もやってみたい』って強く思ったんす。
 
 だから、このトンカチを見るたびに、
 初心にかえって挑戦する気持ちを呼び起こすっす」
 
 
今度は副リーダーのGが言いました。
 
「僕は、早く一番になりたくて、いつも焦ってました。
 
 でも、のこぎりを早く動かし過ぎて、
 スタックしてしまった思い出が残っています。
 
 なので、頂いたのこぎりを見るたびに、
 自分に『焦るな』って言い聞かせようと思います」
 
 
ダズンのヘッドだったMは
しばらく考え、思いをまとめました。
 
「オレは、人の上下関係に、とてもこだわっていました。
 
 けれど、今日、親方がその役割をおりたとき、昔、
 オレもダズンのヘッドをやめたことを思い出しました。
 
 それから、以前、リーダーを誰にするかでもめたことも。
 
 本来、人には、上下関係なんていらないのかもしれない。
 
 そんな役割が無くても、仲良くやっていける、
 ・・・そんなふうに感じました。
 
 このカンナと仕事とを絡めて、
 フラットに場を収めることを肝に銘じます」
 
 
Dは、ひとりひとりの言葉に大きく頷きました。
 
「すげえなあ、お前たち。
 オレが言いたかったことよりも、
 でかいことを言うから、もう言う事ねえよ。
 
 まあ、要するにーー
 道具や作品、人との出会い、っていうのは、
 自分の内側を、新しくつくったり、
 変えたり、見つめ直したりするための
 フックにもなる、ってことだ。
 
 意味は、自分で与えていいんだよ。
 
 これからも、頑張ってくれな。以上だ」
 
4人はスクラムを組み、これまでの感謝を言いあい、
そして新たな進路を決めました。
 
 
(続く)