小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
【百輪村】
E(村長&小学校教諭) 栄一  エデン
K(理容師・Eの妻)   加恵  カーラ
R(EとKの息子)    陸 ライアン(ジュニア)
D(大工)        大吾  デイビッド
 
【草切村】
J(元キックボクサー)  純  ジャック

 

 

では、どうぞ。↓

 

見えない背中(3)

 

 

「うちの妻を撮影しましたか?

 無断でそういうことはやめていただきたいのですが」

 

カメラマンは、悪びれもなく、Eに言います。

 

「あの女性のご主人様でいらっしゃいますか?

 突然シャッターを切ってしまい、申し訳ございません。

 私、こういうものです」

 

Eが受け取った名刺には、プロダクション名と

カメラマンの名前が載っていました。

 

Eは、ハッとします。

「・・・あの有名な写真集の?」

 

「はい。”傷跡ビーナス”の本を出しております△△です」

 

事故や病で体に傷を負いながら

たくましく生きる女性をフレームで切り取る・・・

そんな写真集を作っている有名なカメラマンでした。

 

「 被写体を探して偶然この浜を歩いていたのですが、
 あまりに美しく、気づけばシャッターを切っていました。

 

 できれば、ちゃんとしたスタジオで、

 後世に残るような作品を撮りたいのですが、

 ご許可をいただけますでしょうか?」

 

「・・・それは、ちょっと・・・」

 

「もちろん、ご主人様としては不服でしょう。

 ですが、一度、ご本人様にご確認をいただけますか?」

 

パラソルの下でRを抱っこしているKの所へ、

Eとカメラマンが近づいていきます。

 

パーカーを着たKは「え?何?何?」と驚きますが、

カメラマンから話を聞いて、呆然としました。

 

「わ、私の背中を?写真集に?」

 

「はい。ぜひ、モデルになっていただきたいのです。

 モデル料はきちんとお支払いします。

 

 差支えがあるのでしたら、

 お名前は伏せさせていただきますし、

 お顔もわからないように致します。

 

 ・・・ただ、あなたの公表の勇気が、

 他の人の励みになることもあるのです。

 どうぞ、快いお返事をいただけないでしょうか?」

 

「K。断ってもいいんだよ」

眉をひそめたEが、少し早口で言います。

 

「・・・。考えさせてください」

とKが言うと、カメラマンは名刺をKに渡しました。

 

「お心が決まり次第、ご連絡をお願いします。

 急ぎませんので、いつまでもお待ちしております。

 

 今日、うっかり撮ってしまった写真は破棄しますので、

 どうぞご安心ください。

 

 こちらも名の売れたプロですので、約束は守ります。

 なにとぞよろしくお願いします」

 

カメラマンは深く頭を下げ、その場を去りました。

 

Kはじっと名刺を見つめます。

「・・・私の背中が・・・だれかの励みに・・・」

 

そんな様子を見て、Eは激しく動揺していました。

 

(Kの背中を、全世界の人が見る・・・?

 冗談じゃない。

 Kは、商品なんかじゃない)

 

いつもは冷静なEも、Kのことになると、

穏やかではいられません。

 

「K、そろそろ夕方だから、民宿に戻ろうか」

 

「え~、パパ、もう海、終わり?やだやだ~」

とRが駄々をこねます。

 

「ジュニア、明日もまた泳げるよ」

 

そう言いながらも、

Eの胸のざわつきは消えませんでした。

 

 

(続く)